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耳寄り情報


 最近目にした、あるいは耳にした情報で、役に立つものも立たないものも含め、ちょっと面白いと思ったものをご紹介します。全くの不定期で更新しますので、ご関心のある方はときどき覗いてみてください。
掲載年月日 内 容
2020年5月9日 陶磁器学会のオンラインサービス二選

@前回ご紹介したECCのオンライン講演は(私も眠い目をこすりながら参加しましたが)、初回にしては大成功で、さっそく2回目が企画されています。しかも今回は会員以外にも特別に公開されるとのことです。講演テーマは、ドクター・ウォール期のウースターです。ご関心のある方は、ECCのFacebookのページをご覧ください。
https://www.facebook.com/englishceramiccircle

Aダービー磁器国際学会(DPIS)のFacebookのページでは、この4月以降連日のように、ダービー作品1点を選んで、美しい写真とともに解説することを続けています。お勧めです。
https://www.facebook.com/Derby-Porcelain-International-Society-181547771987273/?ref=page_internal
2020年4月25日 陶磁器界もWeb会議

 新型コロナウイルスの猛威の下、英国陶磁器学会(ECC)でもWeb会議が導入されることとなりました。学会の会合が中止になり、そこで予定されていた講演がWeb会議システムを使って行われることになったのです。講演テーマはIsleworth窯(コラム14を参照。)です。これは楽しみです。学会イベントは全て海外開催のため、これまで一度も参加できなかったのですが、パンデミックのおかげ(?)で参加できるようになるとは皮肉なものです。ただ、時差の関係で、開始が深夜0時だというのは少し困りますが。
2020年2月1日 Marching MET - The British Galleries

 2020年3月、メトロポリタン美術館が、陶磁器を含む装飾芸術などの「英国ギャラリー」を改装オープンするそうです。16〜19世紀の700点近くの家具、陶磁器、銀器、タペストリー等が展示されるそうですが、それを告示するMETのサイト(こちら)では、チェルシー製と見られるティーポットを中央に据えた(そして奥にはウースター製と見られるティーポット等も置かれた)写真が掲げられています。これは期待できますね(当面ニューヨークに行く予定はないのですが)。
2019年9月14日 柳よ泣いておくれ

 ブレグジットを題材にとった磁器が登場して話題になっています。まずは、伝統的なブルー&ホワイトのウィロー・パターンが、よく見ると英国と欧州大陸との分断を描いた図柄になっている皿。ハードかソフトかをゆで卵でもじったペアのエッグカップ。さらに、いつまでも決まらないことを揶揄したUncertainTEA Cupもあります。実際のブレグジットをめぐる政治の議論は混迷の度を深めていますが、英国人にはまだこんなユーモアを楽しむ余裕は残っているようです。https://www.brexitware.com/
2019年3月31日 V is very very...

 外国名の日本語表記を定めている法律が改正され、子音のvの表記がヴからブに改められたそうです(例:セントクリストファー・ネーヴィス→セントクリストファー・ネービス)。より発音しやすい表記にしたということかと思います。
 陶磁器の世界で言えば、例えばSevresがこれに当たりますが、一般的には「セーヴル」と「セーブル」の両方とも広く使われているようです。両者が発音上区別されることは少ないでしょうから、結局はどちらでも構わないということなのでしょう。
 ところで、Sevresの本来の発音は、カタカナで書くなら「セーヴ」というのが一番近いようです。語尾のルを取っただけのように見えますが、日本語ではこのルの発音に力が入るので、実際の語感は大きく異なります。18世紀英国の文献では、Seveと表記されていることが多いですが、これも実際の発音に沿った表記をした例かと思います。海外でSevresを発音するときは要注意ですね。

PS:この法律ではイギリスの表記はカタカナではなく「英国」と漢字になっています(フランスやドイツはカタカナです)。
PPS:さらに言うと、英国という表記になる以前は「連合王国」でした。
2018年2月18日 The Minton Archive

 ミントンに関する各種文書がデジタル化されて、2015年9月からオンライン公開されているということを最近知りました。http://www.themintonarchive.org.uk/
 ティーウエアなどのpattern booksや壺などのshape books(現時点ではほんの一部しか掲載されていませんが)、職人たちの記録や工場の写真等々、興味深い資料を閲覧することができます。これからさらに掲載ページが増えていくそうなので、楽しみに待ちたいと思います。
2017年8月6日 こわれた磁器はC

 米国ニューヨーク州のBoscobel House and Gardensという美術館で、"Make-Do's: Curiously Repaired Antiques"と題した展覧会が開催されています。修復されたアンティーク陶磁器やガラス器などの展示で、日本語にすると「もったいない展」といった感じでしょうか。美術館の建物は19世紀初頭に建てられた邸宅で、その各部屋に250点のリベットが打たれたり、金属ベルトで固定されたりした作品が展示されているそうです。美術館自身のサイトでも紹介されていますが、コレクションを提供したAndrew Baseman氏がブログで展示模様の写真をたくさん紹介しているのでご覧ください。http://andrewbaseman.com/blog/?p=12378
2017年2月25日 METの英断

 メトロポリタン美術館が、ウェブサイトで公開している所蔵美術品の画像を、無料かつ無許可で使用できるようにしたと発表しました(ただし、知的財産権が存在しない(public domain)作品の画像に限る)。http://www.metmuseum.org/blogs/now-at-the-met/2017/open-access
 これは画期的な決断です。私も学会誌向けの記事を書くときなど、美術館に画像使用の許可を求めた経験がありますが、手続きは面倒ですし、研究目的であっても使用料を求められることが少なくありませんでした。
 同美術館ウェブサイトの個別作品の解説ページに入ると、自由に使用できる作品には、その画像の下にPublic Domainのマークが付いているのですぐ分ります。アンティーク陶磁器の画像は、おそらく全て自由に使用できると思います。これは便利ですね。まだ白黒画像が多いのが難点ですが。
2016年9月3日 Sotheby's Museum Network

 サザビーズが、2016年8月末にMuseum Networkという、世界の美術館やその収蔵品を紹介するビデオのポータルサイトを開設しました。http://museumnetwork.sothebys.com/
 参加美術館は、現在のところ、メトロポリタン美術館やテートなど米英中心のようですが、台湾の故宮博物院も(現時点ではビデオは掲載されていませんが)参加しているとのことです。他にもロシアやスイスなどの美術館が参加しています。陶磁器関係では、ヴィクトリア&アルバート美術館作成の"The Meissen Table Fountain"という興味深いビデオが掲載されています。他にも色々とあり、なかなか楽しめますよ。
2016年5月28日 Dr Geoffrey Godden (1929-2016)

