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ひとくちコラム5
Last Update: Monday, 02/21/2005 2:26 am

IBM Enhanced Keyboard Model-M


●目次

  1. 序論
  2. 特徴
  3. バリエーション
  4. メンテナンス
  5. 筆者が使用したキーボードの紹介

IBM Enhanced Keyboard Model-Mで代表的なP/N1391401。比較的初期の1991年に製造されたものである。大きな筐体に、Buckling Spring Technologyを採用したクリック感のあるシンプルな101キーを採用している。後方に見えるのは取り外し可能なカールケーブル。

●序論

私は未だかって、これほどまでにキーボードに夢中になってしまったことはない。ある程度キータッチにはこだわりつつも、それなりに気持ちよく入力できればそれでいいと考えてきた。そんな私を一変させたのが「IBM Enhanced Keyboard Model-M」である。2001年夏ごろから書き始めたコラム「キーボードについて考える」もいつの間にかこのキーボードで埋め尽くされてしまって、一般的なキーボードのページとしては内容が濃くなり過ぎて収拾がつかなくなってしまった。それでもこの「IBM Enhanced Keyboard Model-M」に関して集めた情報や経験をむざむざと闇に葬ってしまうのは忍びない。そこで別コラムとして独立させ、今まで以上に情報を満載してやろうとたくらんでみることにした。このページを通じて、「IBM Enhanced Keyboard Model-M」の魅力を少しでも多くの人に伝えられたら幸いである。


●特徴

メンブレンスイッチという、コスト的にはリーズナブルなスイッチ機構を用いながらも、耐久性に劣るという欠点を見事屈服しているのが、IBM Enhanced Keyboard Model-Mである。整理すると、以下のような特徴を持っている。

テンキー部分のキーを取り外したところ。右側に見えるのが防水壁。

○シンプルな101キーなので、汎用性も抜群。ドライバーなどでもまず困ることはない。逆にかな表記すらないので、日本語を扱う場合ローマ字入力専用になる。Windowsキーすらないが、これらのキーを本格的に活用している事例を筆者はあまり知らないので、個人的には邪魔なキーがない分むしろ使いやすいと思う。

○Buckling Spring Technologyによるクリック感のあるキータッチ。一般的なメカニカルスイッチと異なり、戻るときにはスムーズで、クリックと入力が同時という特徴も持っている。スプリングの力でメンブレンスイッチを押さえるので、接点に無理な力がかからず、耐久性が高い。
http://www.geocities.co.jp/SiliconValley-Cupertino/9946/key_s02_02.htmに「座屈ばね機構」として詳しい解説があるので参照されたい。

中央部下側に二つある排水口。左右に一つずつあわせて四カ所に設けられている。水を導く壁にも注目。

○メンブレンスイッチを使用しながら、キーボードユニットが一体化しており、水に強い設計になっている。1993年以降のモデルではサイドにこぼれないための壁や、排水用の穴(写真右)まで用意されていて、防水仕様と言ってもよいくらいである。(残念なことに後期モデルでは、排水口はあってもキーボードユニットには排水機構はない)

キーボードユニットを横から見たところ。ユニット自体の湾曲に注目されたい。

○日本で一般に見られるキーボードよりも、よりタイプライターに近い立体的なデザイン。ステップ・スカルプチャーのキー配置になっている。キーの高さを変えることで実現しているものもあるが、Enhanced Keyboard Model-Mではキーを取り付けるユニット自体が湾曲している本格的なもので、キーの押し下げ方向まで変わってくるためより打鍵しやすい。ただ、この立体的な配置は日本の平板なキーボードに慣れた人には、慣れるまでちょっと使いづらいかもしれない。

取り外し式のキーキャップ

○キーキャップが取り外し可能(一部取り外しできないモデルも存在する)なので、清掃が容易。

○長期間の使用でも日焼けしないキートップ及びボディの材質。キートップの文字は多色刷りのものでも昇華印刷であり、摩耗にも強い。このため多少使い込んだ個体でも、傷さえなければ、清掃することで見違えるようにきれいになる。

