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ウィンタートゥア(米国:ウィンタートゥア)
Winterthur (USA:Winterthur, DE)


 ニューヨークとワシントンDCのちょうど中間あたりにあるデラウエア州のBrandywine Valleyと呼ばれる地域に、広大な庭園に囲まれた邸宅・ウィンタートゥア(Winterthur)はあります。ここは、デュポン(Du Pont)社の創業一族が三世代にわたって住んだ邸宅で、その名称は一族に関係するスイスの地名からとられたそうです。現在では、美術館として公開されており、建物自体ももちろんですが、その中に展示されている米国家具や陶磁器・銀器などの装飾美術品で知られています。

 邸宅本体には、何と175もの部屋があり、ガイド付きツアーで見て回る仕組みになっています。もちろん一つのツアーで回る部屋数は限られていますが、ダイニング・ルームのテーブルの上、食器棚の中、暖炉の上、そして展示用のガラスケースなどに、多くの陶磁器が展示されているのを見ることができます。ディナー・セットが多く、中国輸出磁器やスタッフォードシャーの陶器などのセットに加え、歴代大統領(ジョージ・ワシントン、ジェームズ・モンロー、ジェームズ・ポーク、ユリシーズ・グラント)の公式ディナーセットの一部も展示されており、デュポン家の社会的地位をよく表しています。英国磁器では、18世紀ダービーのいわゆる「非対称の壷(asymmetrical vase)」や蓋付きのバスケット(ダービー「D1-7」と同型のもの)などが無造作に机の上に置かれていたりします。小さなシャンデリアのような蝋燭立ての柄の部分にウェッジウッドのジャスパー・ウェアがはめ込まれているものもあります。また、米国磁器では、フィラデルフィアのタッカー(Tucker)社(19世紀初期の短命の窯)のディナーセットなども置かれています。

 邸宅に隣接している二階建ての「ギャラリー」は、自分で自由に回ることができます。一階にある「陶磁器とガラス」セクションには、英国陶磁器と輸出中国磁器の作品が多く展示されています。英国のものでは、チェルシー、ボウ、ロントンホール、ダービー、ウースター、プリマス、ピンクストンなど幅広い作品があります。ボウの人物像を配したポプリ入れや、ダービーの鳥のついたセンターピース(6枚の小皿が2段に分かれて付いているもの)などが見所でしょうか。イングリッシュ・デルフトやスタッフォードシャー陶器のミニチュア食器も注目です。二階は特別展が中心ですが、私が見たときは"Time for Tea" と題するティーセットの展示が開催されており、英国磁器では、ウースター、チェンバレン・ウースター、ロウストフト、ニューホール、スポード、スウォンジーのティーポットやカップなどが陳列されていました。

 ギャラリーから庭園側に出てすぐのところに、「キャンベル・コレクション」用の新しい展示室があります。これは、缶スープでおなじみのキャンベル(Campbell)社が資金を提供して収集した、スープ入れ(tureen)を中心とする陶磁器・銀器などのコレクションで、1997年以来ウインタートゥアで常設展示されているものです。このコレクションに関しては何度か出版がなされているようですが、最新のカタログはFennimore & Halfpenny著"Campbell Collection of Soup Tureens at Winterthur"としてまとめられています。

 英国磁器作品に関しては、特にチェルシー作品が素晴らしく、うさぎを模したスープ入れ(ペア)、めんどりとひよこを模したスープ入れ、極めつけは「いのししの頭部をトレイに乗せたもの(!)」を模したスープ入れという、どれも実物大の迫力ある作品に圧倒されます。これらを見るためだけでも、ここを訪問する価値があるかもしれません。1760年代のダービーの珍しい形のスープ入れ(紋章付き)もあり、中国製品の補充だったのではないかと解説されています。他には、ボウ、ウースター、ロントンホール(あるいはウエスト・パンズ)、ブリストル(チャンピオン)の作品があります。

 欧州大陸の磁器作品では、特にマイセンが多いのですが、その中の一つ、1738年頃のケンドラー/ヘロルトによるスープ入れと広く信じられている作品については、「X線分析の結果、エナメルと金彩に19世紀に入る前には使われなかった成分が含まれていることが分かり、製造年代に疑義が生じている」との解説が付されていて、興味深く感じるとともに、この美術館の学究的姿勢に感心しました。なお、マイセン作品では、「スワン・サービス」のスプーンが展示されています。スプーンにまで白鳥の浮彫りがあるのですから驚きです。染付けの花麦藁の上に朱と金彩で中国風の人物・風景を描き加えたスープ皿もあります。その他、ウィーン、コペンハーゲン、ヴァンサンヌ/セーヴル、ニンフェンブルグ、フランケンタール、ベルリン、ドッチア、カポディモンテ、コッツィなどの作品があります。

 キャンベル・コレクション展示室のすぐ隣には、この美術館が誇る図書館があります。装飾美術全般に関する図書館ですので、陶磁器に特に力を入れているわけではないはずですが、広い書庫にある長い書架のうちの一列が全て陶磁器関係の書籍に充てられています。洋の東西を問わず、陶磁器関係の文献が揃っていますが、英国陶磁器に関しても、全般的な解説書から個別窯に関する専門書まで、かなり網羅的に集められています。アリアナ美術館の図書館と違い、ここは一般の訪問者にも開放されています。私はうれしくて、何冊も本を引っ張り出して、ついつい読みふけってしまいました。

 ギフト・ショップも忘れてはいけません。ギャラリー近くにある店は、いわゆる土産品中心ですが、ビジターセンター内にある店は書籍中心になっています。陶磁器専用の書棚には、比較的新しい出版であれば、かなり専門的な書籍でも並んでいます。これまで私が見た美術館内の書店の中では、西洋陶磁器に関する品揃えではここが一番です。

 この美術館は、交通手段が車しかないのが最大の難点です。さらに、邸宅、ギャラリー、庭園、(さらには図書館も)と回っていると、一日がかりになってしまうのです。何かのついでに、というわけにはいかず、ここを目指してきちんと準備しないと訪問することは難しいでしょう。それでも、西洋磁器の愛好者(探求者)であれば、訪問する価値は十分あると思います。もちろん邸宅及び庭園自体の美しさも特筆ものです。
(2006年5月執筆)