 "Dr Geoffrey Godden"とだけ題されたメールが、英国陶磁器学会(ECC)から届きました。その題を見ただけで想像はつきましたが、同氏の死去を知らせるメールでした。彼とECCとの60年以上に渡る関係を振り返った上で、葬儀日程を通知するものでした。その後、ダービー学会からも同様のメールが届きましたし、Facebook上でも彼の死去を伝える新聞記事が関係者間でシェアされていました。私は個人的には、同氏に会ったり手紙等のやり取りをしたことはありませんでしたが、本サイトでも度々言及している通り、彼の著述を通じて非常に多くのことを学びました。本当に感謝しています。アーメン。
2016年1月16日 ボナムスで夕食を

 18世紀のフランス磁器セットを使った夕食会のビデオです。オランダのVan Nagell男爵家に伝わるセットを、2015年12月にオークションにかける前に、実際に使ってみるというイベントだったようです。食器の数々が実際にどのように使われていたかを見ることができます。例えば、デザートのアイスクリームが、実際にアイス・ぺイル(アイスクリーム・ぺイル)から供されるシーンなどがあります。テーブルに置かれたフィギュアたち(マイセン製で、同じくその後オークションにかけられました。)も華やかさを添えています。是非ご覧ください。http://www.bonhams.com/video/20798/
2015年6月6日 貸出し中

 学会誌を読んでいると色々な記事があって楽しいのですが、最新のNorthern Ceramic SocietyのNewsletterにこんな投稿がありました。
 「1950年に"Pottery & Porcelain in 1876 An Art Student’s Ramble through Some of the China Shops of London"(1877年発行)という本を買ったのだが、2〜3年前に誰かに貸したものの誰に貸したのか思い出せない。借りた人も返却するのを忘れているらしい。この記事を読んで記憶が呼び覚まされる人がいたら、返却していただけると嬉しい。私たち(この本と私)は60年以上も一緒に暮らしてきたので、互いに寂しがっている」
 投稿者は、本サイトでも再三ご紹介しているGeoffrey Goddenさんです。よほど面白い本なのでしょうね。
2015年4月30日 焼失

 4月29日に、英国サリー(Surrey)州にある大邸宅クランドンパーク・ハウス(Clandon Park House)で大規模な火災があったことが報じられています。18世紀に建築され、現在では国(National Trust)が管理する博物館となっているこの邸宅には、18世紀の英国や欧州の陶磁器も数多く収蔵されています。火が回る前に家具、絵画、陶磁器など多くの収蔵品が屋外に持ち出されたそうですが、National Trustのウェブサイトで調べる限り、陶磁器だけでも400点近くあり、どれだけ持ち出すことができたのか気がかりです。私も18世紀磁器の調べ物をする際にこの邸宅の収蔵品を参照したことがあり、少しでも被害が少なくてすむように願っています。http://www.bbc.com/news/uk-england-surrey-32524445
2014年12月6日 進化するヴァーチャル展示(印刷装飾版)

 “Printed British Pottery & Porcelain 1750-1900”と題されたオンライン展が開催されています。Northern Ceramic SocietyとTransferware Collectors Clubの共同企画ですが、とても充実した内容です。歴史や技術に関する解説はもとより、1,000点を超える作品が写真・解説付きで掲載されています。こんなに手のかかった展覧会、無料で見るのが申し訳ないほどです。みなさんも是非ご覧ください。
2014年10月19日 ECCの次回企画展:Sir Hans Sloane図柄

 18世紀チェルシー磁器にSir Hans Sloaneの名前を冠して呼ばれる植物・昆虫画の作品群があります。彼は医師・植物学者で、チェルシー地区に広大な植物園を保有していました。1750年代にそこにある植物が図版化され、それを基にチェルシー磁器に植物画が描かれたのが、この名前の由来です。元々の図版とチェルシー磁器作品との関係は、従来から研究されていますが(*)、2015年6月に、英国陶磁器学会(ECC)が改めてこの関係に焦点を当てた研究展示会を開催すべく、作品(画像)の提供を広く呼びかけています。当該作品をお持ちの方は、図柄の原典を知るチャンスですね(残念ながら私は持っていませんが)。

* Dr. Bellamy Gardner “Sir Hans Sloane’s Plants on Chelsea Porcelain” EPC Transactions No. IV (1932)
 John C. Austin “Chelsea Porcelain at Williamsburg” Item78 (pp.90-91)
2014年9月13日 Save the Wedgwood Collection

 18世紀にジョサイア・ウェッジウッド自身の発案で始められたという、ウェッジウッド・コレクション。2009年にウェッジウッドが経営破綻し、その負債を返済するための売却・散逸の危機に瀕しています。それを防ぐため、公的資金と寄付による一括買上げに向けた運動が進められています。その名もSave the Wedgwood Collectionと題されたサイトをご覧ください。必要な資金は1,575万ポンド(約27億円)。かなり集まってきているものの、11月末までにあと274万ポンド(約4億7千万円)必要とのことで、広く寄付が呼び掛けられています。250年かけて製造者自らが構築してきた類まれな陶磁器コレクション。必要資金が集まった暁には、同コレクションは国有化されてV&A美術館所蔵となった上で、ウェッジウッド美術館に長期貸し出されて展示される予定だそうです。
2013年12月7日 3D Printed Ceramics

 少し前から3Dプリンターが話題になっていますが、何と陶磁器を3Dプリンターで作る商用サービスがあるようです。単に型を作るのではなくて、陶磁器の素材を使って、好きなデザインで本物の陶磁器を作ってもらえるサービスです。具体的には、Figuloという米国・ボストンの会社のサービスで、顧客(個人でもOK。アーティストなども利用しているそうです。)からオンラインで送られてくるデザインに基づき、陶磁器素材(Alumina silicaとされています。)を用いて3Dプリンターで造型、釉薬をかけて、窯で焼き上げ、箱詰めして発送。コストは大きさによるそうですが、エスプレッソ用のカップなら35米ドル程度でできるそうです。すごい時代になりましたね。http://www.figulo.com/
2013年11月16日 Bow Boom

 このところ、ボウ窯に関する研究発表が続いています。一番直近では、今年(2013年)後半に、これまでも窯判別の論争が絶えなかった国王ジョージ2世の白磁胸像がボウ作品であるとの長大な論文が出版されました(P. Daniels, R. and G. Ramsay "The George II Busts and Historic Wall Brackets")。
 英国陶磁器学会(ECC)は、最新年報(Vol. 23)に2本のボウに関する論文(J.V. Owen and N.G Panes "Bow and 'A'-marked porcelain"とH. Young "A Bow caryatid and its source")を掲載しているのに加え、ボウの転写印刷作品に関するこれまた大論文(G. and S. Guy-Jones "Bow Porcelain On-glaze Prints and their Sources")を別冊として発行しています。
 2006年発行のP. Daniels "Bow Porcelain 1730-1747"以来、ボウ窯に関する研究熱に火がついたように見受けますが、読者にとってはうれしい限りで、今後も読み応えのある研究成果が続々と発表されることを期待したいと思います。
2013年4月6日 こわれた磁器は(ジョージ・ワシントン編)

