とにかく暇な夏があった



1991年の夏は、とっても仕事がヒマだった。僕は当時サラリーマンコピーライターをしていたのだけれど、1日中なにも仕事がないような日々が1カ月近くもつづいたのだ。10時に出勤してコーヒーかなんかを飲んで新聞を読んで、あとすることがない。ちょっと早めに食事に出かけて、近く(主に銀座ね)のギャラリーやデパートショールームなんかをぶらぶらする毎日だったのです。しかし、ギャラリーも日替わりで変わるわけではないから、当然飽きてくる。しかも、仕事が突然入ってくるやも知れないので、そうそう席を外しているわけにもいかない。だから、午後の2時過ぎには会社の席に戻って雑談したり、図書室で雑誌を眺めたりしてたわけです。
当時、隣の席には女の子のコピーライターがいた。彼女は社内に友だちが多く、いろいろとやってきてはお話ししてるのです。その話が、当然耳に入ってくる。中に、カメラマンの女の子で“霊感がある”という人がいてね。みんなの背後霊を見てくれたりとかしていたのです。そんな話がなんとなく頭の中に残っていったのでしょう。
というのが、きっかけになってますね。
で、ときを同じくしてこういう本を買ったのです。
「推理作家製造学◎入門編」姉小路祐/講談社
作者は「動く不動産」という作品で第11回横溝正史賞を受賞した新進作家でした。この本には、彼が小説家になろうと発作的に思い立ったときのことから、いくつかの新人賞に応募してはかすりもしなかったり、最終選考に引っかかったり、落ちたりの様子が事細かに書かれていました。最終選考に残った短編も掲載されていて、その作品に対する選評も載っていたりして、とっても興味深いものでした。さらに、横溝正史賞への応募と、編集者とのやりとりなど、事実関係が書かれています。
これを春の時点で読んでいたことがベースにあったはずです。
僕は、仕事用に机の上にあったワープロ専用機に「ある少女が霊感をもっていて、彼女が新興宗教の教祖に祭り上げられたとしたら・・・」という設定で、なんとなくドキュメンタリー風に文字をタイプ入力していきました。もちろん、小説を書くというつもりはなかった。耳に入ってきた事実をメモのようにして入力してみたのです。





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