原典を読む 4.ティーボに関するウェッジウッドの手紙(1774-75年)
18世紀の複数の磁器窯でモデラーとして働き、"T"(あるいは"To"、または"IT")のマークを残した正体不明の人物がいます。かつて、この人物の正体は、ウェッジウッドに記録が残っているティーボ(Tebo)という名のモデラーだと考えられていました。現在では、この説は主流ではなくなっていますが、それでもこの人物に関するウェッジウッドの記録がどのようなものなのかを確認しておくことは、いまだ決着のついていないこの問題を考える上で必要なことだと思います。(ウースター「W4」参照。)
ジョサイア・ウェッジウッドは、共同経営者でロンドンでの事業を担当していたトマス・ベントリーに膨大な数の書簡を書き送っています。それらは18世紀の陶磁器産業を研究する上での重要な文献となっており(おそらく、この「原典を読む」欄でも、この後何度かご紹介することになるでしょう。)、ティーボに関する記録も、そこに書き残されています。それら書簡は、これまで複数回にわたって相当数が出版されていますが、ここでは、以下の二つの文献を底本に、ティーボに関する記録を確認してみます。よく語られるのは「ティーボはウェッジウッドから酷評されていた」ということですが、ウェッジウッドが実際にどのように記述しているのか、じっくり読んでみてください。
(出典)
- Ann Finer & George Savage "The Selected Letters of Josiah Wedgwood":@
- Katherine Eufemia Farrer "Correspondence of Josiah Wedgwood Volume 2: 1772 to 1780":A〜D
@1774年11月5日の手紙(ウェッジウッドからベントリーへ)
原 文 仮 訳 Mr Tebo, our new Modeler, did not return here of some days after me, and I am glad he did not for he would have made a shocking Ugly thing of the Lamp if he had been left to himself. But he has sprain’d his Arm, and has done very little work at present. 我々の新しいモデラーであるティーボ氏は、私の後何日か戻ってこなかったが<注1>、それはよかった。もし彼に任せていたら、彼はぞっとするほど醜いランプを作っていただろうから。しかし、彼は腕をくじいて、今はほとんど仕事ができない。
<注1>ウェッジウッド自身が工場を離れており、戻ったのが10月末であったことを踏まえた記述。
A1774年11月16日の手紙(ウェッジウッドからベントリーへ)
原 文 仮 訳 …All things go on well at the works. Mr. Tebo is modeling the two Lamps from St. Non, - but goes on very slowly.
If you could take a Modeler with a Lump of Clay to the Museum, & let him model a few of those you like best, or send us your Books with Lamps in, or both, it would do very well. We have model’d a small Teabord, of which you shall have a sample soon, & I wish you may like it. I could not make our Modelers please me at all, in this simple thing, by all the instructions I could give them, so I sat down & did it myself, but I do not mean by saying this to preclude your taking it to pieces, for I rather wish you to have such articles, & forms, as will please your Customers than to be complimented myself as a Modeler.…工場では全てうまくいっている。ティーボ氏は、聖ノンのランプのモデルを二つ作っているが、とても遅い。
もしモデラーに土を持たせて博物館に連れていき、貴君の一番好きなものを2、3作らせてみれば、あるいはランプが載っている本を送ってもらえれば、あるいはその両方をやってみれば、とてもうまくいくのだろうが。我々は小さなティーポット<注2>の型を作ってみた。その見本を近いうちに送るので、気に入ってもらえるとうれしい。我々のモデラーに指示をしてこのシンプルなものを作らせてみたものの、誰も私を満足させてくれなかったので、私が座って自分で作った。しかし、だからと言って貴君がそれを壊してしまうのを妨げるつもりはない。私は、自分がモデラーとして引きたてられるより、顧客を喜ばすであろうこうした作品、形のものを貴君に持っていてもらいたいのである。
<注2> 原文にあるとおり、底本としたFarrerの文献では”teabord”となっている。しかし、Finer & Savageの文献(手紙全文は掲載していない。)で引用されている当該部分には”tea [pot]”とある。
B1775年7月3日の手紙(ウェッジウッドからベントリーへ)
