冬の鳥取砂丘シリーズ No.26-2
仏の飛行機
第二部
その日から彼は、この円盤機の理論と、この機を使って行う使命・理念をみっちりと叩き込まれる事になった。A教官は普段は優しい人だが、ひとたび教壇に立っと厳しい人だった。とは言っても、彼は一夫に一日も早く構成員になって貰いたいとの思いがあったから、厳しい中にも何処か愛情がこもっていた。一夫は三人の教官と寝食を共にする事になり、営庭内にある宿舎に起居する事になった。 その宿舎は豪華とは言えないまでも一通りの設備が整っていて満足すべきものだった。彼等は、この広い営庭内を行き来するのに現世では珍しいリニアモーターカーを使っていた。それは子供でも運転できる簡単なもので、低速時には車輪が出ているが高速時には自動的に車輪が引っ込み、地上50cmほど浮上して走るものだった。そう言えば、現世では、特に日本では、未だ実験中で試験車が時速500kmを超えたと新聞に出ていた事を思い出したが、ここでは子供でも乗っている乗り物だった。彼は思った。「こうして次元の違う世界では、地球文明を遥かに凌ぐ文明があるのだな」と。
ある日の晩、彼は思いきってA教官に尋ねてみた。「いっかお尋ねしようと思っていたのですが、私が此処に来る道中では周囲が暗かつたのですが、此処に来てから眺めて見ると、夜になっても明るくて道は広く、まるで高速道路のようではありませんか。確かに、私が此処に来るまでの道中はほとんど暗闇に近いものでした。間違いありません。どうしてでしょうか」と。それを聞いたA教官は笑いながら「それは、誰でも此処に来るまでの亡者は同じなのだよ。かつての私もそうだった。つまり、現世を辞した人間と言うものは、納得して死んだ者もあるいは居るかも知れんが、大半の者は<心ならずも死んだ>と思うだろう。したがって、彼等は失意のどん底にある。と言う事は、その人の心の目が曇っていると言う事になる」
「更に、これから自分の行く手に何があるかは分からないし、とにかく命じられた通りに命じられた道を進むしか方法がない。彼等には周囲を見渡せる余裕がないのだ。無いと言うよりも、その能力を与えられていないと言う方が正解かな。つまり、実際に有るものが見えなかったと言う事は、俄に現世を辞した亡者には心の目を曇らせて真っ直ぐ歩ませると言う、尊い方面の働きがあったとしか私には言えないが、要するに、その時は誰でもお前さんと同じなのだよ。そう言う事だよ。分かったかな。それからもう一つ、お前さんはこの世界に来てから、我々の大切な使命を達成するために尊いお方の計らいで肉休を授かった訳だが、未だ一度も自分の姿を見た事はあるまい。バスルームに行って自分の姿を見てご覧」と言った。
一夫は、A教官は一体何を言っているんだろうと思いっつ、バスルームに行ってミラーを眺めた。そして、「あっ」と言うなりそこに立ちっくしてしまった。何と、そこには自分とは似ても似っかない別人の姿が映っているではないか。「えっ」と彼は絶句した。「俺はいっからこんな姿になっていたんだ。今まで全然気が付かなかったが。はてな?」と言っているが、何が何やら分からぬままに、ただ呆然と立ちつくしていた。「どうだ、驚いたかい」と、いっの間にやらA教官が横に立っていた。
「教官、私はいつからこんな姿になったのですか。気が付いて居られたのですか」と一夫は上ずった声を出すと、「気が付いていたさ。いやしくも教官たる者は、お前さんの現世時代の履歴から、生前の姿からご両親の年齢から住んで居られる所と、全て知っていなければ勤まらない。今まで何処にもミラーを置かなかったから気が付かなかっただろうが、お前さんは立派に生まれ変わったのだよ。考えても見ろ、お前さんが元の姿になったとするか?そして現世にたまに帰るとするか?その時、お前さんの生前の姿を見知っている人達が見たらどうなる?死んだ人間が化けて出たと思うだろうし、第一、ご両親がお前さんの姿を見て何と思われるだろう」