 米国初代大統領ジョージ・ワシントンが暮らし、今も眠る「マウント・ヴァーノン」。ワシントンDCからもほど近いポトマック河畔にあるこのプランテーションの敷地内では、以前から捨てられた多数の生活用品が見つかっていました。本格的な発掘(Mount Vernon Midden Project)は1990年代に始まり、その成果が今年(2013年)になって、サイト上で公開されています。http://www.mountvernonmidden.org/
 発掘物の中には、中国製の染付け磁器や英国製の陶器などの破片も多く含まれており、興味深い写真とともに詳しい解説も掲載されています。また、記録の残っている18世紀当時の陶磁器等の注文履歴も検索できるようになっており、かなりアカデミックな内容となっています。(なお、マウント・ヴァーノンで使用された陶磁器については、今回の発掘以前から研究が進められており、例えば"George Washington's Chinaware"「コラム8.表紙で選べば」を参照。)でも、発見された破片やその来歴等について触れられています。)
2013年2月9日 Lost Ceramic Arts

 必見。まさにその一言。陶磁器製造の古い技法に関心のある方は是非ご覧ください。
http://www.vam.ac.uk/content/articles/c/michelle-erickson/(下の方にビデオが3本あります。)
2013年1月26日 プレッシャーに負けるな

 キャティア(Cattier)社が、ピノ・ムニエ種100%のシャンパン意欲作をマイセン磁器のボトルに詰めて売り出すとのニュースが話題になっています。(日本でも昨年、サントリーが十四代柿右衛門作の瓶を容器に使ったウィスキーを発売しました。)今回面白かったのは、発泡性飲料に磁器が耐えられるかという技術的困難性が克服された旨もあわせて報道されていた点です。実用品としての磁器作品に関しては、耐熱性について論じられることは多いですが、耐気圧という点はあまり聞いたことがありませんでした。しかし、マイセンはどうやってこの課題を解決したのでしょうか。単に素地を厚くしただけなら少しがっかりですが。
2013年1月19日 それぞれの200年記念

 オンラインの話題が続いて恐縮ですが、ダービー学会がクエーカー・ペッグの200年記念展をウェブサイト上で開催しています(http://www.derbyporcelain.org.uk/id9.html)。何の200年記念かというと、彼のダービーでの第二期が始まった1813年から数えて今年で200年だというのです(「コラム11.ダービー窯「芸術家」列伝」を参照)。何でも記念になるのですね。そこで1813年に他にどんなことがあったか改めて調べてみたところ、@ウースターFB&B期開始、A第一期Nantgarw窯設立(ただし翌年に一旦閉窯)、Bマイルズ・メイソンが磁器製造中止、などが見つかりました。勝手にお祝いすることにします。
2013年1月13日 NCS:不惑のオンライン展

 新年早々、Northern Ceramic Society (NCS)が設立40周年を記念したオンライン展覧会を開催しています。NCSが過去に開催した8つの展覧会を回顧する形で、その各々のテーマに合った作品を会員が持ち寄ったものです。その8つのテーマとは@Collecting Ceramics、APeople and Pots、BStaffordshire Porcelain、CStoneware、DCreamware and Pearlware、EOriental Expressions、FLiverpool、GYorkshire Potsです。かなり幅広いラインアップですので、英国陶磁器に関心がある方なら誰もが楽しめるはずです。まずは見てください。見応えあります。
http://www.northernceramicsociety.org/members.asp(ページの左側に各テーマのタブがあります。)
2013年1月5日 Societies Socializing

 ソーシャル・メディアの浸透は、アンティーク陶磁器の分野でも進みつつあり、最近ではアンティーク・ディーラーにとどまらず、陶磁器学会もフェイスブックのページを持つようになっています。大手学会では、Northern Ceramic Societyが、また窯別の学会ではDerby Porcelain International SocietyとSpode Societyが、各々ページを持っています。あと、英国陶磁器とも関係の深いAmerican Ceramic Circleも持っています。フェイスブックを通じて関心のある学会等の情報を常時入手できるなんて、便利になったものです。
2012年12月22日 つわものどもが夢の跡−窯跡は今(その2) * (その1)はこちら

 ロイヤル・ウースター社は、2009年にその長い歴史を閉じました。ブランド名は同業他社に買い取られましたが、ウースター市の中心部、大聖堂にも近いセヴァーン通りに構える工場(チェンバレン社以来の伝統を引き、最盛期には1,000人近くが雇用されていた。)の建物はそのまま残されています。そのような中、2012年12月になって、この工場の敷地の再開発計画の検討が本格化してきました。芸術家が集う、美術や音楽を中心とした施設を設け、買い物や飲食のできる商業施設も誘致するというコンセプトのようです。工場の建物もできる限り再活用する方針とのことです。あわせて、現在も同地で運営を継続しているウースター磁器美術館(ドクター・ウォール期以来の膨大なウースター作品を収蔵。)も公的資金の導入により活性化させる計画となっています。実現まではもう少し時間がかかるようですが、伝統ある工場跡をうまく蘇らせることができるといいですね。
2012年12月1日 女王陛下のブルドッグ

 ダニエル・クレイグ主演の最近の007映画は、スピード感と陰影ある人物表現で、なかなかの出来栄えだと思います。ロンドン・オリンピック開会の際には、女王陛下を過激にエスコートしたのも記憶に新しいところです。彼の上司Mを演じるジュディ・デンチの存在感もこのシリーズの人気を支えている要素だと思いますが、最新作『スカイフォール』で、そのMの執務机の上にさりげなく置かれている、ロイヤル・ドルトン製のブルドッグの磁器フィギュアが人気を呼んでいるそうです。このブルドッグ、名前は「ジャック」で、白い胴体に英国旗「ユニオン・ジャック」を巻いた愛国心あふれる姿がMI6にぴったりということでしょうか、人気沸騰で今や品切れ状態とのこと。映画をご覧になるときは注目してみてください。
2012年4月7日 お手軽アンティーク判別

 ノキア主催のIdeasProjectという、ネットを使ったアイデアを検討するサイトがあります。そこで「アンティーク作品のマークをスマホのカメラで写真にとって、即データベース検索してメーカー等を判別するシステム」というアイデアが提案されています。題して"Info-snap's (Antique Analysis)"。http://www.ideasproject.com/ideas/17522
 利用例として、以下のような設定が紹介されています。
  Q.このアンティークのカテゴリーは?  A.英国磁器
  Q.この作品の用途は?  A.ティーカップとソーサー
  Q.メーカーは?  A.ウースター(確率50%)
  Q.装飾の種類は?  A.花、バラ。
 アンティークをマークのみで判別することの危険性はもちろんありますが、それでもなかなかいいアイデアだと思いませんか?
2012年2月25日 The Girl in White

