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ロントンホール/ジョン・サドラー マグ (1760年頃)
A Longton Hall/John Sadler Mug C.1760





 

 ロントンホールで焼成されたマグ。中央がふくらんだバレル型で、下部には浅い段差が型取られている(リバプールのウィリアム・リードのマグにも同様な下部段差が見られるが、これはときに'scotia-turned base'と呼ばれる)。取っ手は、ロントンホールに特有なダブル・スクロール型で、上部には指をかける突起がある(ロントンホール(LH10)ウエストパンズ(WP1)及び(WP2)を参照)。

 装飾は、釉薬上に黒色の銅板転写で"Society of Bucks"という結社の紋章が描かれている。2人の人物と雄鹿(buck)を中心とした紋章で、いくつかのモットーが書き込まれている。写真では文字が薄くなっている部分もあり読みにくいかもしれないが、一番上に"Industry Produceth Wealth"、雄鹿の下に"Freedom with Innocence"とある。その下に小さく4人の人物が描きこまれた図があるが、これはイソップ物語の「棒の束」(毛利元就の「三本の矢」と似た話で、団結の重要性を説いた寓話)を描いたもので、この図の周囲に"Unanimity is the Strength of Society"と書かれている。さらにその両側に"We Obey"とある。また、両脇の2人のベルト部分には"Be Merry"及び"And Wise"と小さく書き込まれている。

 この銅板転写は、リバプールの印刷事業者ジョン・サドラー(John Sadler)によって施されたものである。左右の"We Obey"の下方に"Sadler"及び"Liverpool"と署名されている(写真では読みにくいが)。サドラー及び共同経営者のガイ・グリーン(Guy Green)は、1756‐1799年頃に、リバプールで陶磁器への印刷装飾を行っていた。自ら購入した陶磁器やタイルに装飾して販売する他、リバプール諸窯やウェッジウッドなどから依頼を受けての装飾も行っていた。

 ロントンホールは、自ら磁器作品に転写印刷を施したことも、また外部事業者に印刷を委託したこともなかったと見られている。ロントンホールは1760年に閉窯したが、同年中に、9万点にも及ぶ大量の在庫品が売却されている。サドラーは、その一部を購入して、自らの署名入りの印刷を施して販売したとされており、本品はその一例であると考えられる。ちなみに、サドラーは本品と同様のSociety of Bucksの紋章の印刷を、ウェッジウッドやウースター作品にも遺している。


高さ(Height): 12.2cm
マーク: なし
Marks: None
参照文献/References
- Phillips Catalogues"The Watney Collection of Fine Early English Porcelain" Lot 870 (Part III) & Lot 96 (Part I)

- Colin Wyman "The Society of Bucks" ECC Transactions Vol.10 Pt.5
- British Museum Website:
http://www.britishmuseum.org/research/collection_online/collection_object_details.aspx?objectId=29453&partId=1&searchText=society+of+bucks&page=1
- Victoria & Albert Museum Website: http://collections.vam.ac.uk/item/O335646/mug-longton-hall-porcelain/


(2018年2月掲載)