2017年9月1日
1.思考と言葉
仕事をしていて、、否 仕事の場面だけでなくさまざまな場面で、つくづく“自分の思いを言葉にする難しさ”あるいは“考えを相手にわかるように表現する難しさ”を実感します。
そして、それは<表現>という問題だけではなく、もっと根本的なことー考えを深める・掘り下げることの困難さをあらわしているのではないか、と最近ようやく気づいたのです。
“落とし込み”
長い間、人材育成の仕事をしてきていろいろな課題につきあたりました。よく企業の人事担当者から言われたこと、「最後のまとめで、もっと現実の場面で学んだことを活用するよう、“落とし込み”をしてください」というものがありました。
この“落とし込み”をやるためには、まず 受講してくれる人々の現実の職場・仕事の状況を把握していなければなりません。そのためには、事前にできるだけ調べたり、インタビューしたりして研修に臨みました。これも含めて、研修という仕事があるわけですから。
が、しかし。
“落としこみ”とは、講師であるわたしがやることではありません。研修を受講してくれて本人自身が、学んだことをどう自分の仕事に活かすか!!は その人自身が見出さなければならないことなのです。
実例をあげます。研修でよくゲームを活用します。ゲーム体験は、効果的です。講師がいくら言葉をつらねてもピンとこないことでも、体験したことで多くの気づきを得ることができます。したがって、ゲームの時間そのものより、ゲームの振り返りに時間を費やします。最終的にはゲーム体験から得た“気づきを一般化・抽象化する”ところまでやってはじめて“落としこみ”ができた、と言えるのです。
気づき
ところが、その貴重な気づきを<自分の仕事の場面におきかえると、どういう点が重要ですか?>という変換!!ができない人がいるのですね。これには、正直いってわたしがビックリしました。「たとえばですねえ、ゲームを始める前に、ゲームのゴールをメンバーが確認することが重要だ、ということに気づきましたね。これを現実の仕事の場面で、と考えてみるとどういうことになるでしょう。複数の人間で仕事をやるときはスタート時に、仕事の最終地点を確認して取り掛かることが大切であるーということになりますね。」と私としては懇切丁寧に説明しているつもりなのだが、この説明がわからない!? 理解できない、自分の仕事の場面に置き換えられない人がいるのです。
これは 最初に書いたように、表現力の問題なのか?と私は思っていました。もちろん、わかっているけどうまく言えないという人は存在します。しかし、表現力と言うより、このような思考のプロセスをたどったことが今までの人生の中でなかったのでは!?と みられる人もいるーと私自身が気づきました。
一生懸命にわたしの話を聴き受講態度も真面目でした。でも、肝心のこの振り返りの場面では、彼の気づきを現実の彼自身の仕事の場面に“落としこむ”ことはできなかったようでした。
変換
考えることだけでなく、思いを言葉にすること自体がめんどうくさい、という学生は残念ながら存在しています。面倒くさいという気持ち、自分の内面を見つめられない弱さを持った学生にどう向き合うか、これもまた私自身がすごく鍛えられた事柄でした。
ただ単純に年齢だけとも言えないような気がします。研修場面で気になった人は50代の半ばでした。たぶん、それまでのその人の人生の中で「あなたは、この点についてどう思うのですか?」「どう考えるのですか?」という問いかけをされたことがなかったのでしょう。
考えることは大切です。それ以前に 感じることも、もっと大切です。そして、それをその時その場だけの思いで終わらせずに、“つまり、こういうときはこうすることが大切なんだ”という自分なりの結論を深く心に刻みこむことが、落とし込むということに他ならないのです。しかし、これができる人ばかりではないのだ。世の中にはこの思考のプロセス自体を踏めない、できない、苦痛に感じる人がいるのだ、ということを目の当たりにした出来事でした。
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