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チェルシー 鶉紋ゴツコウスキー型皿・銀装飾付(1752-58年頃)
A Chelsea silver mounted "Gotzkowsky" plate in "Two-Quail" pattern Ca.1752-58

*この作品は、第6回の「西洋アンティーク陶磁器勉強会」に提出したものです。







  

 日本を源流としつつも欧州各国で広く描かれた鶉紋のバリエーションの一つが描かれた丸皿である。二羽の鶉を中心とするこの図柄は、チェルシー窯にもいくつかのバージョンがあるが、本品の図柄は、鶉の羽の描き方が細かいことや周囲の樹木が著しく省略されていることなどが特徴である。鶉紋の典型的なバージョンである「ボウ(B1)」と比較していただければ、その違いは明らかだと思う。なお、鶉紋はチェルシーでは、いわゆる"raised anchor"期(1750-52年頃)及び"red anchor"期(1752-58年頃)を中心に描かれたが、現存する当時のオークション・カタログ(red anchor期のものでは1755年及び1756年のカタログが残されており、ともに出版されている。)では、"Old Partridge Pattern"と記載されている。

 本皿には、レリーフによる花やリボン等の地模様がある。これはマイセン窯の「ゴツコウスキー模様(Gotzkowsky erhabene blumen (Gotzkowsky raised flower)」を倣ったものである。1741年にベルリンの商人・ゴツコウスキーのために作られたセットのデザインに因んだ命名である(ただし、本品は1744年頃に導入されたその派生形に基づいている)。チェルシーでは"red anchor"期に多く作られたが、上述のオークション・カタログでは「ダマスク(Damasked)」文様と呼ばれている。ダマスクとは元々は織物の文様の総称で、シリアの首都・ダマスカスに由来する。
 このレリーフの入った皿には、西洋風の写実的な花絵が配されることが多いが(チェルシー(CH3)及びマイセン(CH3a/ME1)を参照)、本品のような柿右衛門風図柄が描かれた例も(地模様と絵付けが若干アンバランスな感はあるが)それなりに見かける。

 本品の特異性として、皿周囲に銀による縁装飾がなされている点があげられる。本来のゴツコウスキー型皿はもっと直径が大きいのであるが、おそらく本品は後世のいつかの時点(19世紀末か20世紀初頭頃であろうか)で破損し、皿の外周部を大きく切り落とした上で、銀の枠をはめる形の修復を施したのであろう。この銀枠はパリの人気銀細工商ボワン-タビュレ(Boin-Taburet: 1875年創業。1889年パリ万博で金賞獲得)によるもので、"BOINTABURET A PARIS"の銘が入っている。また、仏の銀メーカー"H.FRES"及び仏の銀のホールマーク(女神ミネルバ頭部。純度.950)も刻印されている(ともに1838年以降のマーク)。


サイズ/Sizes: 26.5cm X 19.5cm
マーク/Marks: Three stilt marks at the bottom
展覧会/Exhibition: "The Two Quail Patterns - 300 Years of Design on Porcelain" (2004), Catalogue No.27
参照文献:
 1755年及び1756年のカタログはともに何度か出版されているが、入手しやすい最近の出版としては、前者がJohn C. Austin著"Chelsea Porcelain at Williamsburg"に、後者はGeorge Savage著"Eighteenth Century English Porcelain" に、それぞれ収録されている。
(2009年3月掲載)