2002年9月29日(日)


■恵比寿-白金高輪



●まずは落語を聞いてから

体調がよくない。腹が下り気味で、しかも、けだるい。風邪を引いているのか、汗も多め。が、昨日は一日中家にいたし、外気に触れないと。12時でかけて上野広小路。新装なった本牧亭にお客が吸い込まれていく。もっとも、じいさんばかり。しかし、がらりと開け放たれた戸口から、中に座っている客の姿が丸見えだ。あんな、上がりかまちが客席になっているのか? 前の料亭のときよりも少し広いと聞いていたのだけど、やっぱり窮屈そうだ。そんなようすを横目で見て、落語協会2F。春風亭栄助の落語会。こちらは、客数6人。料金500円。体調を心配しながら1時間30分ぐらい。湯島駅から日比谷乗り換えで恵比寿に着いたのは3時すぎだった。

●知り合いの個展へ

Atreへのエレベーターを上って東口へ。なんか、凄い遠回りのような気もするなあ。地上をまわった方がよかったかな。東口近辺はあまりむ来たことがない。知り合いが近くのギャラリーで個展を開いているので、義理というかつきあいというか。ははは。みずほ銀行とKinko'sのあるいびつな十字路。その、Kinko'sの横にするりと滑り込むような横道がある。マンションや店もあるけれど、静かな空気が流れている道だ。そこを入っていくと右手にギャラリー。浜辺に流れ着いた木や貝、プラスチックなどを拾い集め、それを素材に造形物をつくっている。彼は一貫してずっとこのテーマ。今回は、その作品がリトグラフのような額に入って飾られている。聞いたらPhotoshopで加工してマット系の紙に出力したと。でも、プリンタ出力したように見えない。そんな話をして、15分ぐらいで辞す。もとの変形十字路にもどるが、このまま駅に戻っても次にすることがない。6時から「喜多八の稽古風景」があるけれど、体調の方も心配で、入るかどうか分からない。ちょっと考えて、進路を東にとることにした。さっきの道と、ほぼ平行して東に走る大通りだ。

●東へ、東へ

しばらく歩いたら、左手にガレージのような、ファサードをトタンで覆われた店が現れた。もとは自動車整備場だつたみたいな感じで、でもネオン管で店名(忘れた)が書かれている。入り口付近にもテーブルがあって、客が会話をしていたりする。ごく普通の通りに、こういうレトロでクールな店があるのが面白い。そのまま歩いていくと、見覚えのある模型店が現れた。右を見ると、なだらかな坂の上にサッポロビール本社の後ろ姿が見える。ガーデンプレイスの端っこだ。広尾の都立中央図書館から歩いて、サッポロビール本社地下にある恵比寿麦酒記念館にいくとき、何度か通っている。記念館にはできたてビールが飲めるテイスティング・ラウンジがあって、市販されていない4種類のビールが飲めるお試しセット(400円)がある。ちょっと前まで、そのお試しセットの1つだったグレープフルーツ・ビール。それが独立して200円のグラスで飲めるようになったのは、うれしい。ほんと、このグレープフルーツ味のビールは、おいしいのだ。それに、記念館入口でミニコンサートもときどき開かれていてくつろげる。けど、今日はビールが飲める体調じゃない。そのまま東進。

●腹が減ったので博多ラーメン

日曜日だから人通りも少ないし、車も多くない。とくに変わり映えのしない街路がつづいて、目の前に高速道路が現れた。クルマに乗らない僕には、何号線だか分からないし、どこにつながっているかも分からない。麻布の方につながっているのかな、と思ったりする。その高速の下に博多ラーメンの店があった。○の中に金という字が大書してある。それにつられて横断歩道を渡りきると、そこにもラーメン屋。店名は見なかったけど、こちらはつけ麺がウリらしい。あまりつけ麺は好みでないし、麺の量も多いかも知れないから、丸金に入る。客は1組みいただけ。時間も4時過ぎだし、そんなものだろう。博多ラーメン550円。麺をすするとき小さく切られたネギが気管に入りそうになって困った。麺の量が少ないから替え玉でもしようかと思ったけど、それだと今度は多すぎるような気もしてやめた。スープが美味しかった。

