******************************
第十一回「かんどう息子」
原作:不明(乞情報)
脚本:松平繁子
演出:伊豫田静弘
******************************
[あらすじ]
朝の千両長屋で、辰は鉄五郎に「旅に行かないか」と誘っている。油問屋・立田
屋の勘当された息子を保土ヶ谷まで迎えに行くことになったのだ。少し足を伸ばせ
ば鎌倉。柳、景も一緒に行くので、鉄五郎もどうかという。鉄五郎は、返事を言い
淀んでいる間に、行かないことにされてしまった。
* * * *
辰と柳・景が東海道を下っていた。と、早瀬川で子供が、流した水筒を拾おうと
しているのを見つける。辰はその子に水筒を拾ってやる。子供は母親と旅をしてい
た。
茶店で休んでいる柳と景に男の二人連れが話しかけている。景が「連れがいる」
というと彼らは出て行った。辰が二人に追いついて休んでいる時、さっきの子供が
やってきた。子供に付いて行くと、母親が苦しんでいる。今はの際に彼女は辰に、
息子・辰次郎亡きを夫の在所へ連れて行ってくれるよう頼んだ。在所は保土ヶ谷、
権太坂の庄屋・次郎左衛門。
保土ヶ谷宿。先に旅篭に着いた柳と景は、街道筋を二人組の拐かしが出ていると
聞かされる。ふと見ると、さっきの二人連れがいる。景は、その二人が拐かしでは
ないかと疑う。
辰は子供を連れて、権太坂の庄屋宅に現れた。着いてみると、庄屋とは言いなが
ら小さな家である。事情を話したが次郎左衛門は、息子の辰吉は勘当した、この子
を連れて出て行ってくれという。
「勘当すれば親でもない子でもない。子のない者に孫のいるはずがない。この子を
連れて出て行って下さらんか」怒った辰は次郎左衛門宅を出て行った。
急に雨が降りだした。雨宿りしていた辰の所へ辰次郎が追いついてくる。
「おっ母ぁの所へ連れて行け」と、子供はいう。
その夜……。
辰と柳が話をしている。もしこの子の引き取り手がなかったら、自分が引き取っ
てもいいと柳。辰は、どうせなら血のつながった祖父に育てさせたいが、という。
長屋では鉄五郎と能坂が二人で呑んでいた。
翌日、辰は権太坂へまた行った。辰吉の勘当の理由を近所の百姓から聞いている。
辰吉は婚礼の夜に駆け落ちしたという。残された花嫁は自殺し、花嫁の両親も寝付
いてしまった。その治療のため次郎左衛門は家屋敷を手放したという。辰は次郎左
衛門に会うが……。
(以下省略)
[みどころ]
・次郎左衛門の告白。庄屋としての意地と親心を訴える。鉄五郎が能坂に言った、
辰と別居した理由とともに、親の心というものを考えさせられる。
[感想]
原作が不明なので「感想」ということになります。今回は事件もなく、謎もない。
次回「形見の宝刀」(原作「旅差道中」)で江ノ島から江戸への帰路を描くために
この話を作ったのかもしれない。とにかく推理的要素の全くない話ではある。
今回の一番のみどころは次郎左衛門を演じる長門裕之であろう。一見頑固であり
ながら子への愛情と庄屋としての意地との間で揺れ動く父親像には打たれるものが
ある。そうであればこそ、最後の立田屋の勘当息子の姿と死んだ辰吉とを重ね合わ
せることになり、勘当されても幸せであったと、視る者を納得させる。
ただし、あくまでこの効は役者に帰するものかもしれない。ストーリィはどちら
かというと、「ありがち」な話であるし、いくら惚れた女のためとはいえ、花嫁一
家を悲惨な目に遭わせた辰吉が「幸せだった」では、ちと納得できないものがある。
拐かし一味については、ストーリィ上全く役に立っていない。ギャグとしても不発
であるし、ミスディレクションとしてもお粗末である。
時代考証については、今回も言うことはない。細かいことを言い出せばきりがな
いのであろうが、そこまで酷いとは感じなかった。ただ、一つ気になったのは、鉄
五郎を誘ってから辰が旅に出るまで何日掛かったのかということ。普通、日本橋を
夜明け前(七ツ)に発つし、その前に町役人から道中手形を貰わなければいけない
ので、当日や翌日ということはないと思うが……。
ストーリィガイドに戻る
第十二回へ