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コラム10.西洋陶磁事始め


 他のことでもそうでしょうが、収集にも何らかの「始めたきっかけ」があるものでしょう。先日、ある方から「最初に買った西洋陶磁器は何ですか」と問われて、古い記憶がぱっとよみがえりました。今回は、そんな私的な思い出話にお付き合いください。

 パリに行ったときのことです。何か気の利いたお土産はないかと、どこかのショッピングセンターのような場所で探していたときに、食器売り場で何気なく目にとまったのが、アビランド社(リモージュ)のデミタスカップ&ソーサーでした。何も知らなかった私は、店員さんに「これはフランス製ですか」とたずねたのです。フランス土産にするには、フランス製のものでないと具合が悪いという程度のことだったのですが、無知とはすごいものです。正直に言うと、当時の私は西洋で「瀬戸物」が作られていたとは全く考えたこともなかったのです。1993年秋のことでした。


「西洋陶磁器第一号」 Haviland

 これが、そのときに買ったカップです。帰国した後で人にあげるのが惜しくなったのか、結局、そのまま私の手元に残りました。アンティークではありませんが、私の記念すべき「西洋陶磁器の第一号」です。

 西洋陶磁器に関する知識のあまりの欠落に気づいてから、かえって関心を持つようになったのでしょう。その後、本を読んだりしながら少しずつ知識を増やしていきました。1995年にドイツに行ったとき、フランクフルトだったかの空港の売店でマイセンのとても美しい磁器人形が展示してあるのを見ました。このときには、ある程度の知識はインプットされていて、何十万円相当だかの値札を見て、かなり心を(ただし心だけ)動かされたのを覚えています。

 アンティークに手を出すようになったのは1996年からだと思います。インターネット・オークションというものがあることを「発見」したのが直接のきっかけでした。海外のインターネット・オークションというと、今でこそeBayの一手独占の観がありますが、当時はまだ揺籃期で、多くのベンチャー的なオークション・システムが競い合っている状態でした。最初に買ったのがeBayでだったか別のオークションだったかは思い出せないのですが、買った品物ははっきり覚えていますし、今でも私の手元にあります。やはり、最初の「パリの思い出」が強烈だったのか、「アンティーク陶磁器の第一号」もアビランドのカップ&ソーサーでした。 20世紀初期頃の作品で、薄手の素地の上品な作りが気に入っていたものです。


「アンティーク陶磁器第一号」 Haviland

 そのすぐ後に「英国陶磁器の第一号」を、やはり海外のインターネット・オークションで買いました。ロイヤル・ウースターのミニチュア・バスケット(20世紀初頭の作品)です。後年、18世紀英国磁器のバスケットに入れ込むことになる萌芽がこんなところにあったのでしょうか?(参照作品:ウースター「W12」ダービー「D1-5」ダービー「D1-6」ダービー「D1-7」ダービー「D1-8」

 時とともに関心や収集の対象は変わっていくこともあるでしょうが、ときに「初心」に返ってみるのも悪くはないと思います。


「英国陶磁器第一号」 Royal Worcester

(後日譚)

 冒頭に書いた「ある方」に本コラムを読んでいただいたところ(私の「第一号」がアビランドだったことは既に話してありましたが、写真をお見せしたことはありませんでした)、さっそくコメントをいただきました。いわく「衝撃です! これがダービー学会日本人第一号の方のコレクションの端緒とは」とのこと。そんなに衝撃だとは思わなかったのですが、結局のところ、「第一号」なんてどれもその程度だということの好例なのでしょう。精進します。(「ダービー学会日本人第一号」のくだりについては、耳寄り情報のページ、2007年5月11日の欄をお読みください。)
(2008年2月掲載、更新)