原典を読む 2.ダービーのペインターへの指示(1784年頃)
ダービーのマークについて語るときに欠かせない文献が、ウィリアム・デュズベリーU世がマークの記載方法について自社のペインターに指示したとされる文書です。1784年頃に導入された「交差バトンマーク」と絵付け師番号は、(翌85年頃導入されたと考えられている図柄番号とともに、)かなり厳密に運用されており、ダービー磁器研究において重要な役割を果たしていますが(ダービーのマーク一覧(3)のページ参照)、これがその根拠となる文書です。ほとんど全てのダービー専門書で引用・言及されているものですが、もともとは19世紀の陶磁器研究家ルエリン・ジューイット(Llewellynn Jewitt)が、自分が所有している文書だとして、1878年の著作"The Ceramic Art of Great Britain"に全文掲載したものです(厳密に言うと、その前にも"Art Journal"誌1868年1月号に同文書を掲載しています)。その後、現物は行方が分からなくなっており、以降の専門書は、全てジューイットの本の記載をそのまま転載(全部あるいは一部を)しているだけです。現物を参照できないのは残念ですが、ここではジューイットの本の関連部分を読んでみます。ちなみに、当該個所は、ジューイットが絵付け師のウィリアム・ビリングズリー(William Billingsley. コラム11参照)について論じている部分で、彼に割り当てられた絵付け師番号は7だったということを紹介する文脈の中で、この文書が掲載されるという流れになっています。
なお、ダービーには19世紀初期の絵付け師番号リストも残されており(初出典は、下記関連文献7.のHaslemの本です)、関連して論じられることもありますが、異なる時代についての別文献であり、ここでは取り上げないこととします。
(出典)Llewellynn Jewitt "The Ceramic Art of Great Britain (Volume II)" (1878) pp.103-104
この本は、以下のサイト(Internet Archive)で閲覧できます。http://www.archive.org/details/ceramicartofgrea02jewiuoft
原 文 仮 訳 ... It may be well, before proceeding further, to say that, from a curious draft of an order to the painters employed at the Derby China Works, in my own possession, William Billingsley's number which he was supposed from that time (not long before he left) to mark on such pieces as he painted was 7. The document is so curious, and will be so interesting to collectors, that I give it entire. It is as follows, and is in the second William Duesbury's own handwriting : -
"Every Painter to mark underneath each Article he may finish, the number corresponding to his name, and any other mark which may be required, in such manner as he may be directed (viz.) : -
Thos. Soar………………1 Wm. Longdon……………………8
Jos. Stables ……………2 Wm. Smith………………………9
Wm. Cooper …………… 3 Jno. Blood …………………… 10
Wm. Yates………………4 Wm. Taylor (except on blue and
Jno. Yates………………5 white) ……………………… 11
6 Jno. Duesbury …………………12
William Billingsley………7 Jos. Dodd………………………13
The Painter in fine blue, and in laying
grounds to use for his mark the like colours.
Ditto, in other colours ………………………… Orange-red.
Ditto, in Gold …………………………………… Purple.
"On omission of the above Injunctions, for the first Offence (after this public notice), the person so offending shall forfeit to the Box which contains donations for the Manufactory at large, one-fourth of the value of the Article or Articles found to be deficient in marking ; for the second, one-half of the value ; and for the third, the whole of the value, and discharged the Manufactory. And if any Painter is found working at any hour contrary to those already appointed for Business, without Permission or Orders, such person shall, for the first offence forfeit to the Box 6d. ; for the second, 1s. ; for the third, 2s., and so on, doubling each time."... 先に進む前にこれは述べておいてよいと思うのだが、私自身が所有している、ダービー磁器工場に雇われていたペインターへの指示についての興味深い原稿から見るに、ウィリアム・ビリングズリーが、その当時(彼が去るそれほど前でない)<注>から、自らが絵付けした作品に記したであろう番号は7であった。この文書はとても興味深く、コレクターも関心を持つであろうから、その全体を示すことにする。それは以下のとおりであり、またウィリアム・デュズベリーU世自らの筆跡によるものである:−
「全てのペインターは、各自が仕上げる各作品の底面に、自らの氏名に対応する番号と、その他あらゆる必要なマークを、指示された形で記すこと(すなわち):−
トマス・ソア………………… 1 ウィリアム・ロンドン …………8
ジョセフ・ステイブルズ………2 ウィリアム・スミス ……………9
ウィリアム・クーパー…………3 ジョン・ブラッド ………………10
ウィリアム・イェーツ…………4 ウィリアム・テイラー(ブルー&
ジョン・イェーツ………………5 ホワイトを除く) ……… 11
6 ジョン・デュズベリー…………12
ウィリアム・ビリングズリー… 7 ジョセフ・ドッド ………………13
ペインターで、青及び地色を扱う者が
自らのマークに用いる その同じ色
同じく、他の色を扱う者 ……………………………………橙赤
同じく、金彩を扱う者 ………………………………………紫
「上記の指示に従わなかった場合、最初の違反(この公告後の)では、当該違反者は、記号を付していないことが発見された作品の価値の四分の一の罰金を、会社への寄付金全般を入れる箱に収める。二度目の場合は価値の半分を収める。三度目の場合は価値の全額を収めて、さらに会社から解雇される。また、もし絵付師が、許可あるいは指示なしに、事前に指定された業務時間と異なる時間に働いていることが見つかった場合は、当該人物は、最初の違反では6ペンスの罰金を箱に収める。二度目の場合は1シリングを、三度目は2シリングを、その後はその度ごとに倍額を収めるものとする」
<注>ビリングズリーがダービーを去ったのは1795年である。
関連文献
1. Stephen Mitchell "The Marks on Chelsea-Derby and Early Crossed-Batons Useful Wares 1770-c.1790" (2007) pp.116-143
2. John Twitchett "Derby Porcelain 1748-1848 An Illustrated Guide" (2002) pp.40-41
3. John Twitchett "Derby Porcelain" (1980) p.32
4. Franklin A. Barrett & Arthur L. Thorpe "Derby Porcelain" (1971) pp.115-116
5. F. Brayshaw Gilhespy "Derby Porcelain" (1961) pp.52-53
6. F. Brayshaw Gilhespy "Crown Derby Porcelain" (1951) p.17
7. John Haslem "The Old Derby China Factory: The Workmen and Their Productions" (1876) p.230
(2011年12月掲載)