 ボナムスが、4月18日予定の英国陶磁器オークションでチェルシー初期の白磁の少女頭像を扱うことを大々的に広告しています(http://www.bonhams.com/)。Louis Francois Roubiliacが造型したもので、これまでオックスフォード大学のアシュモレアン美術館にある一点(こちらは彩色版。E. Adams著"Chelsea Porcelain"に写真あり。)しか知られていなかったものです。所有者は価値を知らずに暖炉上のワインボトルの上に置いていたとのこと。ボナムスの担当部長ガンボン氏は、最初に見たときに心臓が止まり、涙が出た。個人的にはこれまでに作られた中で最も美しい像だと思う、と興奮さめやらぬ様子のコメントを出しています。これまでの英国磁器作品の最高落札価格(£223,650)を上回る可能性も指摘されており、気の早い新聞には「25万ポンド」の数字が踊っていたりします。昨今の円高下でも3千万円を超える金額です。ちなみに、この£223,650は同じくチェルシーの「雌鶏とひよこのスープ入れ」が2003年12月にクリスティーズで記録したものです。
2011年11月5日 Vase Japon

 ニューヨークにある珠玉の美術館フリック・コレクションが、1774年製のセーヴル硬質磁器の壺を入手したと発表しています。(プレスリリースはこちら。)この壺は"Vase Japon"と呼称されているものの、その名称とは裏腹に、形状、装飾両面で中国漢代の作品に由来するものだそうです。プレスリリースからは、この作品についてかなり研究されていることが読み取れます。今後収蔵予定のマイセン作品と合わせて今冬から展示される予定とのことで、陶磁器関係のニューヨークの注目スポットがまた増えますね。
2011年10月15日 Twinight Zone

 ニューヨークの富豪Richard Baron Cohen氏は、19世紀のウィーン、ベルリン、セーヴル磁器のコレクターとして知られており、そのコレクションは2008年から約1年間メトロポリタン美術館で特別展示されていたほどです。コレクションの名前は、彼のロングアイランドにある豪邸の名称"Twinight"にちなみTwinight Collectionと呼ばれています。http://www.metmuseum.org/exhibitions/listings/2008/twinight-collection
 現在、その豪邸(建てられたのは今世紀に入ってからですが、ヴェルサイユ宮のプチ・トリアノンを模したものとのこと)が売りに出て話題になっています。海に面した6エーカー(約24,000u)の敷地に床面積が16,500u、8ベッドルーム、11バスルーム(寝室よりお風呂の方が多いのですね)、12座席のホームシアター、それにジムまで備えて、値段は2,250万ドルだそうです(不動産関係の記事はこちら)。
 こういうスケールの違う海外の豪邸を見るのは楽しいですが、それにしても磁器コレクションはどうなるのでしょうね。邸宅が売られてしまったら、コレクションの名称も変えないといけないのでしょうか?
2011年9月17日 円の国際化

 今年も、英国陶磁器学会(ECC)から年会費納入の案内が届きました。でも今年は例年と異なる点が一つありました。年会費が円建てで支払えるようになっていたのです。
 通貨の国際的地位は、基本的には、それが貿易でどれだけ使われるかによって決まります。ECCの会員になるということは、「同会員としてのサービスを英国から輸入する」ということです(貿易の世界には「サービス貿易」という概念があり、WTOやFTA交渉での主要分野の一つとなっています)。ですから、そのサービスの対価である年会費の支払い(決済)が円建てでできるようになることは、円の国際化が進んだことの一事例となるわけです。日本経済の相対的地位低下に伴い、最近では円の国際化が論じられることも減ってきていますので、ささやかながら、久しぶりの国際的な「明るいニュース」というわけです。そして、最近ECCの日本人会員が増えているのかなと想像して少しうれしくなりました。ちなみに円建ての年会費額は4,400円です。
2011年9月3日 Caughley Blue & White Patterns

 精力的な活動を続けるカーフリー学会から、新著発行がアナウンスされています。同窯のブルー&ホワイト図柄を網羅するもので、満を持しての力作(のはず)です。カーフリーの色絵作品については、数年前に同学会が開催した展覧会"Caughley in Colour"のカタログがとてもよくできていて、私も重宝しているのですが、ブルー&ホワイトについては(最近一生懸命勉強していることもあり)、何かよい本が出ないかなと思っていたところなので、とても楽しみです。実際の発行は2012年前半の予定とのことですが、今購入予約すると、価格が割引(£65→£50)になることに加え、本の中に記載される購入者リストに名を連ねることができます。http://www.caughleysociety.org.uk/PATTERN-BOOK
2011年8月23日 Harry, the Potter

 Harry Sheldonはウェッジウッドの職人として、また後年は研究者として名をなしたが、一方で、長い期間をかけて世界に君臨する膨大なウェッジウッド・コレクションを築き上げた。しかし彼が他界すると、そのコレクションは競売にかけられ、世のファンを狂乱させつつ、瞬く間に世界中に散逸していった。秘宝は全て失われた、人々はそう思っていた。しかし、実は、その一部は息子のHarry Jr.に託されていたのである。息子はウェッジウッドから離れ、ドルトンに身を隠しつつ、再び世界を支配する日の到来を待っていたのである。そして、その日は来た。97日、8日のピーター・ウィルソンにおけるHarryの最後の戦いを見よ。
http://www.peterwilson.co.uk/news.aspx
2011年5月21日 科学捜査

 今月、オークションハウスのボナムスは、英クランフィールド大学と共同で、科学的偽造品判別のプロジェクトを立ち上げたと発表しました。特に、近年人気が高まっている(そして偽造品も増加している)中国磁器に焦点をあて、従来技術とは異なり、作品を傷めないような極少量の素地サンプルから、その作品が真正な骨董品であるか、近年の偽造品かを判別できるようにするというものだそうです。http://www.bonhams.com/usa/press/5759/
 それほどの新技術を投入しないと、プロの目ですら見分けられないほど、偽造の技術というのは進んでいるということなのでしょう。みなさんも気をつけてください。
2011年5月14日 こわれた磁器は(別バージョン)

 スコットランドの北部にブロラ(Brora)という町があります。昨年末の話ですが、この町の海辺にある16世紀末に建てられた製塩工場遺跡で、18世紀ボウの磁器カップの破片が発掘されたことが紹介されました。よくロンドンからそんなに遠く離れた場所でと(極東の国で収集している自分のことなど棚に上げて)思った次第です。http://www.archhighland.org.uk/news.asp?newsid=47
 実は最近、ロンドンの住宅街の発掘で見つかった18世紀磁器片を分類した論文(注)を読んで、窯跡発掘による「何が作られたか」ではなく、消費者によって「何が使われたか」という視点も面白いものだなと思っていたところなのです。ちなみにその論文では、多く見つかった上位3窯は、@ウースター(38%)、Aニューホール(17%)、Bボウ(8%)とのことでした。 (注)ECC Transaction Vol.20 Pt.2
2011年5月4日 2011年の英国優秀美術館は?

