歯科医
歯が痛くなったので、歯医者に行った。
5年前に治した歯だったけれど、12月の冷たい水道の水が針のようにしみて、このままほっておけばますます悪くなるのが目に見えていたからだ。
下に銀行があるビルの4階にその歯医者はあった。
5年前に治したのもこの歯医者だった。
受付でそのむね告げて、暫く待った。
この医院のいいところは、初回に予約がなくても診てくれるところと、それから、若くて並以上の綺麗所を揃えていることだ。ただし、その分技術にたどたどしさがあるところだ。これが、ヤバイ。
悪い歯をほじくったあと、そのほじった内面にサフラインとかいう薬を塗って20分ばかり寝たまま乾かす。そして、そこに仮のかぶせを嵌め込むのだ。そのかぶせだけれど、まるっきり本物みたいで、銀色をしている。それを、外れない程度の強度の接着剤でくっつけておいて、一週間後にまた薬を塗りにやってくる、というわけなのだ。
ただし、一ヵ所に1ミリ程のでっぱりがあって、歯から外すときにそこを手掛かりにするのだ。
一度、完全に初心者、ってなふうの女の子が僕の仮のかぶせを外すように先輩の女の子にいわれ、カチャカチャやってたんだけど、その子、「おかしいなあ、外れないんですよ」てなふうに先輩の子を見た。
先輩の子がきて「どれどれ」といった感じで僕の口の中を覗いたのだけれど、要するにぜんぜん別の歯を外そうとしていたのだ。治療済みの、本当のかぶせが嵌まってるのを外そうと躍起になっていたって訳だ。
どうも、おかしいなあ…って、僕もうすうす感じていたのだけど、女の子ふたりのやりとりは「これはいいの」「えっ!」「ほら」「あ!」「ね」「はい」…てなもので、いくら小声でも露骨なのだ。
この程度なのだ。
だから、ヤバイ。
わかっていても、知っている、という理由だけで、その歯科医にいくわけだ。