目的
本研究は、諸外国を対象とした専門的な比較法制度研究により、わが国における職域メンタルヘルス対策に関する法政策に寄与することを目的とする。
手法
従来一般的であった自律的比較法とは異なる手法を採り、わが国の産業社会・組織や個人に適応可能な学際的かつ実践的示唆の起案を図る。
1)法学者のみならず、関連領域の先端知見を有する専門家が協働することにより、法制度調査の精度を高めると共に、現場適応可能性と政策的合理性の高い示唆を導く。
2)法学者は、諸外国の法制度的側面と共に、その背景、特徴、効果について体系的調査を行い、比較法社会学的観点からの示唆(「第1次示唆」)を導く。この際、国による法体系の違いを踏まえ、産業ストレス予防に寄与する法を広く捕捉する。
3)2)の背景調査に際しては、法制度形成を促した科学的・疫学的エビデンスの存否や内容等を調査し、効果調査に際しては、公的支出のほか、民間支出、司法判断等を経た損害賠償支出なども捕捉し、特徴調査に際しては、法令上求められるストレス調査、ストレスマネジメント、違法性判断の規準や方法などに着目する。
4)第1次示唆をわが国に適応させる際に予想される難点等をピックアップし、適応可能性の高い示唆(「第2次示唆」)を練り上げる。具体的には、大手企業を主な対象としたアンケート調査と対面聴取を実施し、第1次示唆に関する意見聴取等を行うと共に現場問題事例などを収集する。ここから得られた知見を素材として班員全員の議論を重ね、実効的な現場対応策を踏まえた法政策形成への示唆を起案する(但し立法提案に限られない)。このようにして、トップダウン(法)とボトムアップ(現場)の両視点を踏まえた示唆を起案する。
5)適宜補充調査を行いながら総括を推敲すると共に、4)から即時に現場適応可能なQ&Aが蓄積されるので、問答集のエンサイクロペディアを作成する。メンタルヘルス対策には事例知識が不可欠なので、その完成により、メンタルヘルス問題の専門性を図る尺度への転用可能性も見込まれる。
以上のうち2)3)を2011〜2012年度、4)5)を2013年度に行う。
また、4)の企業等からの問題事例収集と回答に際しては、企業等と個人に関する情報保護のための人的物的措置を講じる。