寝坊したわけでもないのに、そのバス停についたとき、タイミングが悪かった。
次のバスを待っていては、予定の電車に遅れそうだ。運よく、そこへタクシーが通りかかったので乗り込んでT駅に向かった。タクシーが走って200m位の時、由美は胸騒ぎがしてバッグの中を探した。
ない、何度ひっかきまわしても財布が見当たらない。「――すみません、ダメです」意味不明な悲鳴をあげたので、タクシーの運転手さんが驚いた。「どうしたんですか?」「アノー、財布を忘れちゃいました、、。あっパスモはありますが、使えますか?」「大丈夫ですよ」と言われて由美は一安心。
しかし、内心はドキドキ。パスモも残金がそう多くはないと知っていたからだ。−もしかして、T駅までのタクシー料金ギリギリくらいだろうと。
T駅に近づいたとき、緊張度はピークに達した。「すみません、もしかしてパスモの残高が不足したら必ずお金をあなたの会社にお届けしますから、、」と心からそう思っていたので伝えた。「――でも 実はそこから先を今心配しています。人生最大にドキドキしています。T駅についても、お金がないから電車に乗れないし、友人と電車の終点駅で待合せしているんです。せめて初乗りのお金がないと、、、」と 由美は運転手さんに訴えたのだった。「いやーそうですよね、まずは いくらパスモにあるかですね」と彼は冷静だった。
T駅に着いてパスモで料金を払うと、残高は<40円>だった。が、由美の心は、もう次の心配でいっぱいだった。
なんと、そのとき タクシーの領証書と<300円>をさりげなく、運転手さんが手渡してくれたのだった。「人生、いろいろなことが起きますからね。どうぞ」と言われたのだった。
由美は300円を握りしめて、初乗りの150円の切符を買った。その時の判断はこうだ。
「万が一、待ち合わせの誰とも会えなかったら 最終集合場所の店に電話して、迎えにきてもらおう。そのためには すこしでも現金をもっていよう」と。
<この電車に乗ってください>という指定の電車の1つ前の電車に乗ることができた。5人でこの電車の終点K駅で待ち合わせをしていたが、誰か一人くらい早い電車に乗らないとも限らない。遅れるより、早めにK駅について誰かを待っていた方が確実に待ち合わせに遅れない。さまざまな期待と希望が由美の胸に交錯していた。
そして。
T駅から最初の停車駅S駅に来たとき、由美は必死に目を凝らしてホームで待っていた人々の中の友人を探した。それは電車がホームに滑り込んでいく、一瞬の時間だった。
なんと、そこに待合せメンバーの一人Nさんの姿を見つけたときは「これは神様の計らいだ」という気持ちだった。
由美が乗っていたのは前よりの車両。「絶対に、Nさんはもっと後ろの車両にのったはず」という確信をもって、車内の人々をくまなく見渡しながら後ろの車両に進んだ。そして、
Nさんを見つけることができたのだった。そのときの由美は、安堵感で満面の笑みを浮かべていた。
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