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第6章 空戦機動
なにはともあれエネルギー
空戦機動の基本は誰がなんと言おうとエネルギーである(^^;)
ミサイルの無い、前方機銃しかないWWIIの戦闘機にとって、空中戦とはエネルギー戦に他ならない。もちろん機体特性、速度特性なども考慮しなければならないが、基本はあくまでもエネルギーである。
飛行機はそれぞれ一定の推力(プロペラを回して前に進む力)を持っている。この推力はスロットルを100%にしている以上常に一定である。しかし、残念ながら2000馬力を誇るF6FのR2800エンジンと言えども、飛行機を推力だけで引っ張りまわすだけのパワーは無い。基本的にプロペラ機の推力は
非常に貧弱
であると認識しなければならない。
そこで実際の空戦機動では、速度エネルギーと高度エネルギーを交互に変換しながら、あるいは消耗しながら戦うことになる。エネルギーは常に推力より少しずつ補充されるが、基本的に微々たるものなので総量としては減っていく一方である。
このことをしっかりと踏まえなければならない。究極的には「今自機の持つエネルギーをもっとも効率よく利用し、目標の位置・状態に自機を持っていく」技術が必要である。「如何に効率よく」というところがポイントである。なんのことはない「自由自在に飛行機を操れる能力」が問われているだけだ。上級者と一緒に戦っている時、同じ機動をとりながらも
上級者の機体の方がぜんぜん速い
ことに気が付くだろう。
飛行機の中には旋回性能が良いものもあれば、急降下性能が良いものもある。しかしエネルギー管理の基本は一緒である。飛行機を思い通りにあやつるというポイントにおいて、
BnZもTnBも関係無い。
同じである。それを理解し、エネルギー管理がしっかり出来た上で始めて各機体の特性を生かす方向に考えるべきである。
もちろん空戦においてエネルギーは万能ではない。圧倒的エネルギー有利であっても起死回生のヘッドオンで撃墜されてしまうこともある。しかし、それは応用の問題である。
基本はあくまでもエネルギー。空戦機動は彼我のエネルギー状態を把握し比較するところから始まる。
エネルギーは高度よりも速度
飛行機の持つエネルギーは、
・高度エネルギー
・速度エネルギー
・エンジン出力や燃料の残量などによる潜在(ポテンシャル)エネルギー
に分類される。3つめの潜在エネルギーはもはや機体特性の話になるのでここでは触れないが、空戦でエネルギーの話になった時出てくるのは主に上の2つである。そこで機体のエネルギーを式に表すと以下のようになる。
E=1/2mv^2 + mgh
E: 機体の持つエネルギー
m: 機体の重量
v: 機体の速度
g: 重力加速度
h: 機体の高度
まぁ、この式は軽くなぞる程度にしていただきたい(^^;)
一般には「高度優位=エネルギー優位」と言われる。これはほぼ正しい。ほとんどのパイロットは相手が見上げる位置にあると多少不安を感じ、見下げる形だと安心するはずだ(笑)
一方これには弊害もあり、
「高度があれば安心してしまう」症候群
のようなスランプ状態もある。主に、ある程度エネルギー管理を理解してきたばかりの中級者がかかりやすいようだ(笑)
実際には速度もなくて
ヘロヘロな状況
なのに、相手の上にいるというだけで安心して攻撃をしかけてしまい、逆に返り討ちに遭うというものである(^^;)
ここで再度エネルギーの式を見て欲しい。速度は高度と違って、エネルギーの総数に
2乗で効いてくる
のだ。そんなことは誰もがわかっていることであるが、実際に身体で納得するのは難しい。敵の速度はなかなか把握しにくいからである。
わたしはFwに乗っている時、しばしばはやめにダイブして相手の下にいくことがある。実際には当初あった高度優位を速度エネルギーに転化しているだけで、総量としてはエネルギー優位には変わり無い。しかし、相手から見ると自分の下にいるので、つい格闘につきあってしまう。上空から攻撃すると逃げてしまう敵機も、この方法で行けば自分の不利に気づかれずに戦闘にはいることができる。
H2Hでも同位戦の場合はすれちがいの時の初速が全てを決する場合が多い。かように速度要因は重要であり、かつ気づきにくいものだ。
理工系だけがパイロットになるわけではないので、上記の式はあまり深く考えなくても結構だが、「エネルギーは速度と高度の両要因で決定される」ということは頭ではなく身体で理解出来るようになりたい。
エネルギー戦
基本的に1vs1の空戦は「エネルギーの消耗戦」である。エネルギー優位になったものが戦いを有利に進める。これは鉄則である。
そのエネルギー戦を進める上で、基本となる戦いかたは2つしかない。
1.相手よりもエネルギー消費の効率を良くする
初期のエネルギー量が同じであっても、自分が相手より効率良く機動を取っていればエネルギー差は広がり、最終的にはエネルギー優位に立てる。
問題としては相手の技量が均等、あるいはトップクラスで拮抗している場合、その差は大きく現れず、千日手に陥りやすい。
2.相手がエネルギー効率の悪い機動を取るように仕向ける。
こちらがエネルギー優位にある場合、威嚇射撃などで相手に効率の悪いブレークなどを行わせ、優位な状態を維持させる。1.の方法よりも能動的で効率の良い戦いかたといえる。
一方初期の段階でエネルギーが均衡ば場合はこの戦術は取りにくい。この場合、味方機の威嚇、あるいは突入などの協力が必要である。
1は空戦機動を行う上での基本である。1をおろそかにしては何も始まらない。
しかしながら本当に有効なのは2である。内容を見てもおわかりだろうが、2は複数の機体による
連携の基本
にもなっている。
1を基本とした空戦はいわゆるストールファイト・ドッグファイトである。これは一見ものすごくアグレッシブな戦いかたに思えて、その実エネルギーロスを大きくした方が負けという意味では受動的である。
ある意味では機動による圧倒で相手のエネルギーを強引に奪い去る2の戦法の方がアグレッシブであるともいえる。また、味方との連携という意味でも奥が深い。
1の基本をしっかりおさえて、2の状況を作り出せるように努力するのがエネルギー戦の極意ではないだろうか。
ベクトル −エネルギー戦の罠−
エネルギーによる空戦の考え方は万能ではないと先に書いた。それはベクトルという罠があるからである。エネルギー管理に目覚めたパイロットも、しばしばこの罠に陥ってしまう。
機体には向きがあり、戦闘機の機銃は必ず前向きに装備されている。逆に言うと
機首を相手の方向に向けることさえ出来れば、
エネルギーの優劣に関わらず相手を攻撃することが可能である。
エネルギー優位にたったものはしばしば「優位に立っている以上自分は攻撃されない」と思っている。この発想は9割がた正しいが、1割の危険性を含んでいる。
例えば縦ループの底辺に敵機を閉じ込めるような圧倒的エネルギー優位の状態で、敵機がいちかばちかで機首を上に向け、HOによる射撃を試みてくることがある。
こちらに「優位」という油断がある場合、これは非常に危険である。相手がFw190A8のような凶悪な火力を持っている場合はもちろん、
やけっぱちの1発
が状況を大きく覆す場合もあるし、衝突の危険性も考えなければならない。
くれぐれもエネルギー優位を過信しないことである。優位であるという状態はそれ以上でもそれ以下でもない。最終的に射撃を行い、相手を撃墜してはじめてその空戦は終了するのだ。
例えエネルギー状態がヘロヘロであろうとも、失速寸前であろうとも、スピン状態にあろうとも、機首がこちらを向けばその射撃は当たる可能性がある。これは胆に銘じておかなければならない。