原 文 仮 訳 I wish you would send me some Prints of Greek or Roman Heads to make your suits a little more complete. I think we can manage to model them, & Mr. Tebo has nothing else to do. He is not equal to a Figure, but I can make him bost out & others finish these Heads. I believe you are an Empress or two short of a complete Suit, if you can send me the Prints we will model them. 貴君のセットをもう少し完全にするため、ギリシャ人あるいはローマ人の頭部の図版を送ってもらえないだろうか。それらの頭部を型にすることができると思う。それに、ティーボ氏は他に何もすることがない。彼は、人物像はあまり得意でないが、大まかな形を作らせて、他の者にそれら頭部を完成させればよい。貴君のセットには王女が一人か二人欠けていたと思うので、その図版を送ってもらえればそれを型にしてみる。
C1775年7月11日の手紙(ウェッジウッドからベントリーへ)
原 文 仮 訳 Mr. Tebo has had a cast of a Hares Head before him some time, but it is not a likeness. - The wet plaister in Casting presses down the hair upon the face, & makes it look like the head of a drown’d Puppy; & Mr. Tebo cannot model anything like the face of a Hare - he has made many attempts at sundry times, but they generally turns out to be full as like Pigs as Hares. Besides we cannot tell what to do with the Ears, we are full as badly off with these as the Dustman with his Hands, I wish you could find us a pocket to dispose of them into.
A Foxes Ears are of a decent size, but the great slouching Ears of a Hare we can never keep in any compass. If they belong’d to a Horse, or a Dog, authorities would not be wanting for cropping them, but Hares I believe generally wear their Ears of natures own fashioning.少し前、ティーボ氏がうさぎの頭部のキャスト<注3>を持ってきたのだが、これが似ていない。−型取りする際の濡れた石膏枠が顔面に毛を押し下げて、まるで溺れた子犬の頭部のようだ。ティーボ氏はうさぎの顔に似たものは一切造型できない。−彼は何度も色々と試みたのだが、総じて、うさぎより豚に似ているという結果となっている。加えて、その耳をどうしたらよいかも分からない。切り取ってしまうのだろうか、掃除人の手を切り取るのと同じくらいひどいことだが。貴君にそれを捨てるポケットを見つけてもらいたいくらいだ。
きつねの耳は適度なサイズだが、うさぎの大きな垂れ下がった耳は、決して適度なものではおさまらない。もしその耳が馬や犬についていたとしたら、当局もそれを切り取ろうなどとは思わないだろうが、うさぎというものは一般に独自の特徴的な耳をつけているものだと思う。
<注3> 石膏型枠から取り出した時点での像(あるいはその一部)。
D1775年10月28日の手紙(ウェッジウッドからベントリーへ)
原 文 仮 訳 Mr. Tebo leaves us the 11th of this month, & not before he has done us very considerable mischief, for our Modelers do less by one half than they did before, charging double prices for their work, & when talk’d to about it have their reply ready “that it is cheaper than Mr. Tebos, & is finish’d, which his work never is. This will be a serious affair for me to manage, & bring back again without parting with any of them which I do not wish to do. ティーボ氏は今月の11日に我々の下を去ったが、その後彼のせいで大変な迷惑にあっている。というのも、我々のモデラーたちは以前の半分しか仕事をしなくなり、彼らの仕事に2倍の価格を要求しているからである。そして、それについて話をすると、「ティーボ氏の給料よりも安い上に、仕事はちゃんと終えている。彼の仕事はいつも終わらないのに」との返答である。これは、私にとっては扱いが難しい問題になるだろうが、私が望まない給料は誰にも支払わない<注4>対処を改めてするつもりである。
<注4> 原文にはpartingとあるが、payingの誤りではないかと思われる。
(2013年3月掲載)