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第三回「雛の宵宮」
原作:「雛の宵宮」
   (『凧をみる武士』より)
脚本:松平繁子
演出:佐藤峰世
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[あらすじ]
 糸物問屋の大和屋。女中の栄がしじみ売りからしじみを買っている。台所に行く
と中から彼女を呼ぶ声。行ってみると雛人形が倒されている。
「ひどい。誰がこんなことを」
「ともかく、女将さんに知らせておいで」

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 千両町、辰の家でも雛人形を出している。だが、辰と女房は子分の松吉が娘に気
があるようだとやきもきしている。辰は松吉を見廻りに連れだした。と、浪人者が
町人に絡んでいる所に出くわす。町人は大和屋の娘・糸と供のものだった。
 長屋で辰は大和屋の内裏雛が夜な夜な歩き出すという噂を聞いた。丁度そこへ大
和屋の内儀が、娘を助けてくれたお礼に現れる。
 その夜……。
 娘が女雛に呼び寄せられるように雛人形の置いている間に入ってきた。翌朝、や
はり雛が倒れて、内儀が階段から落ちる。左大臣の所まで落ちていた女雛は、内儀
が階段から落ちることを暗示していたのだろうか? そして、倒れた左大臣は女中
のお定のことでは……?
 辰は大和屋に呼ばれた。縁で辰と内儀のおさきが話していると、夢遊病者のよう
に歩いて来た。そこへ怪我をしたお定がかつぎ込まれる。
 その夜、雛の間で辰と松吉が番をしている。松吉が居眠りをしている間に男雛が
落ちていた。そこへ夢遊病者のように娘が現れた。気になった辰は大和屋の様子を
見に行ったが、大和屋は娘の簪で刺し殺されていた。娘はどこかへ消えた後だった。
 大和屋の内儀は後妻で、先妻は病を得た時に土蔵に閉じこめられて、そこで死ん
だとのこと。先妻の思いの篭もった雛人形が娘に乗り移って、大和屋を殺したのだ
ろうか。そんな話をしているところ、内儀の幼なじみ、福富町の弓屋が悔やみに現
れた。弓屋は娘・糸の嫁入り先であった。
 川で辰が釣りをしている。釣りから帰って辰は大和屋へ。内儀に娘が帰って来る
のを見かけた人がいると伝える。大和屋ではその時、またも雛人形が倒れた、今度
は五人囃子の篠笛。店には忍という奉公人がいた……。

                   (以下原作のネタバレになるので省略)


[みどころ]
 今回は特にないが……。
 ・辰の歳が四十一と判明する。
 ・辰が釣りに出かけたのを知って父と女房が慌てる。以前に辰は十手を持つのを
  嫌がり、行方知れずになったことがあった。その時、辰は釣りの道具を持った
  ままで消えたのだ。「あいつは、十手を持つのが厭なんだろうなぁ」という父
  の言葉には重みを感じる。

[原作との比較]
 原作では女中の栄が語り手。娘の糸は原作には出てこない。原作では三度まで雛
人形が動いた後、相談を受けた辰が謎を解く、一種の安楽椅子探偵ものになってい
る。また、原作では主人殺しは起こらない。動かされた雛人形がいわば暗号となっ
ていて、その解釈を巡るロジックがこの話の眼目となる。
 テレビ版では原作にない殺人を加え、夢遊病者の娘と忠義者の手代というエピソ
ードを挿入した。「犯人」も原作とは違っており、主要な登場人物の二人までが性
格に変更を加えられている。殺人があったほうが良かったかどうかは意見の分かれ
るところだろう。ただ、殺人事件を入れることで犯人がすぐに判ってしまい、話が
薄っぺらになってしまった感は否めない。人形を巡るロジックの改変は、それなり
に面白い部分もある。もっとも、改変されたロジックに(原作に比べて)致命的な
欠陥があるのも事実だが。笑う雛人形とそれに引き寄せられる娘という「怪談」風
の演出については、この脚本家が「ミステリ」を誤解しているとしか言いようがな
い。
 で、例によって時代考証。松吉が「親殺しは磔獄門」というが、どうやってこの
二つの刑が両立出来るのだろうか? それと、彼が腰に下げてる「捕者帳」。捕者
帳は奉行所の裁判記録。原作者も「人間を描きたい」ということと同時に奉行所の
記録が正確には捕者帳と呼ぶことからこの題を付けた筈。勉強不足もいい加減にし
て欲しい。
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