- 江戸で初めての上水道をつくった男 -

お菓子な旗本 大久保主水


<歴代の大久保主水>

2代大久保主水 / 大久保十右衛門 忠元


十右衛門忠元の出自については、すでに「30.二代大久保主水は、町年寄・樽屋からの養子」で詳細に述べているので、そちらを参照してもらうのがよいと思う。簡単に述べておくと、初代主水の従弟であり、また、江戸町年寄のひとつ、樽屋(水野藤左衛門)の次男になる。ただし、主水の兄弟姉妹のうち、誰が水野家に入ったのかは定かではない。
由緒書は幕府に提出する履歴書のようなものなので、本人の人柄や実績、家族状況などが分かるものではない。おおむね家柄や家格の立派さを自慢気に述べ立てるものだから、内容的にはあまり面白いものではない。とはいえ、ところどころに様子をうかがうことができる。たとえば、以下の様に将軍の上洛之時に随行を許されていて、その費用などは支給されたことを書いている。そういう扱いをされたことを強調しているのだろう。さらに、この頃から長崎で直に砂糖之買い付けをしていたことが書かれている。他の菓子屋とは格が違う、といいたいのかも知れない。

以下に、『大久保惣系譜』および由緒書に、二代大久保主水 忠元がどう記載されているか、関連部分だけを抜き書きしている。


●『大久保惣系譜』

実は水野藤左衛門次男 実は従弟于世町司称樽屋
大猷公御代御菓子不絶被命之
以従弟を為養子と勤役公務を
上洛之支度料拝領之を御伝馬御紋
之絵符差 道中鑓免許供奉
慶安元年戌子四月廿日病死

※大猷公=徳川家光
※絵符差=荷物につけた目印の札

●『御菓子屋大久保氏』(「史跡雑纂」所収、大田南畝「家伝史料」)

百三拾六年以前 元和八戌年 母日宝跡御用 被仰
付 御上洛之節支度金拝領仕 御伝馬御紋の絵対
指道中鑓御免被遊御供仕 長崎表にて御砂糖直買
被仰付 慶安三寅年病死仕候

※絵対指:絵符差のことか

●『御用達町人由緒』

藤五郎養子実従弟
実樽屋藤左衛門次男
大猷院様御代、御菓子絶不申候様に被仰出
十右衛門義従弟の続を以養子に仕 主水と相改御用相勤申候
御上洛の節 仕度金拝領仕
御伝馬に御紋の絵蒔差道中鑓御免にて御供仕候

●『御賄御用達町人家譜』

百三十六年以前元和八戌年母日宝跡御用被仰付 御上洛
之節仕度金拝領仕 御伝馬御紋之絵対指道中被遊
御免候 御供仕 長崎表に而御砂糖直買被仰付 慶安元寅年
病死仕候

●『文政の由緒書』(『佃島赤澤八之助大久保主水平田彦乗』所収・筑波大学図書館蔵)

台徳院様御代元和八戌年三月被 召出
  主水と改名日光 御社参御供被 仰付
  御金被下し道中鑓具足櫃為持し
  御供仕候
一 月次の御例之外時々 御目通候被出
   御用向相伺し
一 同九年亥年
大猷院様 御上洛の節御供被仰付候道中
   鑓具足櫃為持し御供仕候御金被下し
一 正保二酉年知行三百石は奉差上御砂糖
   被下置候様日宝奉願候処願之通被仰付
   於長崎元代金千両分年々撰除可取旨
   被仰付候
一 慶安元子年迄相勤同年四月病死仕候

これ以前の由緒書では「上洛」に随行したことが書かれているが、この由緒書では「日光社参」に言及されている。家康廟に詣でることを許されていたということで、忠誠心を強調したかったのだろうか。「上洛」「日光社参」ともに他の御用達町人も随行していたのか否か分からないので、なんとも言えないところもある。
また、知行三百石は、忠元の代で返上した、と書いている。知行を下し置かれていた時期と、それ以後で、扱いがどう違うのか。その辺りは、よく分からない。また、長崎での砂糖直買いが年に千両だったことが分かる。
時代がくだるにつれて内容が長くなっているが、わりと事務的な内容なので、話を盛っている印象はあまりないように思う。提出する由緒書の他に、代々の覚え書きのようなものがあったのではないだろうか。推測だけど。

●『文久の由緒書』

台徳院様御代元和八戌年三月被 召出主水と改名仕日光
  御社参御供被 仰付御金被下置道中鑓具足櫃為持
  御供仕月次御礼之外時々 御目通江罷出御用向相勤
  同九亥年
大猷院様 後上洛之節御供被 仰付道中鑓具足櫃為持
  御供仕正保二酉年知行三百石は奉差上御砂糖被下置候様
  奉願候処願之通被 仰付於長崎元代金千両分年々
  撰除可取旨被 仰付慶安元子年四月廿日病死仕候

おおむね『文政の由緒書』だが、「月次御礼之外時々 御目通江罷出御用向相勤」と、毎月江戸城中を訪れ挨拶していたこと、さらに、時々将軍に御目見していたことが付け加わっている。毎月の挨拶が誰に対してなのかはよく分からない。賄頭になのか、その上役なのか。また、将軍への目通りも、どのような形だったのか定かではないが、おそらく年中儀式の際に参列したことをいっているのではないかと思われる。徳川家臣でも御目見以上が旗本で、御家人は御目見する資格がないといわれているので、対外的には箔が付くのだろう。


(2020.08.30)

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