住信為替ニュース

      

 第1000号     1993年 5月 14日(金)


1.ANOTHER EMS REALIGNMENT
 欧州からまたまたEMS再調整のニュースが飛び込んできました。ペセタの8%、エスクードの6.5%の切り下げ。来週18日のデンマークのマーストリヒト条約批准を巡る国民投票を前にしての再調整。国内経済不振と金利引き下げを見透かされて通貨の売り圧力を浴びるスペイン、ポルトガル両国が買い支え義務を放棄したことに伴うもの。昨年秋から続いている弱い経済国通貨の順繰りでの切り下げが現在も続いている。スペインは切り下げとパッケージで金利の引き下げを実施。今後も経済実態に合わない金利水準を維持している欧州諸国は、通貨切り下げと金利引き下げの必要性に直面するでしょう。
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 EMS再調整は、ドルを対欧州通貨で上昇させました。ドル・マルクでのドルの高値は1.6180マルク見当。ただし、1.62マルクは抜けずに、ニューヨーク市場の引けは1.6150―55マルク。欧州各国の金利引き下げは矢継ぎ早です。昨日もフランスが介入金利を0.25%引き下げ、スウェーデンも0.25%の限界貸出金利引き下げ。その前日には、オランダやオーストリアなどが下げている。こうした欧州各国の金利引き下げは、既に金利が底入れの気配を示しているアメリカや日本の通貨に対して、欧州各国通貨を弱める方向に向かうはずです。既に、G-7合意を受けて対ドルでは安定し始めた円相場は、対欧州通貨では上昇し始めている。

2.G-7 AGREEMENT......................SO FAR SO GOOD
 欧州通貨市場での一波乱にもかかわらず、ドル・円相場は今週後半の111円台後半から動かない展開が続いていて、昨日のニューヨークの引値は111円85銭見当。日本が休みだった4月29日のワシントンでのG-7(先進7カ国蔵相・中央銀行総裁会議)とそれに続く主に日銀の介入は、ドル・円相場を安定させたという意味ではとりあえずは成功だったと言えます。日本の通貨当局としはもうちょっとドルの高いレベルでの安定で安心したいのでしょうが、そもそも基調としては「経常収支が黒字の日本の通貨が徐々に高くなるのは容認」という政策トーンの中にあっては、輸出業者さんなどもよほど現在以上にドルが大きく反発するという確信がもてなければ、売値をそう上に上げてこない。ということは、ドルの対円での頭は重いということです。
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 アメリカからは、「経済はまだら模様だが、物価上昇圧力は一時的にも高まっている」ことを示す統計が出ています。昨日発表された4月の消費者物価は0.4%の上昇。予想は0.2%のアップ。その前の日に発表になった卸売物価も0.6%と予想を上回る数字だっただけに、直ちに金利が反応。指標30年債の利回りは6.95%を上回る水準まで上昇。
 しかしこのままアメリカのインフレが上昇を続けるかどうかは極めて疑問です。そもそも現在発表されている物価統計は、春にアメリカを襲った嵐の影響を強く受けたモノ。雇用情勢の悪いアメリカでは労働賃金も上がっていませんし、石油を初めとする産業基盤資材の価格は落ち着いている。市場の懸念が先走っている感が強い。

3.CHINESE ARE BUYING MORE GOLD
 こうした中で目立っているのが金相場の上昇です。今朝の日経新聞の3面にも「金急伸、投資資金が流入」という記事がある。副見出しに「米のインフレ懸念=個人も買い意欲」―――。今朝段階の金相場は368ドル。この日経の記事が書かれた時点より既にオンス当たり8ドルも上昇している。昨年の金相場の安値は326.80ドルでしたから、約13%の上昇。
 金相場の上昇の背景には、いくつもの要因が考えられます。まず大きいのは、世界的に投資資金の投資対象が著しく限られてきている中で、10年以上低迷していた金相場に市場の眼が向いたこと。ジョージ・ソロスのような名の知れた投資家が買いを入れたことも、世界的な資金循環の中に金が巻き込まれた可能性が強い。無論、付利されない投資対象としての金投資盛り上がりの持続には、世界的な低金利状態の継続が条件です。
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 日経の記事には触れられていませんが、世界的な金相場上昇の背景には意外な役者がいそうです。それは、中国。昨日ある方と話をしていたら、最近CNNが盛んにこの金問題と中国の関係を扱っているそうです。資料(割愛します)を掲載しますが、ポイントは

  1. 昨年一年間の中国の金購入量は350トン以上で、過去25年間世界最大の金購入国であったアメリカを上回った
  2. 中国は、92年末にオランダ中央銀行が売却した1290万オンスのかなりの部分を購入して、金相場の下落圧力を緩和した
  3. 中国の金購入の背景はーーー力強い経済の成長と開放化

