前立腺炎



 何と二年続けて暮れに尻に指突っ込まれるっていう快挙を演じてしまった。    
 去年はイボ痔で。
 行った医者が、ついでに直腸癌の触診もするっていうところで、頼みもしないのにいきなりズボ。
「あうううぅぅっっ」
 ほんと、尻が破れたかと思ったくらいの突上げで、あたかも堕胎のときのクランケのような格好をさせられていた僕の視線は虚空をさまよい、両手はしっかと握りしめていたのだった。
 尻に物を詰める楽しみは、その後しばらく座薬というものをいれポンしていたので、実をいうとあった。オット!あぶねえ、あぶねえ。ヤバイ発言だぜ。でも、イボがなくなった春あたりから徐々に堯門のほうもデンタライオンも使ってないのに引締まってきていて、キュッキュッ、ってな感じになってきていたのだ。
 それが、今度は…
 今年は、前立線炎だっていいやがる。なんなんだ、この追い討ちは。
 いつも自分ン家だとオシッコしたとき、尿道の圧迫を十分に取り除いたあと、最後にトイレットペ―パ―で最先端をチョッチョッってふいて、切れの悪いときに発生する二〜三ccチョロチョロ流れを防ぐのだけれど、十二月の初めにそのトイレットペ―パ―にうっすらと「アカアミ十%」ってな感じで色がついたのだ。
「あらま、血尿!! 腎臓でも悪いのかしら。慢性腎炎かネフロ―ゼかなんかで、そのうち人工通析を週に二回はしなければならない不幸な体になっちゃって…」
 そう考えると目の前真っ暗。思わずクラッと立ちくらみ。しかし、人妻でもないのにクラッとヨロめいてもいられない。診察券コレクタ―としては直ちに泌尿器科へ行ったのですね、これが。
「そこに横になって」
 そこというのは、カ―テンで看護婦の視線さえも遮ってしまうベッドのことだ。
「ぜ―んぶ下まで降ろして」
 ぜ―んぶ、というのは、説明は要らないだろう。
 それから、仰向けになったまま膝を抱込むような態勢にさせられて…
「ちょっと気持ち悪いかもしれないけどガマンして……」
 というなり、ズボッ!ときた。はじめは触診からとばかり思っていた甘い考えは、風速40メ―トルで地球の裏側まで吹っ飛んでしまった。
 しかも、中に入れた指(むろんビニ―ルのようなものでプロテクトされていましたが)をグリグリとかきまわし、それがなかなか終わらない。
「オッオッオッ、アッッツツツ…セ、センセ、反則、反則、おっ、ととと。あうっ。ま、ま、まだでですすくわっっっつう、あっ」
 はっきりいって、この荒療事にはもだえてしまった。恥ずかしかった。ちょうど一年をおいて、またまた尻に指突っ込まれる自分の運命が、宿命を感じさせ、因縁をニガニガしく思っていた。
「なぜだ!!」
 二〜三分続いた尻穴グリグリが終わったとき、僕は虚脱感と堯門の痛みとで息づかいだけが荒々しく、他はピクリとも動けなかった。動くと、尻から何かが出てきそうに思えたからだ。
「もういいよ。全部上げて」
 冗談じゃあない。動けるものか。
「あ―っ、あっあっあっ」
 という小さなつぶやきとともに、僕はヨタヨタとベッドから何とか降り立った。

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