【目的】
本研究の目的は、以下の3点にある。
@時代状況の変化に応じた法改正の方向性を展望すること。
A安衛法を関係技術者以外(文系学部出身の事務系社員等)に浸透させ、社会一般への普及を図ること。
B安衛法に関する学問体系、安衛法研究のための人と情報の交流のプラットフォームを形成すること。
このうち、ABの目的の達成のため、条文の起源(立法趣旨、基礎となった災害例、前身)、関係判例、適用の実際、主な関係令等(関係政省令、規則、通達等)を、できる限り図式化して示し、現代的な課題や法解釈学的な論点に関する検討結果を記した体系書を発刊する。
【必要性】
1972年に現行の安衛法典が制定されてから50年近くが経過し、伝統的な災害の減少のほか、社会・経済条件の変化もあり、規制の主眼が伝統的な災害防止から労働者の心身の健康等に変化している。よって、従来は関係技術者が、災害分析の結果や、新たに開発された安全技術を新たな規制に反映させること等で適応性を保ってきた同法典に、企業や事業場の自律性の尊重のほか、歴史、思想、交渉、利害調整、管理、価値判断などの文科系的要素を反映させる必要性が高まっている。また、機械安全や建設安全等の伝統的な労災防止対策でも、一層の実効性確保のためには、行動科学などの知見の応用が求められる。
これは、現場、理論、学際、国際を踏まえた高度に知的な作業となるため、法学のほか、医学、工学、心理学など他分野の専門家が有機的に連携できる学術的なプラットフォームと、その基礎となる、関係技術者以外にも読解可能な学問的な体系書が求められる。
【特色・独創的な点】
既存の安衛法の解説書には、行政及び元行政官の手によるものが多いが、学術性、適用の実際への言及、(関係技術者以外の者の視点に立った)分かりやすさの3点を充たすものはない。学術論文として、小畑:法協, 112(2): 46-82,112(5):40-110,1995があるが、安衛法が純粋な公法であるとの立論を裏付ける法解釈学的論述であって、本研究目的には沿わず、その機能も有していない。
【期待される効果】
@当面の法改正の提案と、今後永らく、時代に適応した安衛法のありようを提案し続けられる専門家を養成するプラットフォームの形成。
Aそのプラットフォームの基礎となる体系書の発刊と、それを通じた社会一般への安衛法の普及。なお、長期視点での法改正の提案は、当該体系書に記載する方途も考えられる。
これらは、安全衛生行政に対し、専門的な情報提供、専門家人材の供給、施策の普及等の面で、継続的に、直接ないし間接的な貢献を果たし得る。