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第十二回「形見の宝刀」
原作:「旅差道中」
   (『自来也小町』より)
脚本:松平繁子
演出:伊豫田静弘
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[あらすじ]
 東海道を下る辰親子を誰かが遠眼鏡で伺っている。
「三人連れか。親子だな……お大尽とまではいかないが、まあまあ小金は貯めてい
る。よし、狙ってみる価値はありそうだ」遠眼鏡の男は松の木陰から出て来た。

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 藤沢で団子を食べている辰親子。柳は辰に「帰りくらいはお役目は無しに」とい
い、景は、いっそ他の人間になってしまえばどうかという。辰は料理屋の入り婿、
柳と景はその内儀と娘という趣向だ。と、そこへさっきの男が入って来た。自分は
長崎から帰ってきた写真師だと、辰親子にいう。辰と柳、景が店を出て行った時、
若い虚無僧が彼らを見ていた……。
 辰親子に付いて行く写真師・連次。彼は辰に、自分は婿志願なのだと話す。写真
屋を開くにも金がない。いっそ婿養子に、ということだ。と、彼は、松の木に走っ
て行き、木陰で休んでいた男の脇差に足を引っかけてしまった。
「図々しい胡麻の灰じゃ。役人に引き渡してやる」
 同行していた商人風の男がまあまあと取りなしている。写真師は旅人が腰掛けて
いた松の根元に生えていた茸を取ろうとしたのだという。薬用になるのだと。松の
木の上には蜂の巣がある。辰親子と連次はその場を逃げだした。
 保土ヶ谷宿。部屋が足りないので連次と辰親子は相部屋ということになった。と、
宿に現れたのがさっきの二人。彼らも相部屋になる。商人風の男は内藤新宿で乾物
を商っている伊勢屋安右衛門といった。もう一人の男・惣兵衛は、さっきの刀を、
「これは大切な品だから、気をつけて預かって下さいよ」と、店の亭主に預けた。
そこへさっきの虚無僧も現れ、七人で相部屋ということになった。
 皆で酒を呑んでいるとき、急に惣兵衛が苦しみだした。蜂に刺されたのが原因だ。
彼は辰に、自分がもし死ぬようなことがあったら、帳場に預けている刀を「川崎・
藤屋のお妙さま」に渡してくれという。
 往診に来た医者は、「手の施しようがない。待つしかない」と言って帰って行っ
た。
 惣兵衛の息のある内に川崎まで知らせたほうがいいと、辰は宿の亭主に刀を持っ
て来させた。刀を持ってきた亭主は妙な顔をしている。預かった時と重さが違うと
いうのだ。預かったときはずしりと刀身のある重さだったという。だが、刀を抜く
と中身は竹光。誰かが刃をすり替えたのか。「お妙さま……」とうわごとをいう惣
兵衛。外では門付けが歌っている。
 宿改めが現れた。盗まれた刀身を詮議するというのだ。相部屋の誰からも、刀身
は出てこない。外部の者の仕業かと言い、役人は引き上げて行った。
 翌朝……。
 やはり内部の仕業と、辰は宿で足止めを喰らっていた……。

                   (以下原作のネタバレになるので省略)


[みどころ]
 ・安右衛門と辰との会話。彼の身の上話にはほろりとさせられるのだが……。
 ・妙の口から聞く惣兵衛の動機。その惣兵衛を送る妙と辰。


[原作との比較]
 原作での語り手は日本橋丸屋孫兵衛の店の者で新吉。彼が宿下がりから帰る途中
連次と出会う。辰親子は江の島に行った帰りに保土ヶ谷宿で相部屋になる。安右衛
門は江戸茅場町の袋物問屋の番頭ということになっている。また、妙は新吉原江戸
町二丁目・紀ノ字屋にいることになっている。また、脇差は新吉に預けることにな
っていて、惣兵衛もすぐに死んでしまう。
 今回は、新吉を登場させないだけで、原作にほぼ忠実に作ってある。原作での新
吉は、語り手としてのみ必要であった。そういう意味では、今回、新吉をなくした
脚色は、人物をすっきりさせる意味でも、望ましいと思える。推理ものとしても、
原作のミスディレクションがそのまま活かされている。犯人逮捕劇が原作と違うが、
これは脚色の方が映像向きかもしれない。ただ、共犯者だけは頂けなかったが……。
あと、気になったのは連次の扱い。冒頭の印象があまりに強く、「婿志願」と言わ
れても、なかなか納得しにくいものがある。それと、メインの脇差で、原作と違う
部分がある。映像化の都合で変えたのだろうが、ミスディレクションがやや不自然
になったのは否めない(どう違うかは、ネタバレの虞れがあるので言えないが)。
 総じて、レギュラーを全部出そうとする余り原作の雰囲気を壊しがちなこのシリ
ーズにおいて、辰親子の三人しか出ない(江戸の話も少しは出るが)この話は、原
作の雰囲気、パズラー趣味を活かせている点で、充分に納得の行く出来になってい
る。新吉の田舎でのエピソードも見たかったが、これは贅沢というものだろう。
 時代考証については、それほど問題もない。金で買われた宿場の飯盛りを、どう
やって連れ出す事が出来たのかというのは疑問ではあるが。ただ、一つ気になった
のは、冒頭の連次の科白。「江戸へ上る」と言っていたが、京から江戸へは「下る」
ものの筈だ。


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