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第一回「自来也小町」
原作:「自来也小町」
   (『自来也小町』より)
脚本:松平繁子
演出:伊豫田静弘
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[あらすじ]
 夜の江戸の町を男が一人で歩いている。と、後ろから若い男が、牢人者に追われ
て駆けてきた。牢人たちは若い男と、先に歩いていた男を取り囲み、斬り掛かる。
巻き込まれた男・宝引の辰は十手を抜き、牢人の刀を受けとめた。
「おい! 岡っ引きと知ってのことか!」その隙に若い男は逃げ出した。彼を追う
牢人たち。彼らが去って行った後、辰は道に落ちていたものを拾った。
 花札、八月は坊主の札であった。

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 両国広小路の宮前座では顔見世狂言の「自来也」がたいそうな人気である。見廻
りに小屋の近くを歩いている辰に男がぶつかって来た。辰は彼の腕をねじり上げる。
素走りの銀次というこの掏摸の狙いは、昨夜、辰が拾った坊主の花札。事情を訊こ
うと引き立てようとした時、銀次の首筋に小柄が突き立った。騒ぎに紛れ、角に立
っていた御家人風の男が立ち去った。
 長屋へ辰が帰ると、家に押し込みが入っていた。押し込んだ御家人は、何も盗ら
ずに出て行ったらしい。そこへ、本物の自来也が眼鏡問屋虎戸屋に押し入ったと、
手先の松吉が駆け込んできた。盗まれたのは矢型連斎の描いた蛙の絵。虎戸屋が百
両で手にいれたものだ。掛け軸からは絵が切りとられていて、「自来也」の文字が
残されている。同心・能坂の言うには、これで「自来也」に押し込まれたのはこの
虎戸屋で三件目とのことだ。
 自来也の狙う連斎の蛙絵が書画会に出品されている。辰は書画会に案内してくれ
た女性に、
「これは変哲もない只の蛙。こんなものを描いていたとは、驚きましたね」と言う。
 彼女もこの絵は落書きだとこき下ろした。彼女は手習いの師匠をしている白桜と
名乗った。
 会場へ「自来也小町!」との声と共に娘が入ってきた。元締めの日比野信兵右衛
も入ってきて蛙の絵の競りが始まった。絵を二百両で競り落としたのは「自来也小
町」と呼ばれた、大阪屋の娘・秀。「こんなの持って帰っちゃあ、怪盗自来也が押
し入りますよ」との言葉にも「本物の自来也様に会いたい」とうそぶく。
 蛙の絵を買った大阪屋で、八十になる隠居が死んだ。葬儀に乗じて自来也が来る
かも知れないと、辰は大阪屋に張り込んだ。

 その夜……。
 辰は忍んで来た男を捕らえたが、その間に掛け軸が盗まれる。屏風には「自来也」
の文字が書かれていた。秀は、蛙の絵を競り負けた秋田屋が怪しいという。秋田屋
へ行った帰り道、辰は虚無僧に襲われた。狙いは花札のようだ。花札からは書き付
けが出てきた。その翌朝、秋田屋に盗賊が入った。金千両と蛙の絵が盗まれ、番頭
が斬り殺されていた。自来也ではなく、江戸に入ってきた盗賊・辰巳の利兵衛の仕
業と辰は考えたが……。

                   (以下原作のネタバレになるので省略)


[みどころ]
 ・悪党の手に捕らえられた辰と父親との会話。後を継がせたことを後悔する父と
  辰の交流。
 ・正体の判明した自来也と辰との、最後の会話。


[原作との比較]
 原作での語り手は当たり狂言「自来也」の作者・二亭。書画会で辰に、怪盗自来
也騒ぎについて意見を訊かれる。原作では秋田屋のエピソードや盗賊・辰巳の利兵
衛のエピソードは登場しない。あくまで自来也騒動について書かれている。また、
矢型連斎は蛙の絵のみ残した謎の絵師である。
 この話、原作では屏風に書かれた「自来也」の文字が手掛かりにもミスディレク
ションにもなっている。「自来也小町」は、まさにその一点を中心に作られた作品
である。
 テレビでは、放映第一回ということもあり、盛り沢山の趣向になっている。ただ、
それが時代劇によくある、例のパターンになってしまい、その上、中心になるべき
「自来也の正体」が霞んでしまうという、なんとも焦点のぼけたものになってしま
っている。また、肝心の屏風に書かれた文字についても、全くミスディレクション
の役をなさず、そのまま手掛かりの方の解釈を言ってしまう。そのため、辰が自来
也の正体を見抜くまでに視聴者に判ってしまい、辰が愚かに見えてしまう。それと、
辰が花札を拾ったのをどうやって悪人が知ったのかという疑問が残る。普通なら、
あの花札は逃げおおせた算治が持っていると考えるのが普通であろう。どうもこの
脚本家、「テレビ時代劇とはこういうものだ」という妙な誤解があるようだ。
 今回の脚本では、算治が辰の長屋に入るいきさつが描かれている。だが、こうい
う形で描いてしまうと「とんぼ玉異聞」の放映の時、どうするのだろうか?
 第一回で放映時間が長いのだから、妙な脚色をするよりも、原作をじっくりと描
いて欲しかった。
 時代考証について。この脚本家は御家人が幕臣の一身分であることを知らないの
だろうか? そうでなければ「御家人に襲われた」などという科白は出てこないだ
ろう。あと、芝居の顔見世の季節だというのに「本年もよろしく」との科白。三座
での顔見世は毎年十一月。まさか両国の小屋だからといって、一月や二月に顔見世
をやる筈はなかろう。顔見世が一月でなく、年末に行われるのは現在も同じ。もう
少しものを調べてから書いて欲しい。最後に、黒船を率いた提督の名前。当時の日
本人が「ペリー」と発音していただろうか。確か「ペルリ」だったと……。


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