「一夫はこの世に未練が残っているために、成仏できずにあちこち彷径っていると思われるだろう。そして、あまりの情けなさと悲しみのために亡くなられる危険性だってあるのだよ。それならいっそ別人の姿になった方がいいに決まっている。実はな、私が最初にお前さんと面接した時には、すでに今の姿形になっていたのだよ。
今まで黙っていたのは悪かったが、バスルームのミラーも今朝になつてC君が取り付けたものだ。天上天下全ての宇宙にただ一人しか存在しない男子を菩薩様がイメージされて、今のお前さんがある」「お前さんもハングライダーやソアラーに乗って飛んだ経験があるから分かるだろうが、空中勤務はかなりの激務であり身体は強健でなければならん。そう言う意味で、お前さんの現世に於ける肉体は、たとえ事故によって死ななくても役に立たない事は分かっている。年の割には相当ガタが来ていると言う訳だ。生前の不摂生が崇ったと言う事だ。今回、お前さんが尊い方から戴いたその肉体は、実に理想的なものだと言える。年齢も26歳ぐらいの身体にしてあるそうだ。それと、背もやや高くなっているし男前になっている。他人の顔の事を言っては失礼だが、私は、お前さんの生前の写真を見ているからよく分かる。言っては何だが、今の方がずっとハンサムだと思うよ。また、これは尊い方面から得た情報だが、お前さんがこの仕事を真面目にこなすなら、現世で暮らして居られるご両親は、90歳ぐらいまでは幸せな生活が送れるそうだが、それもお前さん次第だそうだ。どうだ、せっかく生まれ変わったのだから、ご両親の幸せのためにも、陰ながらもしっかり孝養を尽くすのだな。頑張れよ」と、優しく諭すように言った。
一夫は思った。「本来、俺の身体はあちらで火葬にして灰になっているのだ。ここに来るまでの時点で俺の<心の入れ物>は存在しないのだ。それを、俺がここに来た時点で観音様が新しい入れ物を作つて下さった。ありがたい事ではないか。俺は生まれ変わったのだ。現世に在る父や母のためにも頑張る以外に、俺がここで生きる術がないのだ」
「こうなったら一生懸命頑張って観音様やお釈迦様の期待に応えるしかないな」と、気持ちが吹っ切れた一夫は「教官、愚痴がましい事を言って済みませんでした。もう、すっかり気持ちの整理がつきました。今後は頑張ってご期待に応えるのみです。どうかよろしくお願いします」と言った。新生飛山一夫は新たにDとしての再出発である。一旦、こうと決めたら後戻りしないのが彼の身上だったから、彼の心も体も生き生きとして来た。「先に円盤機の機体を成す金属の話を少ししたが、この円盤機は現世のどんな航空機でも追跡不可能の最高速度マッハ12のスピードを出す事ができる。と言う事は、空気のある所はもちろん、比較的空気の薄い成層圏や宇宙空間に於いても、かなりの空気抵抗があるし、更に、空気の摩擦によって機体に発生する熱は、場所によって違うが数千度にも達する。したがって、巡航速度マッハ3程度で飛ぶこの円盤機では、生半可な金属で機体を構成しては役に立たない。つまり、表面温度が上昇して機体が溶けてしまうと言う事だ」「そう言う訳で、現世に於ける航空機も今はかなりの発達をしているとは言っても、その機体を構成する金属の開発には苦労しているようだ。現世では、今、航空機の外壁を成す金属をジュラルミン、チタニウム、セラミック等、或いはその合成物で作っているようだが、これとても、実用機(人や貨物を積んで飛ぶ)ではせいぜいマッハ2以上のスピードは期待できないのが現状だ。大勢の人を乗せて飛ぶと言う事は、機内の与圧の問題もあって、これが機体構成と密接な関係があるからだ。しかも、現世の航空機では耐用年数と言う問題もある。この耐用年数の問題は、エンジンや機体の金属疲労その他から来るもので、これのメンテナンスを怠ると忽ち空中分解を起こす事になる。更に、与圧が原因で事故を起こす事もあるが、現在では、この問題はほぼ解決しているのが現状だ」