標準的な脱着式ケーブル。

○脱着可能なケーブル(後期モデルでは脱着不能なモデルもある)のため、キーボードのみを簡単に取り外すことができ、交換やメンテナンスに便利である。ケーブルが破損した場合でも、簡単に交換できるというメリットもある。

○堅牢で安定した筐体。その分大きくて重い。机の上でもかさばるし、決して日本の住宅事情にマッチしているとは言い難い。また、2Kg以上あるので、持ち運びには向かない。(まさか日常的に持ち運ぶ人はいないと思いますが)


●バリエーション

IBM Enhanced Keyboard Model-Mは、1987年頃から本格的に生産され、現在でもIBMから権利を引き継いだUnicomp社が生産を続けている息の長いモデルである。IBM PC/AT,PS2だけでなく、IBM社のワークステーションなどでも用いられており、よく似た形態で多数のバリエーションが存在する。一般的には、品番が同じであれば同じ製品だと考えがちであるが、IBM社のキーボードに関しては、同じ品番でも違う構造であったり、逆に品番が異なっても同じ構造であったりと、一貫していない。そこで年代別に大まかに分けてみる。

年代 代表的な型番 バリエーション
1986年以前   1984年頃からの生産されているとの情報もあるが、情報が少なく詳細は不明。
1987年〜1993年 1391401 生産方法が確立した時期。グレーロゴのオリジナル型が生産された。初期にはテンキー部分の「+」と「Enter」にスタビライザーバーがあったが、後にShiftキーなどと同じガイドピン型に変更された。キーボードユニットがホワイトのものが希にあり。
1993年〜1998年 1391401
52G9658
92G7453
42H1292
ブルーロゴのついた改良型が生産される。米国ではプリンタ・キーボードをLexmarkに分社化。ケーブルが固定のものが増えるのもこの時期。英IBMでは生産を続ける。
1998年以降 42H1292 Unicomp社に製造を移管。キートップがモノクロになったり、プラスティックの材質が変わるなど、コストダウンが顕著になる。

年代別の区分によるものも加えて、バリエーションを列挙してみると以下のようになる。

初期にみられる
グレー色のロゴ
中期以降の
ブルーロゴ
濃いブルーの英国製ロゴ

○ロゴの色。初期のグレータイプと、後期のブルータイプがある。英IBMで生産したものは、同じブルーでも色が濃い。一般的にはブルータイプが排水機構のついた改良型と考えて良さそうだが、厳密には違うようである。また、角形の金属プレートのものも希にある。比較的初期に多い印象があるが、正確なところは不明。

排水機構付きのタイプの前カバーを外したもの。手前4つの穴が排水口。ちょっと見にくいが左右両端と下端には壁もある。ケーブルは取り外し式でF4キーのしたにコントロール基板に取り付けられたコネクタがある。

○排水機構の有無。初期のものは全く存在しないが、ブルーロゴに変わるのと前後して、排水機構付きが現れる。左右両端と下側の壁に加え、筐体の排水穴と、それに水を導く通路によって構成されている。後期のコストダウンモデルでは、排水穴のみとなる。

○ケーブル取り外しの可否と、取り付け位置。取り外し不可の固定タイプには、ケーブルの取り付け位置が取り外し式と同じ「F4」キーの後ろ側にあるもの(1990年代の中期のもの)と、LED部分の後ろ側にあるもの(1990年代後期のもの)がある。

○ケーブルの種類。一般的には断面が丸く、途中にカール部分があるタイプであるが、取り外し不可タイプの中には平板にした(メキシカンタイプというらしい)ものや、カール部分のないストレートタイプもある。また、カールケーブルタイプの中には希に黒いものがある。

