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ダービー 「86番図柄」蓋つきの砂糖入れ(1787−90年頃)
Derby Pattern #86 Sucrier with Cover Ca.1787-90

 



 地模様もなければ取っ手もない、丸くシンプルな小型の深鉢といった風情の砂糖入れに、これまたシンプルなドーム型の蓋がついている。形状面での唯一の装飾は、蓋にあるイチゴ型のつまみであろう。純白度の高い素地に釉薬が均一にかけられ、なめらかな肌合いで完成度の高い素地の作品である。

 絵付け装飾についても外観は金彩との青い線(釉薬上の青エナメル)のみといたって簡素であるが、内底に風景画が描かれている。18世紀英国磁器における「風景画の父」とも呼ばれるザカリア・ボアマン(Zachariah Boreman)の手によるものだと思われる。

 ボアマンは、もともとはチェルシー窯の絵付師で、1770年にチェルシーがウィリアム・デュズベリーT世に買われた後も当初は同窯で働いていたと見られる。その後の足取りについては、ロンドン在住であった以外は詳らかでないが、チェルシー窯が閉鎖される直前の1783年にウィリアム・デュズベリーT世と再度雇用契約を結び、同年末頃までにはダービーに移った。その後1794年までダービー窯に在籍している。(コラム11を参照。)

 ボアマンは、絵付けの技術だけでなく人格的にも優れていたとされる。ダービーでは20歳程年下のウィリアム・ビリングズレイ(William Billingsley)と深い親交を結び、大きな影響を与えた。当時のダービーは、他にも多くの優秀な絵付師を抱える黄金期であったが、ボアマンはその中でも指導的立場にあった。彼は多くの風景画を残しているが、本品のように、背景に山や川を淡く描き、手前に樹木と小さな人物を描くというのが典型的な作例である。なお、本品の金彩は、金彩師番号4番を使用したウィリアム・イェーツ(William Yates)による。

 本品の製造年代については、形状面から見ると、イチゴ型のつまみはチェルシー・ダービー期(1770-84年)の作品に多く見られるものであるが(1790年代になるとリング型つまみが一般化する)、絵付けの観点からは、この図柄が導入されたのはボアマンがダービーに来た直後の1784/85年頃であり、しかもカップ図柄(tea pattern)の86番という番号が与えられたのはそれより少し後の1786年頃のことである。さらに図柄番号が「交差バトンマーク」下に記されるようになるのは1787/88年頃からとされる。裏面高台内にアルファベット「D」が陰刻されているが、このようなアルファベット等の刻印も1787/88年頃以降の作品に見られる特徴である。以上の諸点を考慮して、本品の製造年代については1787-90年頃と判断した。
サイズ:高さ約13cm、本体の直径約11cm
Sizes:H 13cm (5 1/8in)、D(Bowl) 11cm(4 3/8in)

マーク:暗褐色で「交差バトンマーク」とその下に図柄番号「86」。高台内側(マークから見て右方向)に金彩師番号「4」。陰刻でアルファベットの「D」
Mark: <Crown, CrossedBatons&Dots and D> over the pattern number <86>, and the gilder's number <4> on the foot rim, all painted in puce. An impressed <D>.

参照文献/References: Examples with the same pattern
-John Twitchett "Derby Porcelain" Plate178 (p160)
-H.G. Bradley "Ceramics of Derbyshire 1750-1975" No.243 (p152)


(2008年5月掲載)