同調化 entrainment
1665年、オランダの科学者クリスチャン・ホイヘンスは、二つの振り子を隣同志において一定の時間が経つと、振り子はまったく同調して振れるようになることを発見し、これを「同調化(entrainment)」と呼びました。私たちの身体も例外ではありません。知らないうちに同調化を起こしているのです。その身近な例が、音楽を聞くと頭や足で調子をとってしまうことでしょう。まったく調子をとらない場合を別 として、聞いている音楽と関係のないビートで頭や足を動かすのは、じつはたいへん難しいことです。音楽療法士や神経学者の中には、この同調化を「人は、その場で支配的なリズムに同調する」「ある運動系の周期は、ほかの運動系の周期に決定される」と説明する人もいます。
私たちの身体を作っている細胞のひとつひとつは原子核の周りを回る電子の反復運動から成り立ち、体内には鼓動・呼吸・脳波等のリズムが満ち、私たちは月の満ち欠けや地球の自転・公転という大小さまざまな動きに合わせて暮らしています。また現代社会の中で私たちは、せわしない日々のスケジュールのリズム、街を歩いていてもあちこちから聞こえてくる音楽や携帯の着信音ののリズム、周囲の人々のリズム等、いろいろなリズムに取り囲まれています。そうしたリズムに私たちは知らず知らずのうちに同調化しているのではないでしょうか?
近年、リラックス状態であるアルファ波の存在が注目されています。脳は通 常、右半球と左半球は違う種類の脳波(アルファ波・ベータ波・シータ波・デルタ波)を出しながら、30分〜3時間交代で中心となって働いているそうです。たまたま同じ種の脳波(たとえばベータ波)が出ている場合でも、周波数が微妙に異なったり(ベータ波の周波数は14〜40サイクル)、ずれたりしています。ところが、ある特定のリズムを聞いている時、両脳半球がぴったり同じタイミングでパルスを出す場合があり、そのあいだ意識はいわゆる覚醒状態に入ります。覚醒状態の脳は左右両方の脳半球から情報を引き出すことができるため、急に何かの解決策が浮かんだり、頭がクリアに感じられたり、至福感が訪れたりするそうです。 また、欧米の医療現場では低周波音(=振動数が少ない低音=ある種のリズム)が痛みの軽減等に利用され、大きな効果 を上げています。身体内の部位によって、反応を起こす低周波音の周波数が異なることが、東洋でいう「チャクラ」の説明になるという意見もあります。
『ドラミング〜リズムで癒す心とからだ』の著者である心理療法士のロバート・L・フリードマンらは同調化の理論を利用して、「心臓のリズム」のドラミングで深いリラグゼーション効果 を引き出しています。(個人の体質によって身体に悪影響のある場合があるので、医師・音楽療法士等の専門家の指導が必要。) 同調化によってリズムが心身にさまざまな影響をおよぼず理由は、以上のようにさまざまな角度から研究が進められています。
『ドラム・マジック〜リズム宇宙への旅』ミッキー・ハート著、工作舎刊、1994年
『ドラミング〜リズムで癒す心とからだ』ロバート・L・フリードマン著、音楽乃友 社刊、2003年
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