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第十回「南蛮うどん」
原作:「南蛮うどん」
(『びいどろの筆』より)
脚本:松平繁子
演出:佐藤峰世
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[あらすじ]
男十郎が夜に辰の家を訪ねて来た。長屋の辺りまで曲者を追い詰めたので挨拶に
来たとのこと。だが、生憎と辰は留守。男十郎が帰ったあと、柳は裏手に浪人者の
影を見る。障子を開けて庭を覗いたが、裏庭には誰もいなかった。
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浪人者は算治の家に入ってきた。彼は算治に匿ってくれと頼む。鉄五郎が辰と一
緒に家まで帰って来たときには、算治と浪人はいなかった。
翌朝、算治は辰に「会って貰いたい人がいる」という。彼が出て行った所へ、昨
夜辰が祝言に出た雁金屋の世司郎が来た。祝言では長屋の人たちが賄いをやってく
れたのでお礼に天庵で一席設けるという。「南蛮うどん」を食べて貰うというのだ。
辰と算治は、男十郎の目を逃れて浪人に会った。小野田というその浪人は、五年
前に算治に助けられたことがあったという。その小野田に男十郎は目を付けている。
辰が天庵に行った時には、もう宴会は始まっていた。丁度出来た南蛮うどんは、
中に穴があいている。天庵で辰たちが南蛮うどんに夢中になっているのを見た男十
郎は、二人の武士を長屋に引き入れた。
脱藩者を討ちにやってきた武士から逃れ、小野田は外へ飛び出した。
その頃……。
天庵では雁金屋の世司郎が南蛮うどんの講釈をしていた。長屋の一同もうどんを
食べる。と、急に世司郎が苦しみだした。
「こりゃぁ、毒飲まされた」辰はいう。世司郎は死んだ。犯人は宴にいた中にいる
ことになる。
辰は、南蛮うどんに鼠取りの毒を仕込んだものが殺しに使われたと考えた。だが、
鼠取りは苦く、口にいれただけで判る筈。世司郎は南蛮うどんを噛まずに呑んでい
た……。
(以下原作のネタバレになるので省略)
[みどころ]
・「別の人生」。小野田の生き方とそれに対する算治の生き方。侍としての自分
に生きようと決意する算治の姿。
[原作との比較]
原作は夢裡庵先生捕物帳の一篇。探偵役は照月。吉原の花魁を身請けして嫁にす
なった世司郎。その縁談をまとめる相談の後の宴会で南蛮うどんが出る。世司郎は
座興にと手妻をやっているさなかに死ぬことになっている。そして、ストーリィに
はこの手妻が重要な役を果たす。
テレビではこの話、算治を旅立たせる動機付けをするためだけに作られたように
見える。と、いうのも、犯人から動機から解決から、全く原作を変えてしまってい
るのだ。原作では犯人の動機と人情味溢れる解決、その伏線となる手妻が特色の筈。
なぜそれらを全く無視し、ああいったありきたりの犯人像にしたのか理解に苦しむ。
強いて理由を考えれば、算治の旅立ちに当たって「もう一つの人生」というのを小
野田浪人との対比で見せたかったのかも知れない。だが、もともと算治はそういう
キャラクターではない上に、算治が町人になった動機まで否定する結果となってし
まった。将棋の師匠も、単に新レギュラーを紹介するためだけに、無理に出したよ
うに思えて仕方がない。ここまで原作を脚色してしまえる脚本家の腕と神経には、
ほとほと感心させられる。
時代考証については特にいうこともない。「俺は岡っ引だ」の一言で、侍の斬り
合いを無視することが出来るとはとても思えないが、それは時代考証ではなく常識
の部類だろう。
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