 「美術館のための美術基金賞(The Art Fun Prize for museums and galleries)」は、その前年に英国の美術館が実施したプロジェクトの中から、優秀なものを審査員評価と一般投票で選び、最高評価を得たものに賞金10万ポンドを与えるというものです。今年の審査では、一次候補に10の美術館がリストアップされており、その中にはヴィクトリア&アルバート美術館に新設された「陶磁器研究ギャラリー(Ceramics Study Galleries)」が含まれています。5月3日に一般投票が締め切られたところで、今後二次候補が発表されて5月20日から再度一般投票が行われる予定です。一次候補への投票結果をみると、我らがV&Aは第5位となっており、二次候補(例年だと4候補)に残るのは少し難しい状況のようです。ちなみに、一次投票で1位になったのは「人々の歴史博物館(People's History Museum)」でした。結果を楽しみに待ちたいと思います。

http://www.artfundprize.org.uk/2011/longlist.php
2011年4月28日 祝宴の四君子

 英国ウィリアム王子とケイトさんの結婚式が明日に迫りました。久しぶりの明るい話題ですね。
 ある中国人女性が、景徳鎮磁器の茶器をその結婚式の場で使ってもらえないかと働きかけたところ、英国王室から快く受け入れられたそうです。使用されるのは六角形のティーポットとカップで、Blue and Whiteで蘭、竹、菊、梅の「四君子」を描いた中国伝統の図柄にお二人の名前を書き込んだものとのことです。
 これが日本の磁器だったらなお良かったのにと思いますが、しかしこの中国女性の行動力と英国王室の寛容さには感服します。いずれにしても、お二人の末永い幸福をお祈りします。
2011年4月2日 こわれた磁器は

 東日本大震災の厳しい被災状況が続いていますが、コレクターの中には破損した磁器をどう修復するかで悩まれている方も多いのではと思います。そんな中、先般のニュージーランド地震関係で、彼の地の2人の宝飾家が、震災でこわれた磁器片をネックレスなどに加工するサービスを4月頭の3日間、無償で提供するという、心温かいニュースを見つけました。こんな方法もあるのですね。年代物のアンティークには必ずしも向かないかもしれませんが、作品に詰まった思い出を残す一つの方法ではあるでしょう。
2010年12月11日 "Spode Exhibition Online"とRobert Copeland氏

 この10月に"Spode Exhibition Online"というインターネット・サイトが開設されました。スポードの歴史、作品、技術などについての解説が満載のサイトです。「転写作品コレクターズ・クラブ(Transferware Collectors Club)」 が米国・ウィンタートゥア、英国・ポタリーズ博物館と共同で立ち上げたもので、1784‐1833年の同窯の転写図柄をほぼ網羅している他、1820年当時のシェイプ・ブックをページを繰りながら見ることもできます。さらにスポード研究の大家、ロバート・コープランド(Robert Copeland)氏によるビデオ解説もあるのですが、実はコープランド氏は、本サイト開設に先立つ本年9月に他界してしまったのです。同氏はスポード社の旧経営一族直系で、自らも1960年代まで同社の経営陣の一員でした。このサイトは彼にとっての「遺作」と呼ぶこともできるかと思います。
2010年9月4日 最も高価な窯

 先般のゴッデン・コレクションのオークション(「コラム12」参照)の結果と、10年ほど前のワットニー・コレクションのオークション結果とを比較した興味深い分析を目にしました。それによると、窯別の落札平均価格が最も高かったのは、ゴッデン・コレクションでは@ライムハウス、Aランド・ブリストルで、ワットニー・コレクションでは@ランド・ブリストル、Aライムハウスだったそうです。どうやら、近年最も高価な英国窯はこの二つということのようです。(どうりで、私はどちらの窯の作品も持っていないわけです。)
 ちなみに、最も安価だった窯は、ゴッデンの場合は@カーフレイ、Aボウとチェンバレン・ウースター(同率)、ワットニーの場合は@セス・ペニントン、Aバドリー・リトラーと、結果が割れたようです。
2010年7月11日 リバプールの謎の古文書がeBayに

 18世紀のリバプール窯(陶器窯)に関する古文書がeBayに出品されているのを、たまたま見つけました。詳細や真偽の程は分かりませんが、1753年のThomas Shawという人物による土地・建物の契約関係文書のようです。このShawという人物は、リバプール磁器窯の一つSamuel Gilbody窯に関係する人物で、1753年というのはGilbodyが陶器を製造していた父親の死後、自らも陶磁器製造に乗り出すちょうど過渡期にあたり、不明な点が多い時期です。しかし、こんな物までeBayに出るのですかね。既に複数のビッドがなされていますが、本物だとしたら、きちんとした研究者が落札してくれることを期待したいと思います。"1753 Lease Thomas Shaw Pottery Thomas St. Liverpool"というタイトルで出品されていますので、ご関心のある方は覗いてみてください。
2010年4月17日 ダイアナ妃宅の屋根葺き

 故ダイアナ妃出身のスペンサー家の豪邸「オールソープ(Althorp)」の屋根を修復する必要があるそうで(1,000万ポンドもかかるとか)、同邸とスペンサー家のロンドンの邸宅に眠っていた美術品の一部が、今年7月にもクリスティーズで競売にかけられるそうです。目玉はルーベンスの絵画だそうですが、磁器作品では、第2代スペンサー伯爵が1786年に注文したセーヴルのディナーセットや、象嵌と組み合わされた伊万里の壺5点セットをはじめ、チェルシーやマイセンなどの作品が含まれているそうです(カタログはまだ発表されていないようですが)。作品の質ももちろんですが、何と言っても来歴が極めつきなだけに、かなりの高値になるのでしょうね。
2009年9月26日 おばあちゃんのソースボート

 田舎に住むおばあちゃんが養護施設に入居するため持ち物の処分をしようとしたところ、戸棚の中に昔から入れっぱなしになっていたペアのソースボートがかなりの値打ものと分り、地元のオークションに出品したところ、あれよあれよという間に値が上がり、なんと600万円以上という高値で落札され、びっくり仰天。
 何だか絵に描いたような出来すぎの話ですが、実話です。9月8日に英国北西部チェシャー州にあるフランク・マーシャル社のオークションでの出来事で、マスコミでも大々的に取り上げられる事態となりました。そのソースボートの正体は、チェルシー最初期(トライアングル期:1745-49年頃)の作品で、銀器を模したと思われる浮き彫りの上に風景画のエナメル絵付けが施されたもので、裏面に極めて珍しい「染付の三角形」マークが記されているとのことです。このおばあちゃんの家に何世代も前からあったものだそうですが、詳細は持ち主自身も知らないとか。ちなみに、オークションの模様は、BBCの「バーゲン・ハント」という人気番組(2組に分れた素人コレクターがお買い得アンティークの購入で競い合うもの)の中で放映されるとのことです。
2009年2月28日 ECCは富くじで資金集め

