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ざっくばらん ゆき子のおしゃべりコーナー
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2021年11月1日

1.2021年 夏―秋 の読書  “はじめての○○”


今年は作家・向田邦子の没後40年だった。春から夏にかけて、彼女の作品が親しかった人の手で再編集されて数多く出版された。ついつい読みふけってしまった。懐かしいという感覚とともに、今も決して色あせない人間観察・描写の鋭さが心に染み入り圧倒された。

「向田邦子 ベストエッセィ」向田和子 編
「少しぐらいの嘘は大目にー 向田邦子の言葉」 碓井 広義 編
「名文探偵、向田邦子の謎を解く」鴨下 信一
「お茶をどうぞ 向田邦子対談集」 向田邦子

  TVで生前親友だったという澤地久枝(ノンフィクション作家)が語っていた“言葉”がなぜか強く、印象に残った。
「彼女は気っぷのいいほがらかな長女気質の人と思われていますけど、、、。あるとき、一緒に青山あたりを歩いた時だったか、彼女の後姿を見たの。その背中には ― 誰も立ち入ることができない、言いようのない“孤独”がありました」


向田邦子さん(ウィキペディアより )

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今年の夏は、コロナだけでなく長雨だったり猛暑だったり 出かけることもままならず例年にも増して本を読んだような気がする。そして、今まで知らなかったこと・分野を知ることができた。初めて知ったこと、3つを挙げる。

 

 

1)杉原千畝のサインはスタンプもあった。

「杉原 千畝」―情報に賭けた外交官―
(白石 仁章 著)新潮文庫


「スギハラ・サバイバル」
(手嶋 龍一 著)新潮文庫

 
 まず、この本の冒頭を読んで私自身が衝撃をうけた。その部分を引用する。
―「これはスタンプだ!それも全文スタンプだ!」パソコンの画像を食い入るように見つめながら思わず驚きの声をあげてしまった。第2次世界大戦下、危機的状況に追い込まれたユダヤ人難民のために多数の日本通貨ビザを発給して命を救ったことで知られる外交官杉原千畝。彼の研究を25年以上にわたって続けてきたが、この瞬間の衝撃は忘れられない。―

 実はこの著者・白石さんとは大学の講演会でお目にかかったことがあった。今にして思えば、ちょうどこの時あたりに上記の本を書いていたのではないかと思う。

杉原はカナウスの日本領事館を出てホテルに滞在、そして列車の出発時までビザを書き続けていた、ということは間違いない。しかし、その後もビザは発行され続けていたということなのだ。それはなぜ? 誰の手によって?白石さんの調査によると「杉原の直筆を模してスタンプをポーランド人がつくった」ということだ。これには「杉原とポーランドとの協力の跡が残っている」と書いている。

   

 

 わたしは以前から杉原千畝のことに関心があり、2018年に実際にカナウスにも出かけて、千畝が座っていたデスクにも座ってみた。この時、現地のガイドさんから「杉原さんは、幸子さんと結婚する前 若いときにロシア人の女性と結婚していたのよ。このことは皆さん知らないでしょう!?」と言われた。まだまだ私たちが知っているのはほんの一握りに過ぎない、と実感した。

 そして、また「スタンプも存在して、結果 より多くの人々を救った」という新事実に度肝を抜かれた。これによって、杉原の存在が軽視されることは全くない。むしろ、これまでのヒューマニストという面だけではない外交官としての深い複雑な側面が明らかになっていった。興味のある人はぜひ、この本を読んでほしい!!

元NHKワシントン支局長・手嶋龍一の小説「スギハラ・サバイバル」もお勧めだ。これは純然たる小説。だが、主人公にはかってポーランドから神戸にたどり着いたユダヤ人少年がモデルとなっている。スギハラ・ビザのもたらしたものー、その子孫がどのように現代社会に生きてきたか、考察できる。

 

 

2)「当事者研究」という世界

「新 安心して絶望できる人生」
(向谷地 生良、浦河ベてるの家 著)一麦出版社


「当事者研究の研究」
(石原 孝二 編)医学書院

友人の誘いで8月に<ロゴセラピー 公開講演会>に参加した。ここで向谷地 生良さんのお話を聴き、はじめて「当事者研究」という世界があることを知った。午後の2時間であったがこの研究を実践している、北海道・浦河ベてるの家のスタッフも参加して(Z00mによる)具体的にどういう風におこなっているのか お話を聞くことができた。

この「当事者研究」を短い言葉で紹介できる力量がまだわたしにはない。ようやく、上記の2冊の本を読んで「そういうことなのか」と府におちたにすぎない。今後も引き継いて学んでいきたい世界だーと強くひきつけられた。

向谷地さんは本の前書きに以下のように書いている。
―2001年に始まった「当事者研究」は、統合失調症や依存症などをかかえる若者たちが仲間や関係者とともに、そのメカニズムを解き明かし、そこから生み出した「知」を日常の暮らしの中に役立てようとする試みである。―

 

    

 

 

 

3)声を記録する、新しい証言文学

「戦争は 女の顔をしていない」      
(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチネ 著 三浦みどり 訳)
岩波現代文庫


コミック「戦争は 女の顔をしていない 1・2」 
(小梅 けいと) KADOKAWA

わたしがこの本というかこの作家を知ったのは、ほんの偶然のことだった。いつも行く書店にふらりと立ち寄って、NHKの英会話のテキストを買おうと思って書棚を見ていた。そこで<100分で名著>のテキストが目に入ってきたのだった。

「戦争は 女の顔をしていない」の著者スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチネは、1948年生まれというから、私と同世代である。ウクライナ生まれでジャーナリズムを学んだあと、新聞記者・評論活動をしながら第2次世界大戦に従事した女性たちへの取材を始めた。なんとソ連軍には100万人の女性が兵士として参加していたのだという。その中の500人を超える証言を集めたのが、この本である。
ロシア語のこの本が出版されたのは1985年、ゴルバチョフがペレストロイカを始めた年にあたる。

そして2015年にこの作品はノーベル文学賞をもらった。これは史上初めてノンフィクション作家が受賞したものになった。証言記録が「文学」であると認められた点で大きな出来事だった。

この証言文学という創作手法にわたしは目を見張る思いがした。もちろん、これまでも沢木耕太郎などのノンフィクション作品はよく読んでいた。が、これほどまでに徹底して生の声を集め、「この証言について自分はこう思う」という説明もなく、ストイックに証言のみが描写されている。これも文学といえるのだ、と目からウロコーだった。新しい発見だった。

 

 

 

 

 



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