           ―――中国社会がキャッシュ・リッチになってきている
           ―――中国社会でのインフレ懸念
           ―――人民元の下落懸念

4.IS CHINA EXPORTING INFLATION FEAR ?
 仮に金相場の上昇がアメリカなどでのインフレ懸念を煽っていて、その金相場の上昇のバックに中国人の買いがあるとしたら、実はアメリカのインフレ懸念の一部は中国が輸出しているものだという事になります。中国の金購入量がアメリカを上回ったと言っても、人口が片方は11億人、片方は2億3000万人ですから、国民一人当たりではまだ格差が大きいのですが、しかし考えて見ればこの格差こそ重要な要素になりうるモノです。つまり、中国人がアメリカ人並みに金、またはそれ以外のものを買い始めたら.....という問題です。
 掲載した資料(割愛)にも面白いことが書いてあって、「金においてもアメリカは成熟市場。さらに金を買う理由はほとんどない」とある。中国は金だけでなく、先進国と様々な面で格差のある未成熟市場です。今回はたまたま金で中国が登場しましたが、この国は商品ばかりでなく、工業製品でも世界市場に比較的早く大きな要素として登場してきそう。中国はそろそろ石油でも輸入国になる。

5.THANK YOU FOR YOUR SUPPORT...................AND GOOD LUCK TO YOU
 「次は1000号ですから、20ページくらいの特集でも出したら.....」なんて、社外の気楽な人が奨めてくれましが、まあそれは皆さんにもご迷惑でしょう。今日も普通の仕立てにしました。
 始めたのが87年の12月1日。カスタマーのチーフになってしばらくしてからで、同じ事を繰り返し言わねばならないのに気づいて「これはたまらん...書いた方が速い」と開始。その時のドル・円相場は、ブラック・マンデー(10月19日)の直後で、開始当日の新聞によるとその日のドル・円相場は132円。記事に「止まらない円高に日銀頭を抱える」とあって、ちょっと今の状況と似ている。しかし、レベルは20円違う。5年以上前で20円の差ですから、そこから見れば円高もゆっくり進んだ形ですが、その間160円もあったし、109円もあったことを考えれば、結構動いた期間と言えるかも知れない。
 最近嬉しいのは、私が為替を始めた当時の方で、一度離れながらも再度戻ってこられた方がいらっしゃること。例えば伊藤忠の藤代さん。「WELCOME BACK」というわけです。何号か前に書きましたが、続いたのは多くのお客様に色々な意味で「これは面白い」と言ってもらえるからです。社内の方にも助けてもらいました。初期のニュースを見ると、今は香港にいる大泉の米大統領選挙特集などがあって今読んでも結構面白い。相場がよくわからないとき、書くことが少ないとき(?)はレストランや本、映画を紹介するという手法(?)“も”、いや「手法“が”」良かったのでしょう。
 来週はお休みをもらいますが、再来週の再開後は機会を見ていままでの号から少しまとめてみたり、面白い話を再現してみたりしたいと思います。このニュースで最初に紹介したレストランを調べたら新宿の「ねぎし」3365-4767)でした。安くてうまい。今の時代を先取りしている。まだ良く行きます。このニュースは基本的に同じ店は二度と紹介しませんでしたが、考えれば5年も前。その後も良い営業をしている店は紹介していこうと思います。最近読んだ本では「女ざかり」が面白かった。
 それでは皆様には良い週末を..................     (Y.ITOH


 今から3年前。日本の景気は絶不調。一方、アメリカが徐々に「BALANCE SHEET RECESSION」から抜け出してきた時期でした。日本は今でもまだ、経済のあちこちに「BALANCE SHEET RECESSION」を残している。抜けきるには時間がかかりそう。しかし、製造業などいち早く立ち直ってきたところもある。  最近、「日本とは不思議な国だ」と思う。これほど国民が自信を喪失している国が、依然として様々な産業分野でまだ世界のトップを走っている。確かにハイテクでアメリカと比べると劣る。しかし、ヨーロッパに比べれば、日本には見るべきものが沢山ある。一番で走るのはしんどそうだが、二番手になると俄然力を発揮する。でも「二番手」って、世界の国の数からするとやはり凄い。無論、個人のベースでは世界最先端も多いが、集団の個性というものもどうもありそうだ。  自信過剰にはむろんならず、かといって過度に悲観的になりもせず、「淡々と」というところか。21世紀まで、片手を切った。(96年5月末記)                                ycaster@gol.com

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