 英国陶磁器学会(ECC)から定期報告が郵送されてきたのですが、中にコンサートのチケットのようなものが5枚入っていました。よく読んでみると、これはECCが資金集めのために企画したくじ引きで、一枚当り2ポンド払って登録すると、抽選で各種お買いもの券が当たるというのです。1等はアンティーク店(対象店は、何と!Brian Haughton, Roderick Jellicoe, E&H Manners, Stockspring, Simon Spero, Simon Westmanという有名6店)での700ポンド分のお買いもの券、2等は同じく300ポンド分、3等は書店Reference Worksで100ポンド分、4等はJonathan Horneの出版物65ポンド分を3枚、5等はECCの出版物50ポンド分。こんなにうまい話があるのかと(もちろん獲らぬ狸の皮算用ですが)思わず舌舐めずりしてしまいそうです。
2008年12月21日 スポード美術館の受難

 今般の世界的経済危機は、陶磁器界にも容赦ない打撃を与えています。11月に「ロイヤル・ウースター&スポード」社が倒産して資産管理下に入りました。まずは400人近い従業員と工場を守る必要がありますが、従来から存廃の危機にあった同社傘下の「スポード美術館(Spode Museum)」にとっても、さらに厳しい事態となっています。
 同美術館は、敷地売却により収蔵品の「疎開」を余儀なくされています。資金不足も深刻で、屋根に開いた穴を修復できず展示棚が風雨にさらされているといいます。キュレーターもいなくなり、もはや美術館として機能しておらず、オリジナル銅版(銅版転写用)の一部が廃棄物と間違われて溶解されるという取り返しの付かないミスまで発生しています。
 収蔵品は、英国各地の美術館にとりあえずの保管を依頼しているようです。スポード窯のパターンブック等の文献類はストーク資料館へ、チェルシー窯やダービー窯のフィギュアの型はダービー美術館へ、それぞれ移送が完了したとのことです。残された陶磁器作品についても進捗はしているようですが、同美術館は引き続き一般からの寄付を呼びかけています。ご関心のある方はこちらをご参照ください。
2008年9月21日 メトロポリタン美術館の次期館長にキャンベル氏

 メトロポリタン美術館の次期館長にトマス・キャンベル(Thomas Campbell)氏(46)が決定しました(就任は2009年1月予定)。キャンベル氏は、タペストリーの専門家として同美術館で13年間勤務しており、現在の肩書は「欧州彫刻・装飾美術部長」です。数ある候補者の中ではダークホース的存在で、彼の名前が発表されたときは、かなりの驚きをもって受け止められたようです。いわく、学者肌で、寄付金集めを含め経営能力は未知数であると。ブルーンバーグなどは、同氏が「ビジネス・スクールに見向きもしなかった」と、まるでMBAを持っていないと美術館の運営はできないかのような報道ぶりです。それでも、ニューヨーク・タイムズやウォールストリート・ジャーナルは、彼の実務経験や「美術への情熱」などへの控えめながら好意的な期待を表明しています。いずれにしても、現館長のフィリップ・デ・モンテベロ(館長在任31年間)やその前任のトマス・ホーヴィング(同10年間)という二代続けての名物館長の後継として、しばらくは好奇と期待、そして嫉妬の目にさらされるのでしょう。
 私自身は、彼が装飾美術部門(陶磁器を含む)の出身である点に期待しています。百科事典的コレクションを誇る同美術館ですが、これを機に陶磁器の展示にもう少し光が当てられればと思います。
2008年9月20日 ラルフ・コヴェル氏逝く

 陶磁器マーク辞典やアンティーク価格ガイドでおなじみのラルフ・コヴェル(Ralph Kovel)氏が逝去されました(享年88)。長年に渡って、奥さんのテリーさんと二人三脚でアンティーク普及に努められた功績には大きなものがあります。私自身も彼らのマーク辞典にはお世話になっています(参照文献の「英国磁器全般及びマーク辞典」のページ参照)
 米国オハイオ州にある彼らの自宅は、部屋ごとにテーマが決められて(例えば、書斎はミッション・スタイル、ファミリー・ルームはエジプト復古調、居間はシェラトン&ヘップルホワイト様式−いずれも家具や建築などの様式)、それに沿ったアンティーク作品で埋め尽くされているとか。「我が家は古いものでいっぱいになってしまった、我々自身も含めてね」というのが、彼らお気に入りのジョークだそうです。
 2009年版の"Kovels' Antiques and Collectibles Price Guide"は、ラルフさんが亡くなった直後、2008年9月に発売になりました。夫妻の共著としては今回が最後になりますが、毎年更新されているベストセラーですし、来年以降も奥さんが一人で出版を続けるのでしょうか。タイトルを"Kovels'"から"Kovel's"に変更して…。いずれにしてもご冥福をお祈りします。
2008年9月13日 ナチス略奪の磁器作品−2つの結末

 英国文化省には「略奪品諮問委員会(Spoliation Advisory Panel)」なる機関があります。かつてナチスによって奪われ、現在は英国内の美術館に収蔵されている作品に対する返還要求があった場合に、その対応について勧告をする第三者委員会です。
 2008年6月、同委員会が、フィツウィリアム(Fitzwilliam)美術館のセーヴル窯のグラス・クーラー(monteith)と、大英博物館のウィーン窯の皿について、ナチスによる略奪品(同じ持ち主からの)であると認定しました。前者については、勧告に従い、元の持ち主の遺族(元々はウィーンにあったものですが、遺族は米国在住)に返還されることになりました。一方、大英博物館の方は収蔵品の返還が法律で禁止されているため、見舞金として18,000ポンド(350万円程度)の支払いが勧告されました。(勧告書本体は両作品の来歴なども論じており、読み物としてもお勧めです。)
 遺族はどちらの結末にも満足しているとのことですが、陶磁器の世界の「戦後補償」も、なかなか複雑なようです。
2008年6月14日 サブリナウェアの研究に、カミング財団が助成金

 欧州陶磁器に関する研究に助成を行っているカナダのカミング財団(The Cumming Ceramic Research Foundation)は、2008年の助成対象として、マーガレット・カーニー氏(Dr. Margaret Carney)によるウースターのサブリナウェアついての研究企画(Worcester's Sabrina Ware and the Binns men who were involved at Worcester and in the U.S.A.)を選定したと発表しました。
 私たちの「勉強会」でも、サブリナウェアを一度取り上げましたが(第5回。勉強会のページ参照)、あまり知られていないこの分野の解明が進むことを期待したいと思います。
2008年6月6日 ジャイルズ展、再び−2008年6月17日までロンドンで開催中

