控え選手にチャンスが



3月24日、僕は夜9時頃会社から戻った。すると同居人がこういった。
「さっき集英社の人から電話があってね。あなたの本を出したいので連絡くれって」
「冗談だろ」
「本当よ。最終選考に残ったんだって。それで、賞には別の人のが選ばれたんだけれど、あなたのも本にしたいんだって」
うーむ。はてなだな。一体どういうことじゃ? というわけで、教えられた番号に電話してみた。
「あなたの作品が最終選考に残った。惜しくも入賞は逃がしたが、いろいろ議論はあった。選考委員のある女性作家は、ぜんぜん認めないといったけれど、評価する人もいた。第1回めの賞でもあり、この際、最終選考に残った5作品は全部本にしてみようということになった。出版は6月を予定している。本にするに当たって手直しをして貰いたいので、30日の月曜日に一度来て欲しい」
ということだった。ありゃありゃ。こっちが知らない間に出版のローテーションに組み込まれてしまっているなんて・・・。僕は、ただ「はいはい」といって受話器を元に戻した。あまりにも突然だったのと、状況の中途半端なことに少しあきれ果てていた。だから、最終選考に残ったことは嬉しかったけれど、飛び上がって喜ぶというほどでもなかった。100万円が完全になくなったことが、残念だった。それと、どんな直し注文があるのか、ちょっと不安だった。
30日は有給をとった。集英社には1時に着いて担当の××さんと1階の業者だまりで会って、話を聞いた。内容は電話で聞いたことに肉付けしたような内容だった。大賞を受賞したのが女の人で、時代小説だけれどよくできていること。佳作に、20歳くらいの男性が入り、それはマンガをそのまま小説にしたような内容で、将来性をかって賞の対象となったこと。あなたのように30過ぎの応募というのはなかった。これから本を出していくとなると、3カ月に1冊くらいの間隔で書いて貰わなくちゃならないこと。そして、僕のストーリーに関しては、ラストが拍子抜けなのでもっと盛り上げて欲しいという注文があった。拍子抜けするように狙って書いたのだけれど、それは受けなかったということだ。本は6月15日刊なので、4月15日までに直しが欲しい、という。さらに、
「あなたのは巻き込まれ型のストーリーだけれど、あの終わり方では読んでいる方が消化不良を起こしてしまう。もっと、悪をやっつけるという積極性が出てもいいんじゃないだろうか」
といわれたので「手足が吹き飛んだり、血がどばどば流れるようなシーンは避けたんですけれど、いいんですか、そういうことを書いても?」と訊ねると、構わない、という。この辺は僕の認識不足だった。実際、スーパーファンタジー文庫なるものを読んだことがなくて応募したのだから。
「田中芳樹さんの「銀河英雄伝説」なんか読んでみるといいですよ。登場する女性がなんとも艶っぽい感じで書かれている。いかにも生意気なんだけれど、惹かれてしまう」
ともいわれたので、早速神田の書店で「銀河英雄伝説」の第1巻を買って帰った。でもそれは現在に至るまで10ページしか読めないまま放りっぱなし。第1巻というのが、字は小さいし、年代記風に長々と歴史を述べていて、お話がなかなか始まらないからなのだけれど、こういう難しいのを中学生あたりが読んでいるっていうこと自体が驚きで、信じられないことだった。後になって、田中芳樹さんの「創竜伝」シリーズを読んだときは、そーかそーか、と文章を分析しながら読んだものだけれど。






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