トップ(top)

ウースターのマーク一覧


 ウースター(1751年設立)では、1760年以前には、会社としての統一マークは明確な形では存在しなかった。用いられていた各種マークは、絵付師や金彩師などの技術者の識別マークである。
 また、1760年以降も、
ドクター・ウォール期の色絵作品は、大半が無銘であったことに留意する必要がある。逆に、スクエア・マークや三日月マークは、他国・他窯で盛んにコピーされた。
番号 マーク 名称・年代・サイズ 説 明
1 三日月マーク(crescent)
1760‐92年頃
サイズは様々だが、ウォール期には5o程度
 ウースター独自の統一マークとして最も早く導入されたものであるとともに、ウースターを代表するマークとして長期に渡って使用されたものである。一般に「三日月マーク」(crescent mark)と呼ばれ、染付け(underglaze blue)で描かれている。
 マークの由来は必ずしも明らかでないが、ウースターが本社を置いていた「ウォームストリー・ハウス(Warmstry House)」の旧所有者であったウォームストリー家の紋章の一部に三日月が用いられていたことによる、というのが有力説である。
 本マークは手描きであるため、大きさや形に多くのバリエーションが存在する(一般に、フライト期(1783年以降)には、より小さなサイズで記された)。また、金や赤で描かれたものや、手描きでなく印刷されたもの、三日月の内側が塗りつぶされたものなどがあり、作品の種類により使い分けられていた。
 本マークは、1760年代には染付け作品にのみ使用されており、色絵作品に用いられるようになったのは1770年以降のことである。
2 Wマーク(W)
1762‐75年頃
縦5o程度
 ドクター・ウォール期ウースターのもう一つの独自マークで、ウースターの頭文字をとったものである。いかにもウースターを代表するマークという趣なのだが、実際には使用頻度はあまり高くなかった。
 染付けの縁模様を持つ作品にこのマークが用いられるようになったのは1770年代のことである。
 本マークも手描き(染付け)であるが、1770年代前半の青単色のプリント花柄などの作品には印刷されたWマークが使用された。
3

交差する双剣
(crossed swords)

1765‐75年頃
縦2〜3p程度
 マイセンの双剣マークは各国で盛んに模倣された。英国の各磁器窯でも同様で、左のマークは、そのウースター・バージョンである。もちろん贋作を作ることが目的ではなかったが、より評価の高い大陸風に見せたいという願望は(当時の英国窯全てに共通するものとして)あったと考えられる。
 ただ、このマークは染付けで描かれていることから磁器を焼いたメーカー(すなわちウースター社)で付けられたことは確実であるが、絵付けや金彩がどこで行われたか(ウースター社自身か、ジェームズ・ガイルズ工房に代表される部外絵付会社か)については専門家の間で論争があり、未だ判然としない。(ウースター「W1」参照。)
 本マークは、下向きに交差された2本の剣と、剣先の間に記された9及び点(場合によっては短い線)とで構成されている。剣の鍔の部分は鉤型になっている。さらに、このマークはかなり大きく描かれており(縦2〜3p程度)、これらの点から、本家マイセンのマークと混同される恐れは少ない。

 なお、ウースターは、これ以外に仏セーブルやシャンティイ、それに英国内ではチェルシーのマークもコピーしている。
4



スクエア(四角雷文)
(fretted square)
1765-90年頃
一辺数o程度
 本マークは、一般に「四角雷文(fretted square mark)」又は単に「スクエア・マーク」と呼ばれ、やはり染付けで描かれている。手描きであるため多くのバリエーションが存在する点も、この時期の他のマークと同様である。
 上述のとおり、ウースター社独自の統一マークは上記1と2である。その他数多く存在するマークは、他国・他窯のマークを下敷きにしており、作品の種類に応じて使い分けられていた。
 本マークは東洋磁器のマークの応用であり、原則的には、東洋(中国や日本)の図柄が描かれた作品に使用されている。しかし、三日月マークと並んで使用頻度の高かった本マークは、実際にはウースターを代表するマークとして、かなり広範な図柄に使用されている。
 1760年代には染付け部分のない色絵作品(例えば「ベンガル・タイガー」(ウースター「W5」参照。)にしか用いられなかったが、1770年頃までにはスケール・ブルーを始めとする染付け部分を持った作品にも使用されるようになった。
 このマークは、英国と欧州大陸とを問わず、大量にコピーされた。(全般的に言って、英国磁器は大陸作品と比べると贋作ははるかに少ないが、チェルシーの錨マークと、ウースターのこのスクエア・マークは例外である。)特に、大衆的に人気の高い「スケール・ブルー地にファンシー・バード」といった作品でこのマークを付けたものには贋作が多いので、注意が必要である。
5

1792‐1804年頃
(フライト&バー期)

 1983年以降ウースターは、トマス・フライトによる単独経営(この時期のマークとしては、「Flight」という社名に三日月をあしらったものや、数字を変形して東洋風のマークに見立てたものなどが用いられた。)であったが、1792年にマーティン・バーが経営に加わり、社名も「フライト&バー」となった。その際に導入されたのがこのマークである。2人いる経営者のうち1人のイニシアルのみをマークに用いるというのも変な話だが、これがこの時期の代表的マークである。(この他に、「F&B」というマークもあるが、使用頻度は低かった。)
 ウースターでは、それまで染付けのマークが中心であったが、この時期以降、刻込みのマークが基本となる。このマークは手刻みであるため若干のバリエーションはあるが、Bという文字の下半分が大きく膨らんでいる点は共通している。ときに、Bの横にXや一本線が刻まれていることもある。本マークは浅めに刻まれていることが多く、さらにその上に釉薬がかけられていることもあって、かなり注意して探さないとマークを見つけられないこともある。(写真でマーク周辺が茶色や緑色に変色しているのは、マークの写りを良くするために修正処理したことによるもので、本来は単純な白磁である。)

6

1804‐13年
(バー、フライト&バー期)
 フライト家とバー家の出身者で順繰りに経営が受け継がれた時代は、社名もそれに合わせて律義に変更された。「バー、フライト&バー」期には、王冠の下に3人のイニシアルを並べた刻印が基本となった。刻印なので、基本的には均一のマークである。
 なお、特注品などには手書き(あるいは印刷)で社名と住所を記したマークも用いられた。
7

1813‐40年
(フライト、バー&バー期)
 「フライト、バー&バー」という順序で経営者が並べられた時期のマークである。上記6のマークのイニシアルの順序を新社名に合わせて変えたものである。社名と住所のマークも社名を変更しただけで継続して使用された。


番号 マーク 年代・サイズ 説 明
8 1862年-現在
(ロイヤル・ウースター社)

 このマークの原型は、1852年の「カー&ビンス」社設立により導入されたものである。1862年の「ロイヤル・ウースター」社の発足に当たって、マークに王冠が加えられた。マークの下の社名及び"ENGLAND"の文字は、1891年に加えられたものである。
 このマーク(原型)は、上記1(三日月マーク)及び2(Wマーク)の2つのウースター独自マークを組み合わせて、さらにドクター・ウォール社の設立年である1751年の下2桁を加えて図案化したものであり、同社がいかにウースターの伝統を重視していたかが分かる。本マークはプリントされたものが多いが、刻印のものもある。
 なお、1867年以降は、このマークに製造年を示す記号を添えるようになった。当初は、マークのすぐ下にアルファベットの大文字をAから順番に加えていった(製造年の下2桁を加えたものもある)が、その後、点の数(さらには、星や丸などと組み合わせた点の数)などで年を表すようになった。ちなみに、写真は点が王冠の左右及び文字の下に合計で20あり、1911年を表す。