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第十九回「メキシコ・ダラ」
原作:「改三分定銀」
   (『鬼女の鱗』より)
脚本:松平繁子
演出:山神裕
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[あらすじ]
 天庵。浪人者が一人で酒を呑んでいる。彼は照月に勘定を払った。だが浪人の払
った金は、照月の見たこともないものだった。入って来た松吉に照月は金を見せた。
「こいつは、どこで手に入れなすった?」松吉は訊くが、侍はそれには答えず出て
行く。追いかけようとした松吉は、表で人にぶつかり尻餅をついた。

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 自身番で浪人の残した金を見た能坂は、メキシコ・ダラだと言った。一ダラが一
分銀三枚に相当する。天庵でのいきさつを聞いた能坂は、横浜で起きた強盗事件に
ついて話した。糸物問屋の番頭二人が強盗に襲われ、メキシコ・ダラで三百両奪い
取られたというのだ。番頭を一刀両断に殺した強盗は江戸に立ち回った形跡がある。
能坂は辰に「頼むぞ」と言った。
 長屋で辰は、頓鈍から吉原でメキシコ・ダラを遣う侍がいるという話を聞く。早
速彼は吉原に行った。

 夜……。
 吉原で辰は妙な男を見た。彼は通りすがりの二人連れにぶつかり、扇子を落とし
た。その扇子を返して、そのまま歩いて行こうとする時、
「掏摸だ!」松吉の声が響いた。掏摸を追いかける松吉。辰が追いついた時にには、
松吉は掏摸を見失っていた。財布を投げつけて、その隙に逃げたのだった。
 吉原で店を出していた植木屋が辰に話すには、掏摸の名はがっこの芳という。
「それはともかく、これをすられた若い男はどこへ行った?」なぜか姿が見えなか
った。
 四郎兵衛小屋で財布の中身を改める辰。中からは三十両程の金と一緒にメキシコ
・ダラが出てきた。と、急に表が騒がしくなる。女郎が足抜けしたのだ。
 さっきの二人連れが大門を出て行く。後ろからがっこの芳が見ていた。
 辰は遣り手からメキシコ・ダラについて聞いていた。それを遣ったのはむさ苦し
い侍だという。その侍はさっきまで廓にいた。待っていた女郎・菊山が足抜けした
と聞いて、いなくなったという。名前は夏木長三郎。
 菊山の朋輩から辰は事情を聞いたが、彼女はなにも話さなかった……。

                   (以下原作のネタバレになるので省略)


[みどころ]
 ・算治が帰ってきた。


[原作との比較]
 原作の語り手は辰。「宝引の辰」シリーズ第一期の最終話。吉原の草市に来てい
た辰と松吉は、掏摸の現場を目撃する。その掏摸・がっこの芳を取り逃がした後で、
財布をすられた二人連れも姿を消したのに気付く。財布の中には妙な金が入ってい
た。それが「めきしこだら」。掏摸だけでなく足抜け騒ぎもあったその日の翌朝、
神田堀で芳の屍体が見つかる。その時能坂から横浜での強盗の話を聞く。また、原
作では四郎兵衛小屋の番人は金魚の岩治といい、「幽霊大夫」(『凧をみる武士』
所収)にも出演している。
 原作と違い、映像ではメイントリックがすぐに判るのは仕方がない。だが、その
ために話の前半でネタを割ってしまっているのは考え物だ。多分脚本家は、メイン
トリックが映像上すぐにばれてしまうので、話の構成を変えて「めきしこだら」の
エピソードを先に持って来たのだろう。だが、その結果、遣り手に「めきしこだら」
の持ち主のことを訊くという、推理物では考えられないような構成上のミスを犯し
てしまった。その結果と、加えてネタを割ってしまった為とで、原作の一種のアリ
バイ・トリックも省略されてしまった。また、芳を殺した犯人が原作とは違うが、
犯人を「人殺し」にしたくなかったので、こうしたのだろうか?
 あと、算治は吉田松陰を訪ねてから長崎に行くことになっていた筈だが、なぜか
今回の話では吉田松陰が伝馬町で処刑されたことになっていた。一体にシリーズの
整合性というのを考えているのだろうか?
 時代考証について。第一回でも指摘したが、この脚本家、御家人という言葉を誤
解しているとしか思えない。御家人はあくまで徳川家に仕える者。「仕官している
下級武士」という意味ではない。「御家人くずれ」というのも、単に浪人者を指し
ていうものでないことくらいは常識だと思うのだが。それと「ダラ」と「ドル」が
今回の話では錯綜していたように思える。その辺も見識を疑ってしまう。蛇足なが
ら、メキシコ三分銀が流通したのは吉田松陰の刑死後のことであることを付け加え
ておく。


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