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第十四回「死者の調べ」
原作:「目吉の死人形」
   (『鬼女の鱗』より)
脚本:松平繁子
演出:片岡敬司
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[あらすじ]
 若い娘が、首を吊って揺られている。と、その娘の目が開いた。
 夜の町屋を辰が歩いている。長屋に入ったところ、そこで後ろを向いていた女が
振り向いた。顔の半分が爛れている。驚いた辰は井戸の方へ後ずさった。井戸から
生首が飛び出した……。

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 幽霊で辰を脅かすという景と初のいたずらで、長屋は大騒ぎ、そこへ松吉が「首
吊りがあった」と駆け込んできた。ぎっくり腰になった辰の代わりに鉄五郎が現場
にやって来た。首には紐の食い込んだ跡が。これは殺しだと鉄五郎は言う。死んだ
のは井筒屋の娘・涼。井筒屋は主人夫婦が死んで、大番頭の吉蔵が店の差配をして
いる。その吉蔵の息子が婿に入り、店を継ぐことになっていた。番頭の息子は、今、
上方に奉公に出ているという。

 娘が死んだとき、大番頭は寄り合いに出ていた。店に帰った時、彼は三味線の音
が離れでしているのを聞いた。
「おや、こんな時分に常磐津のおさらいですか」彼は下女・幸にいいつけ、寄り合
いで貰った羊羹を涼に届けさせた。三味線の音が止む。下女が離れに行った……。
 屍体を見つけた下女は叫び声を上げた。

「すると、お前が寄り合いから戻った時にゃあ、まだ生きていた。お幸が離れへ呼
びに行く間に、お涼さんは首を吊った。そういうことになるな」
 そこへ、常磐津の師匠・小智太夫が悔やみに現れた。
 鉄五郎は小智太夫に話を聞きに行った。涼は、死んだ日の昼、彼に連れて逃げて
くれと言ったという。彼は断ったが、「死ぬほど思い詰めていると知っていたら…
…」と言い、涙を流した。
「調べりゃ調べるほど殺しの線は薄くなるな」辰や能坂は言うが、鉄五郎は、自分
が殺されたという彼女の声を聞いたと言い張る。
 丁度、江戸では人形師・目吉の生人形の見せ物の模様替えを行い、涼の首吊り現
場を出すという。

 夕刻……。
 井筒屋に小智太夫が文を遣わした。それを読んだ吉蔵は、離れで、何かを探した。
 その夜、小智太夫を訪ねた鉄五郎と能坂は、毒を呑んで死んでいるのを見つけた。
屍体のは足袋のこはぜのようなものを握っていた……。

                   (以下原作のネタバレになるので省略)


[みどころ]
 ・ひたすら事件を追う鉄五郎。いわゆる「老刑事の勘」パターンではあるが、今
  までの話ではコメディ・リリーフとしてのみ働いていた鉄五郎の、今回の活躍
  には打たれるものがある。


[原作との比較]
 原作は『宝引の辰』シリーズの第一話。
 原作での語り手は、屍体を発見した植木屋の若旦那。死んだ娘の名前は姚。彼が、
以前に自分の所で働いていた算治という若い男に誘われ、目吉の生人形を見に行く
のが発端。犯人も原作とテレビでは違う。犯人のトリックを見破るのは能坂。この
話では探偵役が能坂で、辰はあくまで助手の立場である。また、短篇集『自来也小
町』以降レギュラー入りする算治も、ここではチョイ役に過ぎず、辰の手先である
ことが判るのも話の最後になってからである。
 テレビ化に当たって犯人が変えられたが、これは改悪以外の何者でもなかろう。
あの犯人を出すために、原作の井筒屋の設定まで変えてしまっているが、なぜそこ
までして犯人を変える必要があったのか、理解に苦しむ。殺人が二つないと50分持
たないと考えたのだろうか? それなら、脚本家の力量を疑わざるを得ない。この
変更のため、被害者や原作の犯人の性格にも変更が加えられているが、これも不見
識というしかない。原作で犯人が仕掛けるトリックは、やや不自然ではあるものの、
一応、そういうことをやってもおかしくない人間に設定されている。だが、テレビ
ではその辺が全く考慮されていない。また、犯人を引っかけるためのトリックだが、
その一つを景に喋らせたのは無神経としか言いようがない。それに、正面切って犯
人を問い詰めるという見せ場を作ろうとしてか、犯人を心理的に追い詰めて自白さ
せる原作の工夫を無視している。夏を意識したような怪談風の味付けは何をかいわ
んやである。
 テレビでのストーリィは「老刑事の勘」という、いわばパターンものであり、そ
の辺も脚色に見るべき物はない。テレビが、それなりに視るに耐えるように仕上が
っているのは、ひとえに小林桂樹の芸の力によるものであろう。
 時代考証については、今回、特にいうこともない。ただ、時代考証ではないが、
原作を読み返して気付いたのだが、原作での能坂の紋は源氏車になっている。テレ
ビでは、丸に違い鷹の羽になっている。トリビアルなことではあるが、原作者の職
業を考えると一概に無視も出来ないので、一言申し上げる次第。


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