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第二回「雪の大菊
原作:「雪の大菊」
   (『自来也小町』より)
脚本:松平繁子
演出:伊豫田静弘
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[あらすじ]
 雪のちらつく夜。小舟が一双、大川に浮かんでいる。乗ってるのは若い男と女。
「芳さん、私を放さしちゃいやよ」
「大丈夫だ、放しゃしねえ」二人はお互いの手を手拭いで繋いだ。二人がまさに死
のうとするとき、季節外れの花火が開いた。

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 朝、辰が歩いていると橋で老婆がたたずんでる。鶴という名のその老婆を家まで
送ろうとしたところに手先・松からの知らせ。盗賊・雪の九郎兵衛が海産物問屋福
佐屋に押し入ったとのこと。早速辰は現場へ赴いた。
 奉行所へ行き、手引きしたものがあるかも知れないと報告したところ、もう一つ
の事件が持ち上がっていた。岡引きの男十郎の母親が拐かされたということだ。よ
く聞いてみると拐かされた母親は、さっき辰が会った老婆であった。
 そのころ、福佐屋では……。
 内儀が首を縊って死んだ。内儀こそ、辰が盗賊の手引きをしていたと睨んだ女だ
った。内儀は手引きをする積もりなどなかった。陰間茶屋の「伊勢」という男と逢
引きするために家の裏木戸を開けておいたところ、九郎兵衛一党が入ってきたのだ。
「女心を利用する許せねえ奴」と辰は憤る。

 翌日の夜、未廻りに出ていた辰と松、大川にさしかかると、小舟が一双浮かんで
いる。舟では若い男女が今にも心中しようとしていた。
 と、そこへ花火が上がった。
 九郎兵衛を見つけた辰。追いかけるが舟で逃げられた。押し込まれた家は相馬屋
という店であった。川で舟を浮かべていた娘は、相馬屋の娘だった。
 娘・おりんは足袋職人の芳次と心中する積もりであったが、花火が破裂した音を
聞いて憑き物が落ちたらしい。心中する気がなくなって、戻って来たという。おり
んが家を抜け出していたから、賊は易々と家に入ることが出来た。足袋職人の芳次
も賊の一味では? 察した辰が松を聞きにやらせたところ、芳次はもう逃げた後だ
った。
 同心・能坂に報告したところ、辰は昨夜上がった花火を調べてくれと言われた。
真冬になぜ花火を上げるのか……。
 その日、大川で花火見物をしていた家がある。おりんの嫁ぎ先、遠州屋であった。
その遠州屋に、陰間茶屋の男、無何有がやってきた。果たして、陰間茶屋と九郎兵
衛との関係は……?

                   (以下原作のネタバレになるので省略)


[みどころ]
 ・美形の陰間に京本政樹。これが陰のある陰間・無何有に見事にはまっている。
 ・男十郎親分と呆けかけた母親の関係。辰と父親に「老い」とはなにかというこ
  とを考えさせる。


[原作との比較]
 原作では足袋職人・芳次の一人称で語られる。勿論、彼は盗賊一味ではない。若
い二人が心中しかけたところを花火が上がり、心中を諦めたところから話が始まる。
芳がおりんを送って帰ったところ、相馬屋に賊が入って辰が賊を捕らえたのを目撃
する。
 つまり、盗賊一味は、あくまで芳次とおりんを辰に引き合わせる役でしかない
(このシリーズでの辰の役所は、あくまで狂言廻しである)。そして、この話の眼
目は、なぜ冬に花火を上げたのか、である。そこに結ばれぬ男女の恋、人の真心を
描き、一つの短篇となっている。
 ではテレビ版は、というと、既成の「捕物帳ドラマ」ふうにしようとして泡坂妻
夫の謎とトリッキィな解決、江戸の市井の人々の心の機微、そういったものを総て
無視した脚色と言わざるを得ないと思う。あえて褒めるとすれば、この話に挿入さ
れた男十郎親分と母親のエピソード。原作にも出ていた「老い」というものを、別
の形ではあるが現している。
 しかし、この話、本当に時代考証してるのかね。原作者が一所懸命江戸を再現し
たところを、全く骨抜きにしてくれてる。話し言葉が現代語なのは仕方ないにして
も、「大川」というところを(おそらく昭和以降に一般化したと思われる)「隅田
川」としたり、原作での「野郎茶屋」を知ったか振りで「陰間茶屋」としたり。大
体、陰間茶屋というのは、男が陰間を買うところなのであって、女が行く筈ない。
商店の内儀なら、まづ役者買いになる筈。それを意識して原作では「野郎茶屋」と
いう設定をしたのに、全く判ってないとしかいいようがない。


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