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ダービー サテュロス頭部の取っ手と爪足のついた壷 (1775年頃)
A Derby Candle Vase with Satyr-Mask Handles and Paw Feet Ca.1775

 

 

 複雑な形をした壷である。全体的には細長くて直線的、首はすぼまり最上部で丸く開き、底部はかなり極端にすぼまって、その下に獣のつめ足が四つ、その下の台座は四角形の四隅を切り落としたような形である。壷の肩部分には、サテュロス(英語表記では"Satyr"。ギリシャ神話に登場する精霊で、上半身は人間、下半身は動物という姿で描かれることが多い)の頭部を模したと思われる取っ手が左右につけたれている。壷本体は、その肩部分より下は八角形になっているが、上部は丸くなっている。本体の側面には花、花綱、鎖などが型どられている。そうした彫刻や模様部分はすべて白磁(釉薬はかけられている)のままで、平らな地の部分だけ薄い青緑(あるいは薄いトルコ色)で彩色されている。他の色は一切使われておらず、金彩もない。

 裏底には、ダービー特有のパッチマーク(焼痕)が四つ、明瞭に残されており、また「No8」という型番も刻み込まれている。人形や壷などに型番が刻み込まれているのも、チェルシー・ダービー期から18世紀末頃までのダービー作品の特徴である。ダービー作品の型番については、人形のそれは頻繁に研究の対象とされているが、壷や水差しなどの型番については未解明の部分が多い(ダービー「D2-7」ダービー「D2-8」及びダービー「D2-10」参照)。型番制度が導入された1770年代初めから1795年頃までに約130の型の壷や水差しが導入されたと思われる。しかし、Bemrose及びHaslemのリストに記録が残されている型番は、そのうち30弱に過ぎず、その他は現存する作品から判明しているものをいくつか加えることができるという程度である。本品の8番という型番も、記録が残されておらず、おそらくは他に類例が確認されていないものである。


<追記>
 1774年のダービーのロンドン店舗カタログ(*1)の中に、本品と同型と考えられる作品を見つけたので以下に掲載する。

51 A pair of skie blue octagon two branched candle-vases, on a white base, with 4 white gold tipped lion-claws, two gold Satyrs heads support the branches, and a white and gold festoon, the cover terminating in a gold flame 12 In.

(仮訳)
51 一対のスカイブルーの八角形の二分岐した蝋燭壺。白い台座には、白の上に金彩で縁取りした四本のライオンの爪足。二つのサテュロスの頭部が燭台の枝を支えている。白と金彩の花綱装飾。蓋の先端は金色の炎。高さ12インチ(30.5cm)。

 この記述によると、本品の機能は蝋燭立てということになる。左右のサテュロス頭部にある丸い穴は、燭台の枝(恐らく金属製)を固定するためのものであろう。炎の形をした蓋というのは蝋燭立てに見合った意匠だが、逸失しているのは残念。


マーク:パッチマーク及び刻み込んだ「No8」
Marks:Patch marks and incised "No8"
高さ:約24cm
Height:24cm (9 3/8in)
(*1) William Bemrose "Bow, Chelsea, and Derby Porcelain" Chapter V
(2007年2月掲載。2015年10月更新。)