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コラム15.ホームページを更新できない理由


 長期間ホームページを更新できずにいるときは、それなりの理由があります。他のことで忙しくて単に時間が取れない場合もありますが、調べ物がはかどらなかったり、何度やっても写真がうまく撮れなかったり、気が乗らずに文章が書けなかったり、と色々です。

 このホームページの中の「原典を読む」は比較的最近はじめたコーナーです。私のひとりよがりの勉強の場ですので、読んでいただいている方はほとんどいないと思うのですが、私としては結構こだわりを持って調査し、翻訳しているつもりなのです。

 先日は、ブリストル窯のフィギュアに関する文献を取り上げようとして調査にかかりました。1772年にブリストル窯の経営者であるRichard Championがモデラーに対してフィギュアの型の作成について指示を出した手紙です。ElementsとSeasonsのフィギュアセットについて、細部まで具体的に指示をしているのですが、実際にその指示どおりのフィギュアが作られているという点で興味深いものです。

 この手紙の内容はいくつかの文献に記載されていますが、調べているうちに、実物のコピーがHugh Owen著"Two Centuries of Ceramic Art in Bristol"(1873年発行)に掲載されていることが分かりました。私の持っていない本です。実物コピーを見なくても翻訳はできるのですが、文献上の引用では、断りなく省略されている部分があるかもしれません(実際によくあります)。単語のスペルや句読点の打ち方に変更が加えられているかもしれません。「原典を読む」と銘打っている以上、実物を参照できるのにそれをしないのは、少しオーバーに言えば、沽券に関わるといったところでしょうか。誰も読まないにしても、私自身のこだわりなわけです。

 幸いなことに、この本に関してはOxford大学の蔵書をGoogleがスキャンしたものがネット上で無償公開されています。そしてお目当ての手紙のコピーも見つかりました。ところが、その画像があまり鮮明でないのです。プリンターから印刷してみても同じです。ただでさえ読みにくい手書きの手紙なのに、不鮮明な画像ではきちんとした読解は困難です。やはり原書を買わないといけないのでしょうか。ネットで調べると最低でも1万数千円します。でも、この本はスキャンしたものを新たに紙に印刷したペーパーバック版が販売されていることが分かりました。PC画面や自分のプリンターで印刷したものでは不鮮明でも、専門業者が印刷したものなら、もう少し鮮明で読みやすいかもしれません。価格も3千円程度です。以前に同様の形式で出版されたJosiah Wedgwoodの書簡集(「原典を読む 4.ティーボに関するウェッジウッドの手紙」を参照。)がなかなか役に立ったので、今回も少し期待していたのです。

 しかし、その期待は見事に裏切られました。届いた本はとても薄くて、一目見ただけで何か変だと感じます(原書は400ページ超の大著です)。実は、この出版は原書をスキャンしたものを新たに読み取りプログラムにかけて、きれいな現在の活字に直したものだったのです。それをとても小さな文字でびっしりと並べているので、ページ数がとても少なくて済んでいるというわけです。それで、肝心の手書きの手紙はどこにあるのか、ちゃんと読み取られているのか(そんなわけないですが)と探してみたのですが、見当たりません。実は、この出版からは、手書きの部分は(それどころか全ての図版が)完全に削除されていたのです。機械で読み取れない部分はオリジナルを残しておくのではなく、全て削除してしまう、それがこの出版の方針なのでしょう。

 このときの私の脱力感を理解していただけるでしょうか。というわけで、ホームページを更新できない理由の具体例を一つご紹介しました。ところで、この話の教訓は以下のどれだったでしょうか。
 @こだわり過ぎはいけない。
 Aデジタル出版には要注意。
 B読みやすい文字を書くべし。


(2015年5月掲載)