「さて、この我々が乗る円盤機の事だが、この機体を構成している金属を仮にィと呼称するとして、この金属の元となる鉱石は決して現世(地球上)では求める事はできない。我が研究チームは、ある宇宙からこれを取り寄せて苦労してマッハ15までに耐え得る金属を開発したが、まだまだこれでは不十分なところがあるので、更に熱に強くて強靭な粘性を持つ金属を開発中である」と。A教官の講義は日に日に熱を帯びて来た。
ある日、当日の講義が終わって小休憩のため四人が集まっていた時、A教官はこう言った。「そう言えば、D君の歓迎会をやっていなかったな。幸いに明日は休日となっている。今晩やるか?」と。
「いいですよ、そんな事は」と一夫は言ったが、「な〜に、こんな事でもなければ大びらに酒を呑める機会がないからな。いいじやないか、先輩やりましょう」とC教官が言ったので、衆議一決と言う事になった。「場所は何処にしますか?あそこの食堂は落ち着きませんしねえ。こんな時、現世では一流料亭と言う手もあるが、此処にはないしねえ。そうだ!あそこにしましょう。あそこなら誰にも気兼ねが要らないし、第一、あそこは料理も酒も旨いと来ているから最適な場所ですぜ」と言うので、<あそこ>でやる事にした。風呂に入って髭を剃り、身体を清潔にする。新しい肉体は若々しくて何とも頼り甲斐があるし、皮膚の弾力がまるで違うように思う。
躍動する身体と言えば大袈裟かも知れんが、若い肉体を持つと心まで若返るから不思議だ。仏教用語に<輪廻転生>と言う言葉があるが、まさしく俺はそうかも知れんなあ(正しくはそうではないが)と思った。正装に着替えて待機していると、三人の教官が入って来た。「そろそろ行くとするか」と言う事になり、四人は一台のリニアに乗り込んだ。広大な敷地を横切って山の中に入る。「こんな山の中にあるのですか?あそこは」と一夫が訊くと、「山の中ではない。この山を突っ切って越えた所にある。まあ、付いて来れば分かるよ」とA教官が言う。
四人が乗っているこのリニア、営庭内を走る時はのろのろと走っているが、ひとたび高速道に出るとスピードがまるで違う。シートベルトを着けて座席に座っているが、キャノピーに当たる風がすごい。
車体が地上より僅かに浮いて走っているのだろう。身体にふわっとした感触が伝わって来る。ものの10分も走ったかなと思われた時、リニアは目的地に着いた。何とそこは、青い海が見渡せる高台にある清酒なロッジと言った感じの建物だった。その白い建物は、何か何処かの王侯貴族の別荘と言った感じのする建物だった。車から降りると「俺達は休みの日は此処で過ごすのが習慣になっているんだ。此処では酒を呑んでも仕事の話をしても人の目がないし、俺達のような秘密任務を持っている者には打って付けの場所なんだよ」とB教官が言う。「こんな豪華な所で飲食をしたら、さぞかし高い料金を請求されるんでしょうね。お三方に多大な出費をさせる事になって申し訳ありません」と言うと、「何だ、そんな事を心配しているのか。気を遣わなくてもいいんだ。ここは現世とは違う。我々のような特殊空中勤務者は何処に行ってもタダなんだよ。気を遣うなよ」とC教官が言うので大笑いになった。
「しかし、この世界にも海があるとは思ってもいませんでしたよ。 どう言うものでしょうかねえ、この世界は」と言うと、「何だ、そんな事か。このような亡者の世界でも、海もあれば山もあるのが当たり前の事だ。海には大きな船から小さな舟まで走っている。ここは全く現世と変わりないどころか、実は現世は此処のコピーのようなものなんだよ。追々分かるようになる」とA教官が言った。
