トップ(Home)   ダービーのトップ (Derby Home)

ダービー 素焼き白磁壷(二体) (1775-85年頃)
Two Derby Biscuit Vases Ca.1775-85





 素焼き白磁(ビスケット(biscuit))の壷である。丸みを帯びた胴体の上下には、縦縞を彫りこんだ首とペデスタル(台座)が付けられている。左右には長いループ型の取っ手がつけられている。ペデスタルの下に、さらに四角の台が敷かれている。首から胴体にかけて花綱が吊り下げられており、装飾性の高い作品に仕上がっている。

 この二体は、別々に購入したものであるが、サイズが若干違うことと、左側の少し大きい方が花綱の装飾が多い点を除けば、あとはほぼ同一と言える作りである。しかし、製造年代は以下に述べるように若干異なる。なお、本品と同様の作品は、ヴィクトリア&アルバート美術館(V&A美術館)の収蔵品(3体)が知られており、そのうち2体は高さが約16cm、1体は約24cmとされる。本品の高さは、大きい方が約16.5cm、小さい方が約15.5cmなので、ともに小さい方のサイズだと考えられる。

(追記)後日、V&A美術館に直接確認したところ、同美術館はこの作品を2体しか保有しておらず、その2体とも高さは16cmであり、高さ24cmの作品というのは誤りだとのことであった。

 マークに関しては、両作品ともに興味深い点がある。左側の大きい方の作品には、台座裏面に「交差バトンマーク」、「No.111」、そして「*」が明瞭に刻まれている。右側の小さい方の作品は台座裏面にはマークがないものの、台座にある丸い穴の内側に、アルファベットの「N」と「*」が手刻みで付されており(薄めの刻み方である)、さらに、首部分の内側にも「*」が刻まれている。

 右側の作品にあるアルファベットのNは、チェルシー・ダービー期、1770年代のマークである。一方、左側の作品にあるバトンマークは、1782年頃(あるいは1784年頃)から使用されているマークであり、皿やカップなどの実用品には暗褐色(puce)などで描かれることが多いが、人形などの装飾品にはこのように刻み込まれることがある。

 両方に共通する*のマークは、リペアラー(repairer)であるIsaac Farnsworthが1775年頃から1800年頃まで使用したマークであるとされる。リペアラーとは、人形などを作る際に、複数の部品を組み合わせて全体を整える役割を担う職人に対する呼称である。Isaac Farnsworthは、ダービーで長く働いた(1756年頃〜1821年。勤続65年!!)リペアラーで、*マークが付された作品は、彼が組み立てたものである。ちなみに、V&A美術館にある本品と同様の作品(小型のペアの方)の1つにも、*マークが付されている。しかし、本品では一つの作品に2箇所も「*」マークが付されており興味深い。

 最後に、左側の作品にあるNo.111は、人形と共通する型番だと考えられる(ダービー「D2-7」ダービー「D2-9」及びダービー「D2-10」参照)。しかし「Haslemリスト」でも「Bemroseリスト」でも、111番は別の作品の番号であり、本品の番号は誤記の可能性もある。上記のV&A美術館の収蔵品にはNo.116と付されているようであるが、この番号もやはり両リストと符号していない。なお、Farnsworthは「Bemroseリスト」作成者の一人でもあり、その彼が特定の作品に刻む型番を間違えた(しかも111と116という共に間違った番号を刻んだ)のだとすると、それ自体も興味深いことではある。ただし、人形と壷とで別の型番が使用されていた可能性もないわけではない。)

 なお、Bradshawは、この壷は「Haslemリスト」の中で、型番がなく”Vases, Best Festoons”とのみ記載されている作品(この作品はビスケットのみで、色付けされたものは製造されなかった)のことではないかとしている。


マーク:
(左側の作品)台座裏面に刻んだ「交差バトンマーク」、「No.111」、及び「*」。
(右側の作品)首部の内側に刻んだ「*」、台座裏面の穴の中に刻んだ「N」と「*」

Marks:
(Left one in the first photo) Crossed-batons mark, "No.111" and a "*", all incised on the bottom.
(Right one in the first photo) A "*" incised inside of the neck and another "*" and "N" incised in the hole at the bottom.
高さ:約16.5cm(左)及び約15.5cm(右)
Height:16.5cm(6 1/2in) (Left) and 15.5cm(6 1/8in) (Right)
参照文献/Literature
- Twitchett "Derby Porcelain"(1980) Plate146 (p134)
- Godden "An Illustrated Encyclopedia of British Pottery and Porcelain" Plate217 (p135)
- Bradshaw "Derby Porcelain Figures 1750-1848" p143

(2007年2月更新)