 2005年にロンドンで開催されたジェイムズ・ジャイルズ工房の特別展は、最新の研究成果を盛り込んだ企画として好評を博しました(そのときのカタログ、Stephen Hanscombe "James Giles China and Glass Painter (1718-80)" については、ウースターの参照文献のページを参照)。しかし、一方で、対象がウースター製の磁器にジャイルズ工房が絵付けをした作品にほぼ限定され、「伝統的な」ジャイルズ研究の枠を出ていないとの批判も一部にありました。
 そうした批判にこたえるべく、満を持して企画された今回のジャイルズ展"The Early James Giles and his Contemporary London Decorators"は、ウースターと手を組む前のジャイルズ工房の活動に焦点を当てたものとなっているとのことです。主たる対象は中国製磁器ですが、ダービーやリバプールなどの磁器も取り上げられ、さらにジャイルズ以外の独立工房についても考察がなされているようです。私はいつものとおり、カタログでの追体験しかできませんが、取り寄せるのがとても楽しみです(まだ発売されていないようですが、会場を提供している学究的なアンティーク・ディーラー、Stockspring Antiquesのサイトから注文できます)。
2008年4月26日 現代版 「海を渡る有田焼」

 先般来日した韓国の李明博大統領への福田総理からの記念品は「有田焼万年筆」だったそうです。磁器は外交の贈答品として古来重宝されてきたものですが、日韓友好という観点から、李参平が有田焼(伊万里焼)の始祖であるという歴史的経緯も考慮されたようです。
 ところで、この磁器製の万年筆、実は最近開発されたもので、磁器焼成時の収縮度のコントロールが難しく金属部品との接合に苦労があったとのことです。それを読んで、18世紀の西洋磁器でも香水瓶など金属部品を接合部に用いた作品がたくさんあるのに、と一瞬不思議に思ったのですが、考えて見れば、磁器に合わせて個別に金属加工した当時の工芸的手法とは根本的に異なるわけです。
 首脳会談では、中断しているEPA(経済連携協定)交渉再開に向けた合意もなされたとのことですが、日韓の貿易自由化が進展すると、李参平の子孫たちが作った日本の磁器製品が韓国の人たちにも愛されるようになるでしょうか。
2008年4月5日 3年も待てないという人に−台湾・故宮南院の「序曲」展(2008年6月25日まで)

 アジア美術の交流をテーマに建設中の故宮博物院(台北)の分館「南部院区」。すぐにもできるかと思いきや、何と2011年オープン予定とか。話が違うと思っていたら、故宮側も悪いと思ったのか、「アジアの探索−故宮南院の序曲」という特別展を始めました。仏教、織物、陶磁器、茶文化などをテーマに、文化や工芸美術におけるアジア全域での比較論を展開するする内容で、南院開館のあかつきには、これが拡大展示されるということなのでしょう。陶磁器に関しては、特に染付け(青花)に焦点をあて、中国、ベトナム、日本、輸出中国磁器、そして、沈没した貿易船から引き上げた「海上がり品」などが展示されています。今回は、各分野ともさわりだけという感じで、若干、不完全燃焼の感がありますが、まあ「序曲」というのを額面どおりに受け取って、正式な開幕を期待したいと思います。
 なお、並行して、漆工芸や、イスラム玉器などの特別展も開催されており、それらも各々見応えがあります。
2008年3月8日 永遠の謎への永遠の挑戦

 英国最古の磁器窯はどこか−これは永遠に解けないとまで言われている謎です。(コラム2を参照。)それでも、その解明に向けた果敢なチャレンジが続いていて、英国陶磁器界のロマンの一つと呼べる感すらあります。
 昨年の新刊、Pat Daniels著"The Origin & Development of Bow Porcelain 1730-1747"は、かなりの物議をかもしました。ボウであれチェルシーであれ、英国の磁器製造開始は1740年代中盤というのが定説ですから、タイトルにある「1730-1747年」だけでも、その大胆さは推測されるわけです。ボウ窯と米国磁土との関係なども新たな視点から論じられているようで、私も是非読まなければと思っているのですが、50ポンドという価格に躊躇しているところです。
 そうこうしているうちに、英国陶磁器学会(ECC:English Ceramic Circle)の今年10月の研究発表会で、ECC会長のJohn MalletがAileen Dawsonと共同で"The Earliest English Porcelain Factory?"という題名の発表を行うとの情報が入ってきました。いったいどんな内容なのでしょうか。研究発表会に出席できる見込みはないので、内容を知るには2009年発行のECC年報を待たないといけないのがつらいところです。「永遠の謎」とは何かにつけ時間がかかるもののようです。
2007年12月9日 年末大掃除−美術館の場合

 各地の美術館の人手不足が問題化して久しいですが、ダービー美術館(Derby Museum & Art Gallery)の陶磁器部門では、「知識のある人で、週のうち半日程度、収蔵作品の棚卸しリストの作成と簡単なクリーニングをしてくれるボランティアを募集中」とのことです。美術館側としては、悪く言えば「埃はたき」をしてくれる人が欲しいのでしょうが、何と言っても、ダービー磁器に関しては名だたるコレクションを誇る美術館です。貴重な作品に触り放題となれば、私も引退して自由気ままな身であれば…なんて、思っても詮無いことですが。(せめてこの年末は、自分の乏しいコレクションの埃はたきでもしましょうか。)
2007年5月27日 この秋は「庭師」に注目?−クリスティーズのオークション

 チェルシーのミニチュア磁器と言えば「香水瓶」や「針入れ」などが有名ですが、隠れた名品に「庭師像」があります。手押し車やローラーを押したりして働いている人物のミニチュア像です。この5月に、ロンドンのクリスティーズ(South Kensington)で、6体の庭師像が公開展示されました。同じチェルシーの「ハンス・スローン(Hans Sloane)」図柄と呼ばれる植物の描かれた皿などと一緒に、チェルシーのフラワー・ショーとタイミングをあわせて開催された特別展でのことです。そして、この庭師たちは、今年11月のクリスティーズの英国陶磁器オークションの目玉になる予定とのことです。働き者たちの評価やいかに。
2007年5月11日 ダービー磁器国際学会のウェッブサイトが復活

 ダービー研究に関しては最先端をいく「ダービー磁器国際学会(DPIS: Derby Porcelain International Society)」ですが、長らく「修復工事中」だった同学会のウェッブサイトが、ついに再開しました。まだ未完成のページも一部あるようですが、イベントや出版物などは詳しく紹介されています。ご関心のある方は是非一度覗いてみてください。 http://www.derby-porcelain.org.uk/
 なお、私は同学会の日本人会員の第一号であることが密かな誇りなのですが、どうも何年たっても第二号の方が現れないようなので、よろしければ入会のご検討もどうぞ。
2007年3月3日 さまよえるCharles Normanコレクションに、ついに常設展示場

 18世紀終盤のダービー磁器の最盛期の作品からなる珠玉のCharles Normanコレクション(そのカタログは、ダービーの参照文献のページ参照。)は、長い間、その常設展示にふさわしい場所を見つけることができず、英国内外の美術館で特別展を繰り返すという、「さまよえる」コレクションの悲哀に見舞われていました。
 しかし、2006年11月、ついに英国リンカーンシャー州リンカーン市にあるUsher Galleryでの常設展示が実現しました。同ギャラリーは、従来からPinxtonやBrampton-in-TorkseyなどWilliam Billingsley関連の窯のコレクションを有しており、Billingsleyに関する企画展も開催しています(そのカタログも、ダービーの参照文献のページ参照)。Billingsleyのダービー時代の作品も含むCharles Normanコレクションには、まさにうってつけの場所と言えるでしょう。私もいつか訪れてみたいものです。
2007年1月27日 ECCが2007年6月にVauxhall展を計画中

