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第五回「蒼い瞳の疑惑」
原作:「夜光亭の一夜」
(『自来也小町』より)
脚本:松平繁子
演出:片岡敬司
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[あらすじ]
女が後ろ手に縛られ、横たえられている。男がそれを引き起こし、
「やい、浦里、時次郎に通われては、親掛かりなら勘当を受け、主持ちならし損な
うは知れたこと」彼は女を突き倒す。
「いっそ添われぬものなれば、一緒に死にたい時次郎さん。殺して下んせ。わしゃ
死にたいわいのう」
「このアマ!」男は彼女を責め苛んだ。
* * * *
評判の女手妻師・夜光亭浮城の噂が天庵でも出た。照月は千両長屋の人を全員招
待、手妻を見に行くことにした。
席亭「割菊」では満員の中を前座の手妻師・立田一門が演じている。二階桟敷で
は千両長屋の面々が観ている。席亭の入り口で辰が座っていると、目明かしの男十
郎が母を背負って現れる。辰は桟敷へ上がった。
浮城の前座を勤め、楽屋へ戻る一門。彼はすれ違った浮城を睨みつける。
いよいよ舞台は夜光亭浮城の葛篭抜け。「明烏夢泡雪」が囃される。遊女・浦里
に扮した浮城が現れた。
そのころ、下の帳場では「割菊」の主人・多久兵衛が箪笥の側から離れ、天井を
見上げていた。
「いっそ添われぬものならば、一緒に死にたい時次郎さん。……」
浮城が葛篭に入れられ、じっと皆が見守る……。
と、二階の床が抜けた。騒ぎの中、主人の多久兵衛が死んでいるのが見つかる。
男十郎が死体の側に屈みこんでいた。天井から落ちた材木に頭を打ったのだろうと
いう男十郎。だが辰は近くにある鉄瓶を手に取った。血が着いている。
「旦那はこれで殺られたらしい。……殺しだな」
楽屋には席亭の面々が集められている。辰は尋問を開始した。
最初は下足番の千吉。彼は「割菊」の内儀と入口で話し込んでいた。次は立田一
門。
「天井が落ちた時ですね? 二階におりやした」
「二階といえば舞台か」
「へい」彼は舞台の上手で夜光亭浮城の芸を見ていたと言う。その浮城は、
「あの時は出の合図がございませんでしたので、ずっと葛篭の中におりました」
合図は囃し方が務めることになっていたが、その時は合図のできる状態でなかっ
たという。
浮城は幕が閉まるまでずっと葛篭に入っていたという。だが、金は浮城の鏡台か
ら出てくる。辰は、「下手人の目星がついた」というが……。
(以下原作のネタバレになるので省略)
[みどころ]
・「割菊」の囃し方に本職の奇術師「ナポレオンズ」の一人が出演。NHK教育
テレビで「マジック講座」を担当している彼をドラマに出すところなどは、結
構楽しめる(ひょっとして、思い違いかもしれないが)。
・夜光亭浮城を演じた九手堅ティナ。ゲストの中でも一番の熱演だろう。
[原作との比較]
原作の語り手は「割菊」の同業の席亭「むら咲」の主・鈴木辰三郎。立田一門は
噺家。話の前半、「割菊」の舞台風景から尋問までははほぼ原作通りである。
後半、話がコロンボ(古畑)調になる。今までの話を見ていても感じたが、この
脚本家、推理小説(特にパズラー)というものを理解しているのだろうか? 「夜
光亭の一夜」は、市井の人情を描く話の多い『自来也小町』では、パズラー色の強
い一篇だけに、そのまま映像化して欲しかった。たった一つの手がかりで犯人が判
明する、そのために作者は尋問シーンに気を遣っている。なのにこの脚色では活か
されていない。その辺の無神経さはどうにかして欲しい。
浮城の後日談は、ファンとしては描いて欲しかったものの、これは省略するのが
妥当でしょうね。
照月の言葉遣いが多少気になった。現在においても間違えた言い方である「とん
でもございません」という言葉を江戸の人間に喋らせるのはどうにも感心しない。
現代のテレビである以上、登場人物が現代語を喋ることはしかたない。でも、それ
にも限度というものがある。あまりに現代的過ぎる言葉は納得できない。
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