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ダービー 「262番図柄」皿(1795−1800年頃)
Derby Pattern #262 Plate Ca.1795-1800

 



 縁に軽いひねり縞の入ったダービーの典型的な丸皿の一つである(ダービー「D2-13」参照)。その縁部分は青地の上に金彩で楕円や星型などの模様と、白エナメルの小さな点があしらわれている。中央の丸枠の中には風景画が描かれている。もともとは風景画の外側にも金彩装飾があったのだが、剥落している。

 裏面には、ダービーの「交差バトンマーク」とその下に図柄番号"262"が、またマークの上には風景画題"Ullswater"が、いずれも金で記されている。皿などに描かれるデザート図柄の262番は、現存する18世紀当時の図柄帳(パターン・ブック)に「Hillによる風景画」と記述されており、絵付師トマス・"ジョッキー"・ヒル(Thomas "Jockey" Hill)に割り振られた図柄であることが分かっている(コラム11を参照)。ヒルは、ザカリア・ボアマン(Zachariah Boreman. ダービー「D3-12」参照。)が去った後を埋めるべく、ダービーにやってきた風景絵師で、ボアマンと同系列の風景画を描いたが、やや黄色が強い色調を好んだとされる。本品の画題"Ullswater"(Ulleswaterと記されているが誤記であろうか?)は、湖水地方の湖の名称である。また、金色のマークはかなり珍しいものであるが、おそらくは特注セットの中の一点であると思われる。なお、本品には金彩師や絵付師の番号が記されていないが、これはマイケル・キーン(Michael Kean)経営下の作品の特徴とされている。

 本品の風景画はヒルの描き方の特徴に沿ったものと思われ、図柄番号も彼に割り振られたものであることから、ヒルが描いたものだと考えてよいと思う。もちろん、ヒルがダービーを去った後に別の絵付師(19世紀初頭のダービーには、ジョン・ブリュワ(John Brewer)やジョージ・ロバートソン(George Robertson)など優れた風景絵師が何人かいた。)が描いた可能性も否定はしきれないが、262番はヒルに割り振られた図柄の中では一番若い番号であり、この図柄が彼が去った後の特注セットに採用されるほど長期に渡って描かれたものとする記録もない。

 なお、本皿の裏面の縁に近いところに焼成時にできた目跡(stilt marks)が3ヶ所ある。これは、18世紀末頃のダービーの皿などでよく見られる特徴であるが、興味深いのは、本品では表面にも3〜4ヶ所、風景画の外側の白地部分に目跡とおぼしきものが見られる点である。裏面の目跡ははっきりしているのに対して、表面のものは浅く目跡でない可能性もあるが、もし表裏両面にあるとすると絵付け前と後とで皿を置く向きを逆にして焼いたということになる。ダービー作品における目跡については、あまり研究されていないが、面白いテーマでないかと思う。
直径:約25cm
Diameter:25cm (9 7/8in)

マーク:金色で「交差バトンマーク」とマーク上に"Ulleswater."、マーク下に図柄番号「262」。職人番号なし。裏面に3ヶ所の目跡。表面にも3〜4ヶ所の目跡(?)
Marks: <Crown, CrossedBatons&Dots and D> over the pattern number "262", and the name of the scene, "Ulleswater." all in gold. No craftsmen's numerals. Three stilt marks on the back and three or four stilt marks (?) on the front.


(2008年6月掲載)