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ダービー キューピッド図皿(1772-77年頃)
Derby Plate
Decorated with a Cupid Ca.1772-77
*この作品は、第1回の「西洋アンティーク陶磁器勉強会」に提出したものです。
縁部分に幅広のひねり縞が施された丸皿で、チェルシー・ダービー期以降のダービーを代表する形状の皿である。中央部分には、雲に乗って花を入れたバスケットの横に腰掛けたキューピッド像が、紫系の単色で描かれている。また、縁部分には、小さなバラ一輪を囲む金の輪や小花が多数描きこまれており、とても華やかな図柄となっている。この図柄は、ロココ美術(磁器分野ではセーヴルが中心)の強い影響を受けたもので、キューピッド像についてもロココ期を代表する仏宮廷絵師でセーヴル磁器にも関与したフランソワ・ブーシェ(Francois Boucher)の画風に倣ったものとされる。ダービーにおけるこの図柄の最初の記録は、1773年3月に開催されたオークション・カタログ(クリスティー)に以下のようにある。
"A complete dessert service, enamelled in Cupids after Boucher, and gold circles and roses, viz. 2 doz plates, and 20 compoteers, different sizes. 36l."
この図柄は当初から人気を集めたようで、その後も1778年、1783年のオークションで出品されている。(なお、描かれるキューピッド像は同一でなく、多くのバリエーションがある。)ダービーに限らず英国磁器の装飾の流れとしては、ロココ主義が主流だったのは1760年代までで、1770年代以降は新古典主義が中心となるが、本図柄はそうした流れとは別に、長期間に渡って好まれたと見られる。
本品のキューピッド像を描いたのは、人物画を得意とした絵付師リチャード・アスキュー(Richard Askew)だと考えられる。キューピッド図柄は彼の代表作とされていることに加え、本品に見られるあごや手足のふくよかな描き方は彼の特徴とされている。アスキューは、もともとチェルシーの絵付師であったが、チェルシーがダービーに買収された後、1772年頃ダービーに移った。彼は1779年頃にダービーを離れた後も、フリーの絵付師としてダービーから注文を受けて絵付けを施しており、1790年代までダービー作品に絵付けを残している。
本品の製造年代の判断には迷う点が少なくない。チェルシー・ダービー期の作品であることは確実であろうが、皿の形や図柄からでは、それ以上の年代特定は難しい。高台が挽き切られていること(焼成時の凹凸を取り除くための措置で、一般に1770年代前半頃までの特徴とされている。)、また、マークがないこと(1770年代終盤以降は、マーク記載がより一般化する。)から、1770年代中盤頃までに製造されたものとした。しかし、これらの判断根拠はそれほど強固なものとは言えず、1780年代の作品である可能性もある。
直径:21.8cm
Diameter:21.8cm (8 5/8 in)
マーク:なし
Marks:None
参照文献:
-Geoffrey Godden "Eighteenth-Century English Porcelain" Item51 (pp188-190)
-John Twitchett "Derby Porcelain" (1980) Plate175
-Alasdair Morrison "Derby 1780-1786: the Useful Wares" DPIS Journal 5, Plate14 and p61
-Neales Auction Catalogue "The Anthony Hoyte Collection of Derby Porcelain" Lot2
-J. E. Nightingale "Contributions Towards the History of Early English Porcelain" p46 (Derby and Chelsea auction catalogue of March 1773)
(2007年9月掲載)