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ダービー 「クレモーン子爵のテーブル・セット」の楕円皿(1789年頃)
Derby Oval Dish from the "Viscount Cremorne's Table Service" Ca.1789



  

 縁の何ヶ所かにくぼみのある楕円形皿に、ヤグルマギクの花と茎葉が4ヶ所に描かれている。加えて、中央上部に宝冠とPHCというイニシアルを枠で囲った紋章がつけられている。この時期のダービーの特徴の一つである清楚さを端的に表している作品である。
 “PHC”は、Cremorne子爵夫人であるPhiladelphia Hannahのイニシアルである。(なお、彼女は、米国独立前のペンシルバニアを創設したWilliam Pennの孫であり、彼女の名前にある”Philadelphia”は、彼がつくった同名の町からとられたものである。)Cremorne子爵と夫人は、1788年から90年にかけて、デザート・セット、テーブル・セット、ティー・セット、さらにはチョコレート・カップやマグ・カップまで購入した、ダービーの上顧客であった。一般に紋章の由来については不明のことが多いが、1990年代に「ダービー国際磁器学会」がA. Ledger主導の下で精力的に実施した紋章調査プロジェクトによって、ダービーのロンドン店舗の18世紀の販売記録などが詳細に調べられ、本紋章については由来が明らかになった。1789 年8月15日に、本品の特徴と一致する皿を含むテーブル・セット一式の販売記録が残されている。本品は5つのサイズで作られた楕円皿のうち最も小さいサイズ(といってもかなりの大皿であるが)のもので、8枚作られたもののうちの1枚である。
 なお、Cremorne子爵家は、名前を変えながらも1933年まで存続した。「クレモーン子爵のセット」も、その頃に売りに出されたと考えられるが、現時点で所在の判明している作品は少なく、詳細はいまだ調査中である。
 本品には図柄番号が記されていないが、デザート78番図柄でないかと考えられている。金彩は、”master gilder”と評され、金彩師番号1番を用いていたThomas Soareの手による。(コラム11を参照。)
マーク:裏面に暗褐色で「王冠、交差するバトンと点及びD」。高台内側に暗褐色で「1」。
Mark: <Crown, CrossedBatons&Dots and D> painted in puce on the bottom. <1>painted in puce on the foot rim.
サイズ:約32cm x 24cm
Sizes: about 32cm (12 3/4 inches) x 24cm (9 1/2 inches)
文献/Literature:
-Ledger "Armorial Project. Viscount Cremorne's Services Identified from the Day Books", Derby Porcelain International Society Newsletter No.28 pp13-18
-Twitchett "Derby Porcelain 1748-1848 An Illustrated Guide" p194 and Plate on p195
-Godden "British Porcelain An Illustrated Guide" Plate252