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ダービー 壺 (1790年頃)
A Derby Vase Ca.1790
ダービーの三角形の壺。上に向かってすぼまっていき、上部の三つの角には羊の頭部が配されている。窯印はないが、裏面に*が刻み込まれている。これは、ダービーのリペアラーIsaac Farnsworthが用いたマークである。
全体の地色は肌色(あるいは小鹿色)で、三つの側面それぞれの中央に金の楕円枠が設けられ、その中に花束が多色彩で描かれている。この花絵はウィリアム・ビリングズリー(William Billingsley)によって描かれた可能性がある。本品とほぼ同一と思われる作品が、W.D. Johnの下記著書にビリングスリーによる作例として掲載されている。(なお、この作品に関しては、Timothy Cliffordが下記論文で(脚注55)言及しているが、ビリングズリーの名前には触れずに、製造年を1800年頃としている。ビリングズリーは1795年にはダービーを去っている。)
さて、本品の形状についてであるが、実は、本品より浮彫装飾が多く施され、さらに特徴的な台座と一体となった、少し時代の遡った作例が存在する。以下のサイトで実例を見ることができる。
-大英博物館(British Museum)のサイト:
http://www.britishmuseum.org/research/collection_online/collection_object_details.aspx?objectId=69898&partId=1&searchText=derby+vase&page=1
-マンチェスター・アート・ギャラリー(Manchester Art Gallery)のサイト:
http://manchesterartgallery.org/collections/search/collection/?id=1979.19
これらは、18世紀のダービーのオークション等のカタログでは、以下のように記述されているが、形状については祭壇(alter)、聖杯(chalice)、ピラミッド(pyramid)などと呼ばれており、側面に描かれている図柄は、いずれも宗教的な人物画である。
-1773年3月のクリスティーズ・カタログ:
An altar dedicated to Bacchus, enamelled with figures, a fine crimson ground, richly gilt, £7-10s.
-1774年のロンドン店舗カタログ(「原典を読む8.」を参照。):
37 A set of calices, of three pieces ; the center-piece, of a trilateral form, represents in its three compartments coloured sacred subjects on a white ground ; the corners and pediments are sky blue edged in gold with golden festoons, &c. the top is adorned with three rams heads in gold, 3 gold lions couched on the pedestal support the whole, 11 1/2 inches, the two side pieces of a truncated conical form, adorned in the same manner as the centre piece, represent three other sacred subjects 9 1/2 inches high
38 The same set of chalices in crimson represent several groups of Bacchanals in chiaroscuro. Dimensions the same
43 A triangular monumental Pyramid, the same Form as described No. 37, in sky-blue and gold, the compartments painted in bacchanalian figures 11 inches high
<仮訳>
37 3点のチャリスのセット。中央の作品には3面があり、その三つの区切りの中には、白地の上にカラーで神聖な主題が描かれている。角とぺディメントはスカイブルーに金で縁取りされ、金の垂れ幕等がある。最上部には三つの金の羊の頭部がある。三頭の金のライオンが台座上にうずくまり、全体を支えている。11 1/2インチ(29.2cm)。両サイドの作品は、先端を切った円錐の形で、中央の作品と同じように、三つの別の神聖な主題で装飾されている。
38 同上の深紅のチャリスのセット。バッカナル(バッカス神の信徒)の集団がいくつかキアロスクーロ(明暗法)で描かれている。サイズは同上。
43 三角形の記念碑的なピラミッド。No.37に記述されているのと同型。スカイブルーと金。枠内にはバッカス神の信徒たちが描かれている。
-1780年4月のクリスティーズ・カタログ
An alter-shaped vase, supported on 3 lions on pedestal, entich'd in compartments with figures and richly gilt £2-9s.
本品に戻って形状を見ると、そもそもライオンの台座がない。また、上部と下部にある浮彫装飾も一切ない。(蓋は逸失しているものと思われる。)1770年代から1780年代初頭まで作られた上述の作品と比べて、かなり簡素化されたものであることが見て取れる。
高さ(Height):15.8cm
マーク:裏面に刻込みで"*"(リペアラーIsaac Farnsworthのマーク)
Mark:A "*" incised on the bottom, which is a mark of the repairer Isaac Farnsworth.
参照文献/References:
- W.D. John "William Billingsley (1758-1828)" Coloured Illustration 17A
- Sir Timothy Clifford "Some English Ceramic Vases and Their Sources, Part 2" British Ceramic Design 1600-2002 pp.87-88
- Catherine Beth Lippert "Eighteenth-Century English Porcelain in the Collection of the Indianapolis Museum of Art" Catalogue Number 29 (pp.143-148)
(2017年8月掲載)