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ダービー ティーボウル(1795年頃)
Derby Tea Bowl Ca.1795



 

 シンプルなティーボウルである。装飾は、外側の金で縁取りされた2本の青い並行な線に挟まれた部分(写真では分かりにくいかもしれないが、ここだけ淡い黄色地になっている。)に、トルコ・ブルーの月桂樹の葉の連続模様が描かれている。また、内底には、3つのピンク色のバラの花と葉が描かれている。

 装飾は簡素だが、ダービー作品の収集家にとっては、本品は極めて興味深い作品である。裏面には、暗褐色(puce)のマークに加え、高台内側に3つの数字が記載されている。金彩師のものと考えられる暗褐色の8、青いエナメル(本品の青は染付けでなく上絵)を担当した職人のものと考えられる青色の8、そして絵付師のものと考えられる赤色の6(又は9)である。(ダービーのマークのページ参照。)18世紀末のダービー作品で、暗褐色と青色の2つの数字が記載される例はそれほど少なくないが、赤色の数字が記載される例は稀である。暗褐色の8は、William Longdonのものであろう。8が記載された他の例と比較しても、バトンマーク及び金彩がLongdonの手によることは、ほぼ間違いないであろう。青色の8も暗褐色の8と筆跡が似ているので、同じくLongdonのものかもしれない。
 赤色の6(又は9)は難物である。近くで見ても、6であるか9であるか判然としないが、6番を使用した職人は氏名が分かっていない。John Twitchettは、著書"Derby Porcelain"(1980)の中で、Edward Withersによるとされる花絵の皿の裏面に赤い6が記載されていることから、6番はおそらくWithersの番号であろうと推測している。本作品の内底に描かれたバラも、Withersによるものかもしれない。(Withersに関しては、ダービー「D2-1」ダービー「D2-4」及びダービー「D2-5」参照。)なお、本作品の売り手は、6番はSamuel Keys(彼は、19世紀頭頃から1番を用いたことが知られている。)の番号だとしていたが、立証はできていない。
 もし、この番号が9だとすると、今度は、これはWilliam Smithの番号だということになる。彼は、ダービーを特徴付ける色の一つであるSmith's Blueと呼ばれる上絵の青色(ダービー「D2-1」及びダービー「D2-4」参照。)を作り出したConstantine Smithの息子で、父親同様エナメル調合師(兼絵付け師)として知られる。この場合、彼は専門である青色をLongdonに任せて、バラの花絵のみ(あるいは月桂樹部分も?)を担当したということになる。

 なお、本品と同様の縁装飾のある皿で、中央に風景の描かれた作品が、Twitchett著"Derby Porcelain 1748-1848 An Illustrated Guide"(2002)に掲載されている。この皿の裏面には、赤色の7が記載されており、花絵で著名なWilliam Billingsleyによる、貴重な風景画の作例とされている。(Billingsleyに関しては、ダービー「D3-1」ダービー「D3-4」ダービー「D3-11」参照。)さらに、このBillingsleyによる皿の図柄番号はデザートの26番であるが、26番の図柄解説によると、中央に「花絵(?風景)」が描かれるとされており、本品との関係で興味深い。

 本品は、英国南西部Devon州で12世紀から続くAcland家の所有だったもので、2002年に売り出されたデザート及びティーセットに含まれていたものである。セットに含まれる他の作品にも(風景でなく)バラが描かれている。Acland家からの特注品だったと考えられる本セットは、ダービーの腕利き職人たちが競うように担当したはずであり、興味は尽きない。


マーク:裏面に暗褐色で「王冠、交差するバトンと点及びD」。高台内側に暗褐色で「8」、青色で「8」及び赤色で「6(又は9)」。
Mark: <Crown, CrossedBatons&Dots and D> painted in puce on the bottom. <8> painted in puce, <8> in blue and <6 (or 9)> in red on the foot rim.
サイズ:直径約7.9cm
Size: about 7.9cm (3 1/8inches) in diameter
文献/Literature:
-Twitchett "Derby Porcelain" (1980) Plate 173
-Twitchett "Derby Porcelain 1748-1848 An Illustrated Guide" (2002) Colour Plate 14