彼等は、とある部屋に案内され、それぞれの椅子に着席した。こじんまりしたその部屋は、内装が白一色で続一されて所々にアクセントが付けられていた。この部屋は何とも和やかな雰囲気のある部屋だと思った。
更に天井の黄色のシャンデリア。このシャンデリアが部屋の豪華さを引き立てている。テーブルには山海の珍味が並べられており、傍らには冷えたシャンパンとビールが置かれていた。
「これは、また豪華なものですねえ。これは夢ではないのかな」と一夫が頬を折っていると、「バカ、亡者の世界に夢もへちまもあるものか」とC教官が言うので、また大笑いになった。A教官が「用があったら呼ぶ。後は我々が適当にやるから下がってよろしい」と言ったので、二人ほど居たウエイトレスは部屋から出て行った。「さて、それでは始めるとするか。今回、はからずもD君と言う仲間を得た事を我々は誇りに思います。これからD君は、座学と実地訓練で益々難しい難関に挑戦して貰う事になりますが、我々三人が責任を以て一人前のパイロットに成長させる事を神仏に誓うものです。D君も、辛い事や心配事、分からない事があれば、遠慮無く相談してほしい。ここに、新しく我々の仲間になったD君の今後の活躍に期待し、健闘を祈ります。観世音菩薩様のご加護がありますように」とA教官が歓迎の挨拶をした。
次に一夫は起立して答礼の挨拶を述べた。「私は生前、全くの怠け人間でありました。やりたい放題の事をやって親を泣かせて来た最低の人間だった訳で、今思うに全く慚愧に堪えません。ハングライダーに乗って突風に煽られ、地上に激突して即死したそうですが、これも因果応報だと思っております。今回、はからずも観音様に拾われて、ありがたい事に、皆様のお仲間に加えて頂く事になりました。ここに衷心よりお礼を申し上げる次第であります。観音様のご恩に報いるためにも、また尊い使命の達成に少しでも近づくよう、心身共に生まれ変わって勤めを果たしたいと思っております。若輩者ではありますが、よろしくご指導お願い致します。皆様にも仏様のご加護がありかすように」と。
三人の教官は、ニコニコとうなづいている。新しく若い(ここでは26歳)後輩を得て嬉しかったのだろう。シャンパンで乾杯して、いよいよ宴会に入る。「D君と酒を呑むのは初めてだが、酒は強いのかね」とB教官が訊くと、代わってA教官が「ああ、彼は強いよ。生前は酒なら何でも御座れの酒豪だったらしい。それと、随分と女泣かせもやったらしいよ」と言うので、「厭だなあ、ここまで来て前世の棚卸しですか」と一夫が言うので、またまた大笑いになつた。
「私は道楽者でしてね。一頃までは呑む、打つ、買うはするはで、随分と親を泣かせたものですが、ある時期になってから、今度は空を飛ぶものに憧れるようになったのを機会に、今までの遊びはキッパリと止めました。ハングライダーやグライダーに乗り、いよいよ小型飛行機のライセンスの段階になってから、このざまです。もし生きて居れば、今頃は広い空を縦横無尽に飛び回っているでしょうが、これについては悔いはありません。何故なら、ここで地球上には存在しない円盤機を操縦させて貰うようになるのですから。これからは、褌をしっかり締めてやりますので、お三方には改めてご指導よろしくお願い致します」と、神妙な気持ちで一夫は言った。
三人の教官は黙ってうなづいていたが、「なるほど、人の人生には色々とあるもので千差万別と言うところだな。さあ、今晩は堅い話はこれぐらいにして、折角だから楽しい話をしようじやないか」とA教官が湿り気のある話に終止符を打った。宴もたけなわになってから、一夫は思いきってB,Cの教官に聞いてみた。「お二人とも現世では何をなさっていたのですか」と。二人は「そんな事はいいじやないか」と苦笑いしている。それを聞いたA教官は、おもむろに口を開いた。「実はな、この二人は現世ではどうにも手がつけられんような極道者だったのだよ。あちらでは、呑む、打つ、買うの三拍子揃った悪の塊のような人達でね。いわゆるヤクザと言う訳さ」
