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第九回「とんぼ玉秘聞」
原作:「とんぼ玉秘聞」
   (『凧をみる武士』より)
脚本:松平繁子
演出:片岡敬司
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[あらすじ]
 満月の夜。武士が一杯機嫌で道を歩いている。彼は手に持った玉を月の光にかざ
した。と、後ろで物音が。真顔になった武士は振り向いて、
「誰だ! 出てこい!」だが返事をしたのは猫の声。「気のせいか……」
 また歩き出した彼は、牢人二人に挟まれているのに気付く。斬られた武士の側で、
さっきの玉が青く、月の光に輝いていた……。

      *       *      *     *

 柳原通りで若い侍が斬られた。辰のもとに注進に来た松吉は、どうも見たことの
ある顔だと言う。よく算治の所に訪ねてきていた侍だと。その算治は、昨日から帰
って来ていない。
 屍体の所へ行ってみると、屍体は消えている。地面には血が染みており、どうや
らどこかへ動かされたらしい。辰は道の側に落ちていた青い玉を拾った。
「とんぼ玉か……」

 その頃、算治は寺の境内で武士と会っていた。彼は、殺された男の家に泊まって
いたのだった。算治はその仲間の武士から彼の死を知った。その武士の仲間は、今
までにも二人殺されている。「気をつけることだ」と武士は算治と別れて去って行
く。
 算治は彼を引き留め、殺された男の家で見つけた玉を見せた。高価な、御禁制の
とんぼ玉。算治は武士に、何かを隠してるのではと詰め寄る。武士は「これ以上首
を突っ込むな!」と言い捨てて去って行った。
 長屋へ帰った算治は、煙草入れを取り出した。
「やっぱりな……」煙草入れの根付は、さっきの玉と同じだ。見ていた鉄五郎は算
治を問い詰める。
 算治の持っていた根付は、父の形見だった。算治の父は勘定方、お目付役配下。
なぜその父の形見に禁制のとんぼ玉があるのか、算治にも判らないという。

 その頃……。
 千両町の自身番では、辰と同心の能坂が話していた。市中に禁制のとんぼ玉が出
回っているという。少し探ってみて欲しいとと能坂は言う。縁日の道具屋で与吉と
いう男がとんぼ玉を持っているという知らせを受けた辰は、早速出向いて行った。
与吉は、深川島田町の古道具屋の佐吉から手に入れたという。だが、辰が出向く前
に、その話を鉄五郎も聞き込んでいた。
 鉄五郎が佐吉の店に現れた。算治の根付けを出して、とんぼ玉を扱っていないか
と聞く。鉄五郎の応対をした番頭風の男、主人に取り次ぐと言って、奥へ消えてし
まった。そこへ松吉を連れた辰が現れたが、店の中は鉄五郎を残してもぬけの殻だ
った。
 長屋へ帰った辰の元へ松吉が、佐吉の店に勤めていた女を探し出したと報告しに
来た。辰は長屋を飛びだした。
 天庵では算治が、もとの父の同僚から父がなぜ左遷されたかについて話を聞いて
いた……。

                   (以下原作のネタバレになるので省略)


[みどころ]
 ・捕らえられた辰と松吉との脱出と、最後の大立ち回り。
 ・犯人の最後の告白。やや過剰かなとも思える演技ではあるが、これはこれで胸
  を打つ。


[原作との比較]
 原作では小普請衆・斧算治郎守茂が語り手。父の形見のとんぼ玉と同じ玉を道具
屋で見つける。その玉を探っていた辰に、植木職・算治と名乗って、父のとんぼ玉
の出所を調べてもらう。裏には、何者かに陥れられて徒目付から小普請入りさせら
れた父が、なぜ禁制品のとんぼ玉を持っていたのかを探ろうという意図があった。
原作では、佐吉の下働きの女の名前はおぬい。お時にしたのは、「おぬい、実は…
…」というのでは話がややこしくなるとの考えからか。
 また、原作ではとんぼ玉が「房州、洲崎の沖ノ山」で取れることになっている。
原作での辰はその意味をちゃんと見通して、最後に悪人を一網打尽にしてしまう。
その点では、テレビの辰はなんとも間抜けに見える。だが、最後の大立ち回りを考
えれば特に文句を言うほどでもないかも。
 算治がなぜ宝引の辰の子分になったかという顛末を語った原作であり、そのまま
映像化してもいいような話ではある。すでに「自来也小町」で算治が千両町に来て
いるので、今回のような脚色になったのだろう。致し方ないことではある。ただ、
算治の父が左遷されたということが前もって触れられていないので、父の同僚に左
遷された理由を訊くところが、なんとも唐突になってしまっている。それと、原作
での「沖ノ山」を「小高い丘」に変えたのは、改悪以外の何物でもなかろう。とん
ぼ玉についての講釈も、あとで辰が真相を知る伏線となるのだが、これも活かされ
ていない。「だから辰は捕まったんだ」では言い訳にもならないだろう。
 もともと原作が映像的な作品なので、テレビでの脚色も、それほどに原作との肌
合いの違いを感じることはなかった。隅々まで気を配る原作に比べ、細部に無神経
なのは今に始まったことではないので、諦めるしかないか。
 時代考証について。今回は、そんなに気にしないで観られた。目付衆が供も連れ
ずに出歩くとか、薬種(くすりだね)を「やくしゅ」と読んだりするとかは、特に
気になるほどでもない。それより、気に入ったのが御用提灯。北町奉行所の御用提
灯をきちんと再現していた。あれを見て「?」と思う方もいると思うが、あれが正
しい提灯の図柄なのです。


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