コラム12.損傷と価値
陶磁器コレクターの中には、作品のコンディション(傷や修復がないか)に強くこだわる方がいます。私自身は、作品の形や絵付けなどの特徴の方がよほど重要で、貴重な作品(あるいは勉強になる作品)であれば割れていようが欠けていようが関係ないと思うたちなのですが、残念ながら賛同していただける方はそう多くないようです。
ジェフリー・ゴッデン氏(「コラム6.Godden or God?」参照)は、損傷は作品の「価格」には影響するが作品の「価値」には関係ないと自身の著作の中で言っていますが、そのゴッデン氏が研究対象として集めた"Reference Collection"のブルー&ホワイトの作品群が、近くボナムス社のオークションにかけられます。ある親切な方が、そのカタログを私に譲ってくださいました。(オンラインでも見られるのですが、紙のカタログで美しい写真をじっくりと見るのは格別です。)彼の著作で発表済みの作品が主体ですが、オークション・カタログでは、各作品のコンディションへの言及があります。そこで、ゴッデン氏がどこまで「傷もの好き」だったか、簡単な統計をとってみることにしました。
今回のオークションでは、書籍や発掘された破片群を除いて、磁器作品は全部で199ロットあります。このうち、何らかの損傷があると記述されているのは135ロット(全体の68%)です。多くはひび(crack)や欠け(chip)といった軽微な損傷ですが、それ以外のものも47ロット(同24%)あります。また、修復が施されているものも32ロット(同16%)に達しています。大ざっぱに言うと「7割近くが傷もので、4つに1つはかなりの傷、6つに1つは修復されている」という感じです。
ゴッデン氏は「有言実行」型だったと言えるかと思いますが、ただ「ゴッデン・コレクション」というプレミアムがつくため予想価格がかなり高めに設定されており、損傷が「価格」にも影響しない、という皮肉な状況となっているのは残念なことです。
(2010年6月掲載)