●台東区あたりと似たような街並みの白金

さてと。これまで歩いてきた道の延長線上には、頼りなげなアーケードがかかっていて、なんとか商店街と読める。その商店街につられて歩き始めるけど、商店なんかほとんどない。道幅が少し狭くなったぐらいなものだ。まだ町名は恵比寿だなあと思っていたら、ちょっと歩いただけで右手が白金6丁目、左手が白金5丁目になってしまう。リュックから小型の東京都地図帳をだして見るのだけれど、細かいところが分からない。いったいどの道を歩いているのか、混乱した。混乱しながらも、東に向かっていることは確かだったので、そのまま歩みを進める。天気予報では終日曇りのはずだが、晴れ間も切れ切れにみえるので、おおまかな東西南北もとりやすいのが救いだ。銭湯がある。突然、北里大学が現れる。初めて歩く道は、単調すぎるようにみえて刺激的だ。未開の地に分け入っていくような気持ちになってくる。路地がいくつか左手に見え、誘惑してくる。だらだら歩くほど体調はよくないのだから、と思いつつ、ふと曲がってしまう。弓なりな路地は短いもので、意外性はなかった。なかったけど、そこに人が佇んで話し込んでいたりして、東京の住宅地が感じられる。こうした街の表情は、谷中なんかと大差はない。たとえ住居表示が白金でも、そのエリア全体がお洒落な街じゃなくて、多くに昔からの貧乏人が住んでいたりするのだ。それを知って、なんだかホッとする。

●ちょっと脇道

さっきまで歩いていた車道となるだけ平行になるように、脇道を選んで歩く。突然、道路にはみ出して生えている樹木にでくわす。道から2メートルぐらいは出っ張っているか。道が拡張された結果だろうか。それにしてもよく生き残ったものだ。だが、地上1〜2メートルの部分はビニールで包まれていて痛々しい。老木の寿命も尽きようとしているのかも知れない。小柄な白人男性がベビーカーを押している。日本在住か。車の陰から、3歳ぐらいの少年が見えた。奥さんは東洋人のようだ。近所にアパートがある。6畳4.5畳台所に一家4人住んでいるのかな。白人が普通に家族と暮らす港区白金。けど、彼らは多分金持ちじゃない。三光小学校がある。前を女性2人が並んで歩いている。左はデニム地のスカート。お尻のポケットの四角いカタチはタバコか、携帯か? 右側の女性はちょっとだぶついたスラックス。別について行くつもりはないけれど、ずっと後を追ってしまう。お尻の揺れにしたがってデニムのスカートが左右に揺れるのが、ちょっと色っぽい。レンガ舗装された道に出ると、彼女たちは1軒のスーパーに入っていった。もしかしたら、親子だったかもしれない。そのスーパーの先には、丸正スーパーがあった。やけに奥行がなくて、外から店内全体が見渡せるという、変なつくりだ。壁に、コーヒー会社のポスターが見える。豊川悦司にヒゲのイタズラ書きがされているやつだ。初めて見たとき、本当のイタズラ書きだと思ったものだ。

●そして、白金高輪駅へ

そのまま元の車道に戻る。レンガ道は車道に向かっていて、その向こうに緑青に覆われた神社の屋根が見えたからだ。緑も見える。氷川神社とある。どこにでもあるな、氷川神社。そのまま東進。三叉路に出た。工事中だ。右手に高層ビル。が、交通標識には「支庁舎前」とある。ということは、あの立派な建物は、区の庁舎か。それも支庁。おい。それは立派すぎないか、と文句をつけたいほどのものだった。これも、バブル期に計画され、バブル崩壊後も計画が遂行された建物のひとつなのかも知れない。それに、道路の向かい側に大きな日本家屋がある。周囲を工事現場に囲まれて、孤高のように屹立している。その姿は、なぜかいかめしく、立派に見えた。旅館だろうか。昔の下宿屋だろうか。地図によれば三叉路の向こうに田町駅が近い。それにしても、この三叉路は広く、しかも、近くに横断歩道がない。左手に長い歩道橋があるのみだ。それを渡るのもしゃくに障る。歩道橋の先に信号が見えたので、そっちを渡ろうと歩き始めたら、左手に突然地下鉄の駅が現れた。白金高輪とある。南北線の延長でできた新駅だ。それにしても、現在の住居表示を2つくっつけただけの分かりにくい駅名だなあ。田町に行くか、ここから乗るか。ちと迷ったけど、地下鉄を選んだ。前を、インド人らしい3人組が歩いていく。彼らとは、溜池山王まで一緒だった。

[2002.09.30]

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