○キートップの印刷色。1990年代の半ばまでは多色刷りであるが、それ以降黒のみのものもみられる。

○キートップ取り外しの可否。1990年代半ばには、取り外しできないものがみられるが、一般的には取り外し可能。

○テンキー部「+」及び「Enter」の構造。ごく初期のものにのみスタビライザーバー付きのものがある。

ベースの白いタイプ。スタビライザータイプではない。

○キーボードユニットの色。黒が一般的だが、初期には白いものもみられる。白いものの方が、キーが柔らかいとの情報もあるが、真偽のほどは確かではない。

○LED部分のデザイン。通常はダークグレーで縁取りされているが、新しいものでは薄いグレー一色のものもある。

○キートップの文字。当然のことながら、世界各国に対応したものがあって、キー数まで102になっている場合もある。PC以外のオフコンやその端末、ワークステーション用などでも文字が差し替えてあるものも多い。

○スピーカーの有無。取り付け穴はあっても、一般的にはついていない。ワークステーション用などで付いているものがある。また、1990年代末期からは、穴自体なかったりする。

○筐体の材質。1990年代末期からは、筐体のプラスティックの質が落ちているものが多い。

●その他のバリエーション(おまけ)

以上はEnhanced Keyboad Model-Mにおけるバリエーションであるが、他にもBuckling Spring Technologyを採用した以下のような派生型が存在する。

Space Saver

テンキー部分を切り落としたもの。1987年頃から長期間にわたって生産されている。日本語のテンキー省略タイプ5576-003と違ってLEDすら省略されている。Enhanced Keyboardと同じく、グレーロゴやブルーロゴがあり、排水機構付きがあるのも同じ。ケーブルは取り外し可能なタイプで、キートップは取り外しでないものが多い。(このへんは詳しく調査していないので、情報をお持ちの方は教えてください)また、Unicompに製造移管後は、欧州との共通仕様である85キー(左Shiftの右半分が\になっている)に変わった。写真は1987年製造のP/N 1391472 Space Server。グレーロゴであるが、93年頃からブルーロゴの防水型となるのはEnhanced Keyboardと同じ。

1391472写真

IBM Keyboard with Track Point II

Enhanced Keyboard Model-Mにトラックポイントを取り付けたもの。ブラックタイプも見かける。比較的新しいものがほとんどで、ホワイトタイプではブルーロゴ、ブラックタイプでは黒字に銀色のロゴである。筆者が入手したタイプは排水機構付き、ケーブル固定、キートップも固定であったが、どのようなタイプが存在しているのかはよくわかっていない。写真はP/N92G7451。ホワイトタイプの1997年メキシコMaxiSwitch社製。ブルーロゴ・排水機構つき。

92G7451写真

●メンテナンス

IBM Enhanced Keyboard Model-Mは長期間にわたって使用可能な耐久性を備えているが、埃の侵入は避けられないから、時々清掃してやる必要がある。キートップの清掃は分解しなくとも可能だが、キーボードユニットに埃がたまってきたら、分解しないと清掃が困難である。

ボックスドライバ写真
5.5mmボックスドライバ(東急ハンズ\420)

○分解方法

このキーボードでは一般的に、後部裏面の穴にある5.5mm径の六角ネジ(Enhanced Keyboardでは4カ所)でキーボード筐体の表と裏が固定されている。穴の奥にあるためスパナやモンキーレンチは使えないから、分解清掃には5.5mmボックスドライバ(写真)を購入することを勧める。ラジオペンチでも回せないことはないが、ネジの頭を痛めやすい。後から知ったことなのだが、このドライバは模型用として一般的なサイズとのことで、模型店で田宮製などが簡単に入手できる。

フィルム配線 これがEnhanced Keyboardの弁慶の泣き所。

注意が必要なのは、キーボードユニットから出ているフィルムに印刷された配線とその先の接続端子。ここがダメになるとキーボード自体が使えなくなってしまう。フィルムが折れやすいことや、端子部分の強度もあまりないので、キーボードユニットを筐体から取り出したり、基板を取り外したりする場合には、特に慎重を要する。触らぬ神に祟りなし。不要な操作はできるだけ行わないことを勧める。

