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プリマス ソースボート (1768-70年頃)
A Plymouth Sauceboat Ca.1768-70



 

 ロココ調の小型ソースボート(あるいは大型クリーマー)である。浮彫りが施された本体に、親指かけの付いたループ型取っ手、それに横に広がった台座を持つ。プリマスの典型的作例の一つであるが、もともと1750年代からヴォクソール(Vauxhall)で製造されていた流れを汲む形状である。ウィリアム・クックワジー(William Cookworthy)は長らく硬質磁器焼成に関心を持っていたが(「原典を読む6」を参照)、1760年代中盤のヴォクソールの経営破綻後、その旧経営者であるニコラス・クリスプ(Nicholas Crisp)がボヴィ・トレイシー(Bovey Tracy)で磁器を製造するのを支援していた。ボヴィ・トレイシーでの磁器製造は商業的に軌道に乗ることなく終わり、1768年にはクックワジーが自らプリマスで磁器窯を立ち上げ、クリスプの下にいた職人や作品の型などを引き取っている。このロココ調ソースボートは、そのヴォクソールから伝わった型の一つである。ただし、ループ型の取っ手はプリマス作品特有であり、ヴォクソールやボヴィ・トレイシー作品では浮彫り入りのロココ調取っ手が用いられている。(プリマス(P8)を参照。)

 本品の素地は、(写真でも分かるとおり)プリマス作品に典型的な灰振りの多いものである。英国初の硬質磁器窯として高く評価されているプリマスではあるが、本品のような素地は、白磁としては問題のあるもので、それを覆い隠す観点から、ややうるさい感じがする程のエナメル絵付け及び金彩が施されている。浮彫りをなぞる形で、赤と金彩で枠どりがなされ、枠内にはピンク、緑、青、黄色、それに金彩まで使って蝶と花が描かれている。白磁部分をなるべく残さないよう、注ぎ口や取っ手の下にも花が描かれている。ただ、このような文様化された蝶や花は、プリマスのエナメル絵付けとしては、あまり目にしないものである。

 窯印は記されていないが、裏面に短い直線が刻まれている。これはプリマスのソースボートではよく見られるものである。

マーク:裏面に刻み込まれた短い直線。
Mark: An incised stroke on the back.
高さ(H):10p (取っ手含む。incl. handle)

(2012年12月掲載)