 英国陶磁器学会大手のECC(English Ceramic Circle)が、本年6月にロンドンでVauxhallの展示会を開催するため、会員にVauxhall作品の提供を呼びかけています。主要作品は美術館から集められるとのことですが、少なくとも150作品の展示が可能とのことで、一般会員の所有する希少作品の登場も期待できそうです。これまで体系立てて論じられることのあまりなかったVauxhall作品をじっくりと堪能できる機会になるといいですね。私自身は、この時期にロンドンに行くことは難しそうなので、またもやカタログの取り寄せになりそうですが。
2006年11月4日 英国の美術品盗難事件が一部解決

 2006年2月に、英国の富豪Harry Hyams氏の大邸宅から、18世紀の欧州磁器など合計300点の美術品(評価額で合計3000万ポンド(60数億円)相当。)が盗まれるという事件がありました。窃盗犯は最新のセキュリティ装置をかいくぐり、レンブラント、ルーベンス、ゴヤといった現金化が不可能と思われる絵画にはあえて手をつけず、磁器、銀器、時計などの装飾美術品(いずれも美術館級の作品)を中心に盗んでいったそうです。英国史上最大の美術品盗難事件であり、捜査の指揮官の名前がワトスン警部だというおまけまでついて、英国ではかなりの注目を集めました。
 盗まれた磁器作品には、ヴァンサンヌのプードル像(存在が知られている唯一の作品だとのことです)やボウのモンゴル人ペアの胸像をはじめとして、数多くの人形や食器類などが含まれているとのことです。
 その後、3月下旬には犯行現場から160kmほど離れたゴミ集積場から、盗難品のうち約140点が発見され(ただし、うち30点は損傷)、さらに10月中旬には14人の犯行グループが逮捕されました。警察によると、このグループは計23の窃盗事件に関与しており、今後さらに逮捕者が出る見込みだとのことです。残る作品が一日も早く、かつ無事に見つかり、事件の全容が解決することを祈ります。
2006年10月18日 英国陶磁器学会で電子出版相次ぐ

 デジタル化に関しては若干遅れ気味の英国陶磁器学会ですが、このほどEnglish Ceramic Circle (ECC)とNorthern Ceramic Society (NCS)という二大学会が、相次いでCD-Rom出版を行いました。
 ECCの出版は"British Sauceboats 1720-1850"と題された会員の収集作品による展示会のカタログです。せっかく電子カタログにしたのに検索機能がない点などは残念ですが、すばやくスクロールできてハンディな資料であることは間違いありません。もちろん希少な作品が多く内容的にも素晴らしいものです。
 一方のNCSの方は、過去に紙ベースで出版した7つの展示会カタログをPDF化して収録したものです。新しい内容の出版ではありませんが、PDFでは用語検索もできますし、何と言っても、"Staffordshire Porcelain"、"Oriental Expressions"、"Made in Liverpool"他の興味深い文献が一枚のCDに収められているというのは、とてもお得です。
 これからも、機能的にもさらに充実した電子出版が継続されるよう期待したいと思います。
2006年5月4日 Frank Hurlbutt氏のオリジナル画集がオークションに出品

 20世紀初期に英国磁器に関する先駆的著作を残したHurlbutt氏ですが(同氏の著作に関しては、本サイトのボウの参照文献ページ及びダービーの参照文献ページを参照。)、彼は自分の著書の図版を自ら描いたことでも知られています。昔の陶磁器研究者には、自ら絵筆をとる芸術家肌の人が少なくありませんが、彼はその代表的存在です。そんな彼のオリジナルの水彩画14枚とスケッチ1枚を束ねて画集にしたものが、ニューヨークのオークション・ハウス"Doyle"に出品されていました。(eBayのライブ・オークションにも出ていましたので、ご覧になった方もおられるかもしれません。)内容は、Nantgarw, Swansea, Chelsea, Dr. Wall Worcester, Coalportなどの磁器作品を描いたものだとのことです。予想価格は$6,000-6,500でしたが、結果は落札されなかったようです。今となっては知名度が今ひとつなのでしょうか、私は注目していたのですが。
2006年4月6日 メトロポリタン美術館で「セーヴル展」開催中(2006年8月13日まで)

 “A Taste for Opulence(富裕の嗜好): Sevres Porcelain from the Collection”と題された特別展です。館蔵品約90点による比較的小規模な展示で、カタログも作られていませんが、装飾的な壷やポプリ入れ、皿などの食器類、カップ&ソーサー、ビスケット(素焼き白磁)の人形、針入れなど、バラエティに富んだ美しい作品が並んでいます。
 さらに本展を特別なものにしているのは、かつてヴェルサイユ宮殿にあった家具(机など)で、セーヴルの磁器板を装飾としてはめ込んであるものが、いくつも展示されていることです。歴史的家具をまとめて(さらには間近に寄って)見ることのできる機会はそうはないものです。中にはセーヴル磁器とウェッジウッドのジャスパー・ウェアを組み合わせて装飾した家具まであります。
 会場は一階中央の奥まった少し分かりにくい場所ですので、GWや夏休みなどに本美術館訪問を計画されている方は、お見落としなきようご注意の程。(美術館探訪欄のメトロポリタン美術館のページを参照。)
2006年4月6日 Geoffrey Godden氏がティー・セット情報を募集中

 執筆意欲の衰えることを知らないGodden氏ですが(コラム6 "Godden or God?"を参照)、Northern Ceramic Society(大手の陶磁器学会)の機関誌(2006年3月号)に以下のような内容の記事を投稿しています。
 「現在、私は18世紀の英国ティー・セットに関する本を執筆中です。ティーポットやミルクジャグなどの個別作品ではなく、完全な(あるいは完全に近い)セットを探し出すことは難しく、地方博物館、旧家、個人コレクションにそうしたセットがあることをご存知なら、情報提供いただけると幸いです。写真があればさらに歓迎です。」
 もし、完全な揃いのティー・セット(コラム4 茶道具一式を参照)をお持ちの方がおられたら、Godden氏の著作に掲載されるチャンスかもしれませんよ。
2006年4月6日 新刊紹介:M. Berthoud & R. Maskell著 ”A Directory of British Teapots”

 前著(“An Anthology of British Teapots”)も、写真が白黒のみとは言え網羅的で有用度の高い著書だったのですが(カップ&ソーサーに関する専門書のページを参照)、敢て改訂版を出す積極性には改めて敬服。全てカラー写真に置き換わり、図柄確認の利便性は飛躍的に高まることでしょう。自分で読んでいないので若干無責任な紹介ですが、どなたか買われたらご感想をお聞かせください。(Micawber Publicationsの出版で、価格は65ポンドです。)