○キートップの清掃

一般的には、キートップを取り外せるタイプが多いので、取り外して中性洗剤などに浸けて洗うことができる。取り外せない場合は、キー全体を取り外して一点一点ふき取ることになる。洗ったあとはよく乾燥してから取り付けること。

○キーボードユニットの清掃

ユニットは完全に一体型になっており、プラスティックを溶かして固定してあるから、破壊する気がない限り分解はまず不可能。キーをすべて取り外し、スプリングを痛めないように気をつけながら、埃や汚れを除去する作業となる。埃は吹き飛ばすとスプリングなどの可動部分に侵入する恐れがある。吸い取るか、ふき取ることになる。ふき取る場合、水分に弱い部分なので、慎重な対処が望まれる。キーの間は狭いし、少し大きめの綿棒などを使用した方がよい。

○ケースの清掃

筆者の経験上、分解してしまえば水で丸洗いしてもかまわない。中性洗剤などをスポンジにつけてふき取ってやると、見違えるほどきれいになる。汚れが比較的少ない場合や、ラベルなどを汚したくない場合は、布に中性洗剤をつけてふき取ってもよいが、あとよく洗剤をふき取っておかないと、汚れがすぐに付いてしまう。


●筆者が使用したキーボードの紹介

以下筆者の使ってみたEnhanced Keyboard Model-Mを紹介してみる。機構やキータッチの微妙な違いに注目されたい。

IBM 1987年製 1391401

初期に生産されたタイプ。ケーブルは取り外し式で、グレーのロゴ。改良前のものなので、排水機構はなく、キーボードユニットの色は黒色で、テンキー部の「+」「Enter」の二つのキーがガイドピンではなくスタビライザータイプとなっている。キータッチは下記のホワイトベースのものに比べて堅めでかっちりしたタッチである。

IBM 1991年製 1391401

ケーブルは取り外し式で、グレーロゴ。排水機構はなく、ベースのプラスティックプレートが白いものになっている点が違うところ。その他の形状やキータッチは同一シリーズの他のキーボードから大きく外れたものではないが、強いていうなら打鍵音に若干落ち着きがあって、柔らかい点である。

Lexmark 1994年製 92G7453

ケーブルは取り外し式のカールケーブル、キーの文字はカラー印刷である。ロゴはブルーで、排水機構つき。P/N 1391401との区別はほとんどつかない。キータッチは若干堅めで打鍵音も大きい傾向。情報によれば、この型番はP/N42H1292の同等品もあるようで、比較的新しいものに多いようである。

Lexmark 1995年製 92G7454

92G7453はPS/2コネクタなのに対し、92G7454はATコネクタになっている。ケーブルは直付けで、細めのカールケーブル。排水機構などがあるのは同じ。キータッチは上記92G7453よりちょっと打鍵音が小さめだが、堅さなどはあまり変わらない。

Lexmark 1995年製 1394540/51G8572

職場で遊休機となっていたRS-6000に接続されていたもの。P/Nを2種類記載しているが、1394540のシールの上に、51G8572のシールがあって、同じ製品でP/Nが変わったもののようである。ケーブルは取り外し式のカールケーブルである。スピーカーが型枠だけでなく本当に搭載されていたり、右CtrlがCtrl/Actとなっているなどの違いがある。

Unicomp 1998年製 42H1292

ブルーロゴの色が濃いタイプで、LED周りのデザインも単色になっている。キートップは単色刷で、ケーブルはLEDの後ろにストレートケーブルが直付けされているなど、かなりコストダウンが目に付く。材質や加工精度的も明らかに劣っており、キータッチも似てはいるものの大味でムラがある。


●キーボードを考える


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