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ボルチモア美術館(米国:ボルチモア)
Baltimore Museum of Art (USA: Baltimore, MD)


 世界有数のマチス・コレクションで名高い美術館です。このコレクションは本当に素晴らしく、ゆっくりと展示室を巡りながら至福の時を過ごすことができます。(マチスに関してここに対抗できるのは、米国内ではニューヨークの近代美術館(MoMA)だけでしょうが、改築後のMoMAはマチス作品に対して、かつてほどの敬意を払っていないように見受けられます。残念なことです。)

 さて、陶磁器です。この美術館のサイトにもほとんど記載がなく、関連の出版もありませんので、行ってみないと分からないのですが、実は英国磁器に関する素晴らしいコレクションがあります。1階の「欧州装飾美術」のセクションは、大半が陶磁器と銀器で占められており、しかも英国作品が中心です。

 特に充実しているのは、ドクター・ウォール期のウースター作品です。エナメル絵付けとブルー&ホワイトの作品が別々に展示されており、前者に関しては、Old Mosaic図柄のチョコレートカップ、Queen Charlotte図柄のティーポット、Sir Joshua Reynolds図柄のティーセット、Scarlet Japan図柄の茶壷、Bishop Sumner図柄の皿、Brocade図柄のカップ&ソーサーなど人気図柄の作品が目白押しです。他も食器類を中心に豊富なラインアップです。ブルー&ホワイト作品は、手描き作品も転写作品もあり、マグ、ポット、ボウル、バスケット等々、これまたたくさんあります。本当に、ここに来ればウースターの一通りを勉強できてしまいます。さらに、BFB期ウースターの紋章入りの皿(3枚組み)や、チェンバレン・ウースターに至っては、サーモン地にヴァーミセリ柄の金彩を施し、中央部分には各々風景、花、鳥、果物、貝、羽根などを描いた合計15点ほどのディナーセットまであります。

 ダービー作品も多くて、わくわくしてくるのですが、1750年代後半の樽型のマグで鳥(エキゾチック・バードではなく、自然な鳥)が描かれたもの、1760年頃の青地の蓋付き飾り壷でやはり自然な鳥と昆虫の描かれたもの(3点セット)は、特に注目です。チェルシー・ダービー期の作品では、女神ミネルヴァ像、鶏と茂みのある蝋燭立て(ペア)、”Egerton Service”のカメオ付き菱形皿(このserviceには、金色の「王冠の下に錨」のマークが描かれているものがあると言われているのですが、ここではマークを見ることができず残念。チェルシー・ダービー「CD8」参照。)などがあります。また、本サイトに掲載しているものと同じJabberwocky図柄のマグもあります(チェルシー・ダービー「CD1」参照。なお、本サイトのマグにはチェルシー・ダービーの金色のマークが付いているのですが、この美術館のマグは青い王冠とDのマークでした。ダービーのマークのページ参照)。

 その他の英国窯に関しては、ロントン・ホールが男女ペアの音楽家の人形や染付けの葉型のスープ入れ、チェルシーが葉を型どった各種の皿3〜4点、ボウはネプチューン像の付いたセンターピース、カーフレイの染付け皿やジャグ、リバプール(Richard Chaffers)の人物画を転写したボウルなどがあります。

 欧州大陸磁器では、マイセン、フュルステンブルグ、ヘキスト、ベルリン、ウィーン、セーヴル、シャンティイなどの磁器人形や食器類があります。特に、マイセンの大きなスープ入れ(鳥を模したもの。蓋に子供の像。)、デュパキエ期ウィーンの顔付き水差し(取っ手が豹のような動物で、全体に柿右衛門風の柴垣図柄。)、セーヴルのPerfume Burner(ガラス製のビーカーの下に磁器製のアルコール・ランプを備えた、香りを放つ機器。)などが印象に残りました。

 陶器も、ロンドンやリバプールで作られた、いわゆる「英国デルフト」と呼ばれるtin-glazed陶器の皿や壷、スタッフォードシャーの陶器人形や食器類、さらには大陸の作品(本家オランダのデルフト作品など)もたくさん展示されています。

 同じく1階のすぐ隣には、アジア美術の部屋があります。ここには唐三彩から、宋、元、明、清各代の陶磁器まで、数はそれほど多くないものの揃っています。宋代・龍泉窯の青磁壷、清代・徳化窯の白磁観音像などが見所でしょう。日本の作品では、伊万里の大皿などがあります。

 なお、米国装飾美術、欧州絵画・彫刻といった他のセクションにも、東洋・西洋の陶磁器が所々に置かれています。特に、1階から3階まで通しで展示室を占める米国装飾美術セクションには、家具類の周囲にかなりの数の陶磁器が置かれていますので、足を運んでみてください。
(2006年5月執筆)