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●Accuphase STEREO INTEGRATED AMPLIFIER E-308(その2:改造編)

Accuphase E-308写真

半年あまりこのアンプを使ってきたが、気になることがあった。ゲインが高く、比較的能率のよい筆者のスピーカーJBL Control Monitor 4318、音圧レベルは92dB※注では、通常の音楽鑑賞時にボリューム位置が8時あたりになる。アンプは一般的に定格出力もしくはその半分程度で音が最も良い(歪みや雑音が少ない)から、プリアンプの入力が過小な気がする。スピーカーでの電圧はかなり大きい音でもせいぜい1V(実測)。これから導かれる各アンプの入力はこうなる。

おじさんしかわからないかもしれないが、MMカードリッジの出力じゃないんだから、こんな入力ではどう考えても雑音が支配的になってしまうはずだ。それでもそれなりにいい音がするAccuphaseのプリアンプはなかなかすごいのだが、測定してみたらノイズレベルは-86.5dBAあり、すごいなりにもそれなりに苦しそうだ。
※注:2.83Vで1mの距離で測定した場合。この電圧は8Ω負荷の場合の1Wになる。一般的には90dB程度で、ウーハーが小口径のトールボーイなどでは80dB台半ばのものも多い。

・パワーアンプのゲインを下げると良いのでは?

せいぜい1Vしか出力しないのに、パワーアンプに電圧ゲインなんていらない。ただ、アンプのゲインをいじるとたいてい位相補償がつきまとって、下手にいじると歪みが増えたり、最悪発振したりしてしまうこともある。何かいい方法はないだろうかと、増幅回路の本をあさっていたら、E-308と同じ電流帰還増幅回路を見つけた。この電流帰還では接地側の帰還抵抗をいじる分にはどうも周波数特性が変わらないらしい。E-308のパワーアンプ基板を取り出して回路を確認すると、帰還回路を構成しているのは出力から戻る3.83KΩ2本(低域歪み対策で、それなりに大型の金属皮膜を並列)と接地されている86.6Ω1本、さらにDCサーボ用の(交流的に接地と見なせる)768Ωが1本あるだけ。規格上の増幅度28dBと、これらの値から導かれる増幅度25.6倍も合致している。これなら筆者の手に負えそうだ。

・帰還回路の接地抵抗を外す

出力から戻る抵抗をいじるとカットオフ周波数が変わってしまうので避けたいところ。DCサーボ用の抵抗もいじりたくないので、残るは接地抵抗しかない。それでもこの接地抵抗、開放したところでDCサーボ用が効いているから問題なさそうだ。その時のゲインを計算すると約3.5倍(約11dB)。まず簡単なこれで試してみよう。単純にニッパで切ってしまってもいいのだが、うまくないときに戻せないのも困る。ここは丁寧にはんだごてを使って外した。

・すばらしい特性の改善

E308混変調歪みグラフ右図にパワーアンプ部分のゲイン改善前(緑:ゲイン28dB)と改善後(白:ゲイン11dB)の混変調歪みのグラフを示す。水色は比較用のMultifaceのみの特性。同じ出力(アンプのスピーカー端子で約+10dBu=2.45V)という条件で比較している。素直にノイズや歪みが17dB落ちているのがわかるだろう。ただ、ここではボリュームコントロールがないのでMultifaceでのDA変換前にデジタルミキサーで出力を落としているから、Multifaceの特性(7KHz前後の混変調)がゲインを落とした方が悪かったりする。

さらにその下がプリアンプも通してトータルで特性を見たもの。改善前(緑:ゲイン48dB)と改善後(白:ゲイン31dB)の比較になる。ここではMultifaceの出力レベルは同じで、アンプのボリュームで出力をコントロールしているから素直に特性を比較してよい。Multifaceが出している歪みを除けば、邪魔な信号が全て10dBほど落ちている。なぜ17dB落ちないのかというと、あくまでも推測だが、ボリューム周りの条件が違うからなのだろう。ともあれパワーアンプまでMultifaceの歪みが目立つようになるほど特性がよくなったわけで、これは大きな進歩だ。

今回の改造後、先ほどと同様に1Vの出力をした場合の入力電圧は、

定格の1/10以上の範囲に収まっていて、ほぼ良好な状態にあると推測できる。

ただ注意しないといけないのは、パワーアンプのゲインが下がっているから、音量が小さいからといって下手にボリュームを上げるとパワーアンプの入力やプリアンプの出力の定格を上回ってしまう恐れがあることだ。今回の場合、約4V(スピーカーが8Ωの時で2W)が上限になる。能率の悪いスピーカーだと、もう少しゲインがあった方が安全だ。もっとも高々1Vや2Vの話だから、定格を超えたからといって極端に歪むものではないだろうが、そのような使い方をする前に回路を確認してほしい。

・電子回路を扱える人に限るが効果あり

アンプの特性の良いところを使えるようになるので、測定結果的に目に見えて効果がある。音質的にもよりクリアになっていて、特にピアノ音が美しい。帰還量が増えたせいか、低域の切れもよくなったようだ。通常鑑賞時のボリューム位置が10時〜11時程度になり、調節しやすい点もポイントで、ボリュームの精度もこのへんの方がいいだろう。

トランジスタ増幅回路の知識と経験が充分な人にとって費用はゼロ(あるいは抵抗器数本分でコーヒー1杯)での音質改善だ。筆者のように知識不足だと勉強用の本代がかかるが、下手にスピーカーケーブルに何万円もかけるより、パワーアンプのゲインダウンはよほど効果的に音質を改善することができる。今回は元々Acceuphaseの入力が4mVでもそれなりに聴かせてしまうという素晴らしい特性のプリアンプがあったからこの程度の改善だったが、もっと質の悪いアンプだともっと効果が出るだろう。ただ、半田付けの技術と経験がない人、半導体アンプの回路図を見せられて各素子の役割を判断できないレベルの人は決して手を出さないでほしい。何か問題があっても、個人の責任であることをお忘れでなく。 (Feb.5.2006)

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