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ダービー 壺 (1760年頃)
A Derby Vase C.1760

 


 


 

 ダービーの花を盛り上げた小型の壺(ダービー(D1-25)を参照)。ロココ調のダービー(D1-20)ダービー(D1-21)と同種類の作品だが、本品は胴体部部はシンプルな作りで、壺の上に配される花は一つ一つがかなり大きい点が特徴である。なお、この形は洋梨あるいはひょうたん(を逆さまにした)型というのが早いと思うが、Dennis Riceはsugar caster(あるいはsugar shifter)型と呼んでいる。

 エナメル絵付けに関しては、胴体の片側に田園風景の鳥が、反対側には花絵が描かれている。ダービー(D1-23)と同じ組み合わせの絵付けであるが、比較すると興味深い(上の最後の写真4枚)。鳥絵は同じモチーフで描き方にもかなり類似性があるが、細かい点では異なる部分もあり、色合いも若干異なる。また、反対側に描かれた花絵は、かなり異なるもので、同じ絵付師によるものとは考えにくい。本品(比較写真では左側)の花絵には、茎が綿糸のように細くよじれて描かれることにその名を由来する'Cotton-stem painter'の特徴がある(Cotton-stem painter関連の作品は、本サイトにもいくつか掲載しているが、例えばダービー(D1-1)ダービー(D1-11)が参考になると思う)。Dennis Riceは、ダービーにおけるこのような田園風景の鳥絵を描いたのはCotton-stem painterだと主張しており、本品は彼の説に合致する作例なのかもしれない。なお、Cotton-stem painterがダービーに滞在したのはデュズベリー期になってからで、1756年頃から1760年代中盤頃までとされる。

 一方で、Tony (Anthony) Wellsは、Cotton-stem painterによる鳥絵は別の種類のもので、本品のような田園風景の鳥絵を描いたのは別の絵付師であるとしている(この絵付師は、Cotton-stem painterとは異なる種類の花絵、さらには人物のいる田園風景画も描いているとしている)。

 また、Simon Speroは、この種類のダービーの鳥絵はヴォクソール初期の鳥絵と類似しており、1750年代前半の作品(かつ外部絵付け)であると主張している。(なお、下記の彼の論文に写真が掲載されているダービーの鳥絵作品(c1754とされている)は、本品と同一作品ではないかと思われる。)

 議論は錯綜しているが、田園風景の鳥絵を描いた絵付師は実は一人ではなかったと考えるのはどうだろうか。以下はそうした考えに基づく一つの仮説である。

1) 最初にこの田園風景の鳥絵を描いた絵付師は、おそらくロンドンにある絵付工房にいた。その工房では、1750年代前半以降、ヴォクソールやダービーから白磁の提供を受け、絵付けを行っていた。この工房はジャイルズ工房だったかもしれないし、それ以外の工房だったかもしれないが、ある程度大規模な工房だったのではないか。そうした工房では絵付けの種類(花絵か鳥絵かなど)によって専門が分かれていて、一つの作品を複数の絵付師が担当したのかもしれない(ダービー(D1-23)はそうした作例かもしれない)。

2) ロンドンの絵付工房にいた、この田園風景の鳥絵を描いた絵付師は、1760年頃までにダービーに移籍して同様の絵付けを行った。ただし、ダービーでは花絵も合わせて描いたので、ロンドン絵付けの作品とは異なる種類の花絵と組み合わされている。

3) ダービーには、それ以前からCotton-stem painterがいて異なる種類の花絵や鳥絵を描いていたが、上記の絵付師が移籍してきて以降は彼の構図を写した鳥絵も描くようになった。よって構図は似ているが、筆致などは異なる(本品がその作例と言えるかもしれない)。

 上記は、仮説といっても、それを立証する論拠(例えば、絵付師の移籍を証明する文献など)があるわけでもなく、いわば空想に近いものである点には留意していただきたい。


高さ(Height):14.7cm

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参照文献/References:
- Dennis G. Rice "Derby Porcelain The Golden Years 1750-1770" Colour Plate F, Plates 108(b), 134 & 142 and pp.56, 59-60, 66-67 & 204-205
- Stephen Hanscombe "The Early James Giles and his Contemporary London Decorators" p.91 and Items 108-109
- Simon Spero "Vauxhall Porcelain - A Tentative Chronology" ECC Transactions Vol.18 Pt.2 (2003)
- ECC "Ceramics of Vauxhall 18th century Pottery and Porcelain" Cat.25
- Tony Wells "Early Derby Painters" Derby Porcelain International Society (DPIS) Newsletter No.44 (1999)
- Tony Wells "The Early Derby Painters" DPIS Newsletter No.41 (1997)
- Anthony Wells "Early Derby Painters and Decorators" DPIS Journal II (1991)
- Phillips Catalogue "The Watney Collection of Fine Early English Porcelain, Part II" Lot 764
- V&A美術館サイト:
 http://collections.vam.ac.uk/item/O165716/vase-william-duesbury-co/


(2020年5月掲載)