「ヤクザの抗争事件とかで何人か人も殺している。そして事件に巻き込まれて、今度は自分が殺されたと言う訳だ」
「二人ともそれぞれに組織は違うが、それぞれにヤクザの世界では顔だったのだよ。愚かな事だよ、死んで此処に来て初めて自分の人生を後悔したのだからな。私も含めてこの四人は、いやしくも仏に仕える者として、当たり前でなかった当時の履歴や姿形は全て痕跡を残さないように抹消され、心も体も一新して生まれ変わったと言う訳だ。私達三人のような修羅をかいくぐって来た人間に比べたら、お前さんのかっての人生は子供のようなものさ。そうは言っても、今の我々四人は違う。仏様の慈愛深きお計らいによって生まれ変わったのだ。そして、尊い使命に向かって遇進しているのだ。過去は過去、今の私達は現象世界を少しでも良くしようと日々頑張っているのだから」と言った。今回は久し振りの飲み会だったので、普段は口の重いB教官までがリラックスして色々と話していた事が印象に残った。この人達は現世では相当の悪だったに違いない。人を何人か殺したと言っていたが、それが、ここに来てから仏様に感化されて、とても元ヤクザとは思えない人達だ。人間の心の中には仏性(神性)と魔性が存在すると言われているが、尊い方面のお陰で、こうして仏界の手助けをする人間に生まれ変われるとしたら、これは何と素晴らしい事だろうと思った。一夫は改めて心を引き締めて頑張ろうと誓った。
酒も強かに呑み、旨い料理も食って大いに酔った。何を話したか覚えていないほどよく話した。この四人は、改めて一心同体の同志になったようだ。ここの代金は上の方が払うからタダだとは言っても、それでも気が済まないのか、帰りがけにA教官がウエイトレスに、なにがしかのチップを与えているのをチラと見た。
「現世では飲酒運転は御法度ですよ。タクシーに乗って帰りますか?」と一夫が言うと、「タクシーなんてものは此処にはないよ。心配するな。そのために、此処に来た時点でリニアの運転を自動操縦に切り替えてある。我々は車に乗り込んでシートベルトを締め、スイッチを入れるだけでOKなんだ」
「そうしたら、やがて宿舎前にご到着と言う寸法なのさ」とC教官が言う。本当かなと思いっつリニアに乗り込んで座席に収まる。
車はかっきり10分後に宿舎前に到着した。「へ〜、これは驚いた。これは便利なもんですね。なるほど」と感心していると、「当たり前だ。ここはあちらとは違うんだぞ」とC教官が笑いながら言った。
彼等は素早くシャワーを浴びてベッドに潜り込むや、白河夜船の高鼾となっていた。時刻にして夜半の1暗か2時頃だったか。翌日になって、三人はA教官の所に呼ばれた。何か重要な話があるらしい。「実はな、今朝早く司令所に行ったら命令が来ていたんだ。それも私宛にだ。これより円盤機に乗って地球に行って来る。どうもあそこでは、またもやドンパチが始まっているらしい。米国がイラクに戦争を仕掛け、ようやく大規模な戦闘が終わったなと思った途端に、今度は各地で武装勢力が蜂起してゲリラ戦が起こっているらしい。民間人はもとより、双方の戦闘員がかなり死傷しているようだ。方や中東のイスラエル・パレスチナの紛争だ。これはもう収拾がつかないほどの泥沼化になっているらしい。現象世界の憎悪の連鎖は止まる所がない。情けない事だ。そこで私が、当分の間現地上空に赴いて監視活動を続けなければならない事になった。これから出発するが、後の事は頼みますよ。それかD君、今あちらでは風雲急を告ぐ状況だとは言っても、今の君には関係ない。しっかり勉強して早く一人前になれよ。それでは行って来る。後は頼むよ」と言ってA教官は飛び立って行った。
(第二部完)