チェルシー・ダービー 浮き彫りのあるコーヒーカップ (1770-83年)
Chelsea‐Derby Moulded Cofee Cup Ca.1770-83
表面に"Leaf and Bird"柄と呼ばれる浮き彫りが施されたコーヒー・カップである。花の咲いている枝葉が広がり、一羽の小さな鳥が飛び、もう一羽が枝に止まっている柄である。(ただし、鳥を見分けるのはなかなか難しい。)取っ手は、シンプルなループ型で、上部付け根の部分が若干内側にカーブしている。エナメル装飾も簡素で、青っぽい葉と小さな赤い実を連続する図案化したものである(ダービー「D3-2」参照)。金彩は口縁に、いわゆる"Dentil Gilding"が施されている他、エナメル模様の上下及び高台外側の細い線、葉の並びに配された小花、そして取っ手の縁取りがある。簡素な絵付けなのだが、あまり繊細な描き方でなく、また浮き彫りの上に図案がかかってしまっているせいか、若干うるさい感じになっているのが惜しい。
素地は、ややくすんだ白で、カップ内側には表面の何ヶ所かにに異物が浮き出ているのが見える(これも写真では分かりにくいかもしれないが)。素地、外形ともにチェルシー・ダービー「CD2」との類似点が多い。
裏面マークは「赤い錨」であるが、このマークは問題ありである。チェルシー窯の「レッド・アンカー期(1752-58年頃)」のマークに倣ったものであろうが、その時期のものではない。本品のマークは長さが8mm程あるが、レッド・アンカー期のマークは最大でも6mm程度と小さい(チェルシー「CH1」参照)。錨のマークは、チェルシー・ダービー期にも継続して使用されたが、基本はゴールド・アンカー期(1758-69年頃)を引き継ぐ「金色の錨」である。ただし、本品と同じ型・絵付けで「金色の錨」マークが記された作品(さらに言うと、暗褐色の「交差バトン・マーク」が記された作品も)の存在が知られている(S. Mitchell著"The Marks on Chelsea-Derby" を参照)。同著においては、この作品(赤または金色の錨マークが記された作品)はダービー製の磁器に部外工房で絵付けされたものであろうと論じられている。
本品に関しても、断定的なことは言えないものの、素地や浮き彫りの特徴から判断するとチェルシー・ダービー期のダービー窯で焼成されたもので、絵付けの特徴やマークから見て、絵付けは部外絵付け工房で行われたものでないかと考えられる。
高さ:7cm
Height:7cm (2 7/8 in)
マーク:裏面に「赤い錨」
Mark: A red anchor painted on the bottom
文献/Literature:
-Stephen Mitchell "The Marks on Chelsea-Derby and Early Crossed-Batons useful Wares 1770-c.1790" p44, p86, Plate26 and Plate 60(ii)
(2008年9月掲載)