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ダービー/マンスフィールド 壺 (1780-1800年頃)
A Derby/Mansfield Vase Ca.1780-1800



 

 ダービーで焼成された壺。カップ型の本体に押し潰した形の取っ手がつき、蓋、それに脚と台座がある。台座裏面に型番が"N101"と刻み込まれている。この壺は、ダービー(D2-15)(こちらの型番は72番)と類似しているが、脚部や蓋の形状に相違がある。壺の型番72番は1774年頃には導入されていたと考えられるが(ただし同年のダービーのロンドン店舗カタログには、この形状の壺は見当たらない)、本品の型番101番が導入された時期はもう少し遅く、1780年前後ではないかと思われる。型番の90番台〜100番台には、以前に導入された形状に少し手を加えて新たな型番が与えられたものが少なくない。例えば、91番は71番に類似しているし、95番と102番は両方とも86番に基づくと思われる。いわゆる"Kedleston Ewer"(ダービー(D2-14)及びダービー(D2-20)参照)は一番若い型番は88番であるが、92番、97番及び98番も類似型である。

 本品で更に興味深いのは、胴体の両面に描かれた風景画である。本品を購入したディーラーの解説では、この絵付けはマンスフィールド(Mansfield)においてウィリアム・ビリングズリー(William Billingsley)によってなされたとのことである。ビリングズリーは、ダービーを辞してピンクストンで磁器窯を立上げたが、1799年にはそこも辞してマンスフィールドに移り、小さな絵付け工房を開設した。

 ダービー時代には花絵の名手として知られたビリングズリーであるが、マンスフィールドでは風景画も含めて多様な絵付けを自ら行ったとされている。(マンスフィールド工房の職人は多くなく、ビリングズリー自身が主要な絵付師であった。)本品の風景画がビリングズリーによるものであるか確証はないが、彼の手によるとされている他の風景画と比べて、特段否定すべき点はないように思われる。購入したディーラーがビリングズリー研究の専門家であることもあり、ここでは特に異を唱えることはしない。

 本品がダービーで1780年頃(あるいはそれ以降)に焼成された作品であることは間違いない(裏面に4つの大きなパッチマークがある)。一方でその時期のダービー作品であれば、窯印が金彩あるいはエナメルで記載されのが一般的であるのに、本品にはそれがないこと、また本品の素地には釉薬のムラなどの傷があることから、白磁のまま外部に売却され、別の場所で絵付けされたものである可能性は高いと考えられる。

 マンスフィールドの工房では、絵付けを行う白磁は、ピンクストン、コールポートなどから購入していた。フランス製の硬質磁器も使用したとのことである。ダービーから白磁を購入していたかどうかは不明であるが、W.D. Johnは下記著書の中で、ビリングズリーは、ダービーが焼成段階で傷のあった二級品のストックを大量に所有していることを知っており、何らかの形でそうした白磁を購入して絵付けした可能性がある、と記述している。ただし、そうした作例はほとんど知られていないのだが、1800年頃にはダービー側でも二級品ストックを活用した事例があり(ダービー(D4-9)を参照)、ビリングズリーがダービーの二級品白磁を購入した可能性もあるであろう。

 なお、本品の台座裏面には、型番以外にもいくつかの数字やマークが刻み込まれている。数字の1はサイズを表すと思われる(1は最も大きなサイズ)。アルファベットはGあるいはCであるが、Gであれば釉薬(glaze)をかけることを指示するものだと思われる。素地に何らかの瑕疵がある場合は無釉のビスケット地には向かないので、釉薬をかけるためのマークを付けておくのである。最後の○とその中に点が打たれたマークは、詳細不明であるが、この壺を組み立てたリペアラーのマークではないかと思われる。



高さ(Height):28.5cm

マーク:台座裏面に全て刻込みで"N 101"、"1"、"G(あるいはC)"及び「○の中に点」。裏面にパッチマーク。
Marks:"N 101", "1", "G (or C)" and a "circle with a dot in it", all incised on the bottom of the base. Patch marks on the bottom.

参照文献/References:
- W.D. John "William Billingsley (1758-1828)" Chapters III and XI
- Ian Deverill & C. Barry Sheppard (The Pinxton Porcelain Society) "Billingsley Mansfield" pp.36-51


(2017年7月掲載)